川越・パンピーポー|気むずかしいハナマンテンから生まれる3つの顔
車にゆられながら、わたしにもたれかかるフランスパンたち。
袋から漂うスモーキーな香りに誘われるように手にとり、こんがりとブラウンにそまった姿をながめてしまいます。
すでにこのときから、ハナマンテンの序章がはじまっていました。
パンピーポー
2022年9月23日、川越で20年愛されたブーランジェ リュネットから生まれ変わり、"パン好きが集う"という思いがこめられた「パンピーポー」という名で再スタートをきりました。
埼玉県産小麦であるハナマンテンは、爆発的な旨みを持ちあわせながらも、パンにするには扱いにくいという個性の持ち主です。
ハナマンテン使いの第一人者として知られるパン職人兼店主の若松大輔さんによって、複雑な風味とおいしさを醸しだすパンに形づくられていきます。
平日のお昼すぎに到着すると、駐車場が空いていて先客なし。パンピーポーのロゴが描かれたオーニングをくぐれば、背の高いショーケースがあらわれ、勢ぞろいのパンたちに圧倒されます。
「初めてきたんです」と伝えるわたしを「ありがとうございます!」と笑顔で歓迎してくれました。初来店で少し緊張していた気持ちがほぐれていきます。
一番人気・おすすめは、ハナマンテンを使ったバタール。次に栗の渋皮煮が入った生チョコフランス。ハナマンテンのロデヴ ナッツフリュイは、テレビ番組に取りあげられて以降、人気になったとお話ししてくれました。
一番人気のハナマンテンを食べ比べ
パンピーポーといえばハナマンテン。人気No1の「ハナマンテン バタール」と、同じくハナマンテンが使われた「パン ド ロデヴ」を購入しました。
ちなみに「ミッシュ」もハナマンテンが使われていますが、冷凍スペースの空きがわずかで、どうしても生チョコフランスを食べたかったという理由から断念……
ハナマンテン3種の食べ比べも楽しそうですね。
パンピーポーで一番人気のパンであり、アイコン的存在の「ハナマンテン バタール」。芸術品のような焼き色とクープのうつくしさにほれぼれします。
ハナマンテンのパンには、共通するおすすめの食べ方があるのでいざ実践! 購入したてはリベイクせずにそのまま、1cmほどの薄さにスライスして食べてほしいとのことです。
まずはそのまま食べると、クラムが吸いつくような舌なじみがあり、一般的なバタールより水分量を感じます。水と酵母のシンプルな構成で味わうハナマンテンの実力は、2~3口目からです。噛めばかむほど小麦と酵母の香りが満ちていき、クセになる味わい。
初めは厚いほうがおいしいのでは? と半信半疑でしたが、薄切りによりクラムからじんわりとにじむ旨みに集中できるという発見がありました。
2日目は薄切りと厚切りの2タイプを用意してリベイクすることに。醤油のような熟成と発酵の香りが漂い、より存在感が強まった印象です。
薄いタイプでパリっとした軽さのある食感を楽しんだあとは、厚いタイプでヒキの強さと複雑な香味を味わいます。どんどん旨み・甘み・香りがふくらみ、ハナマンテンの豊かさにどっぷりつかりました。
ハナマンテンのロデヴのなかでは、ナッツフリュイのほうが人気ですが、小麦と酵母の違いをくらべてみたかったので、シンプルなロデブを選びました。
香りからも酸味感じ、食べればさらに酸味がぐっと感じます。ライ麦のようなひと癖ある味わいではなく、梅のような奥ゆかしい酸味が新鮮です。
バタールと同じく、はじめはリベイクなしでそのままいただきます。クラストのスモーキーな風味にひきつけられてひと口。クラムに舌が触れると、とろけるようなしっとり食感です。
リベイクによって梅のような酸味がじわじわと強まり、ワイルドな風味のクラストが酸に深みを与えます。
同じハナマンテンでもここが違う
バタールとロデヴ、どちらともハナマンテンから生みだされるパン。2つの違いは、酵母と水分量です。
バタールはドライイースト、ロデヴは自家製酵母を使用。ロデヴは自家製酵母が生む酸味によって、バタールとくらべると主張が強い味わいです。さらに高加水なので、みずみずしく・しっとりとした食感のクラムを味わえます。
とはいっても、バタールの個性が弱いわけではありません。ハナマンテンの豊かな旨みがダイレクトに伝わるバタール、独特の酸味と食感を楽しむロデヴ、どちらも忘れられなくなるほど、おいしさの余韻が続きます。
カットするときの刃の入り方、切り心地も異なります。
バタールは一般的なハード系パンのようにザクッと力をこめて刃を入れ、スーッとリズムよくカットできます。
一方、ロデヴはクラストが薄くクラムがやわらかいからなのか、刃を入れるときだけ力をこめ、あとはクラムがつぶれないよう慎重に刃を進めました。
クープからチョコレート色の生地がのぞくフランスパン。フットボールのような、厚みのある形です。
店主の若松さんいわく、そのままよりも温めて食べるのがおすすめとのことですが、せっかくなので3つの食べ方で味わってみます。
はじめはそのまま。フランスパンといいながらも、スライスした状態はふにゃんとやわらかく、クラムのツヤっぽさもあいまって、ロデヴに近い水分量を感じます。
チョコの菓子パンのような甘さが鼻腔に伝わるものの、ほんのりチョコを感じる程度で意外にも控えめ。あたためずに食べると、そこまで印象的ではないのが正直な感想です。
次はアルミ箔でリベイク。たっぷりの蒸気に包まれ、湯あがりのようなビジュアルです。手に持った瞬間、こぼれそうに思えるくらいしっとり、クラストによってギリギリでパンの形状を保ってるようにも感じました。
リベイクせず食べるよりもチョコレート生地の甘さを感じやすく、ほっくりとした食感からすぐなめらかに崩れていく栗部分は、最後のひと口にとっておきたいところです。
最後はいつも通りリベイクしたもの。表面はほどよく水分がとんでパリッと、なかはもっちりとしていて、食感のコントラストを楽しめます。
アルミ箔で蒸し焼きにしたものより、こちらのほうがチョコレート感と栗の甘みをより強く感じました。3つの食べ方を試した結果、個人的にはシンプルにトーストしたものが好みです。
ハナマンテンのおいしさにハマってしまう
お会計を終えてロゴ入りの袋につめられたパンを受けとると、お店のなかでパンの品出しをしている女性が快活な声で見送ってくれました。パンのおいしさにくわえて、接客からもリピーターが多い理由がわかります。
実は紹介した3つのパンのほかに、ハナマンテンでつくられたイングリッシュマフィンを家族用に購入しています。
約5.5センチの厚みがあり、ホットケーキのようなビジュアルでふわふわ・もっちり。3段にカットしたあと、天板に移動させるために持ち運ぼうと重ねると、ぱふっぱふっと音がして食べる前から楽しませてくれました。
「いままで食べたイングリッシュマフィンのなかで一番!」と好評で、また食べたいとのこと。ハード系以外のパンもあれこれ冒険したくなりますね。
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