三鷹・コーヒーハウスTOM|愛され名物「ジジロア」がまだここに
1971年創業、渋谷区・代々木の地で愛され続けた老舗の喫茶店、コーヒーハウスTOM。惜しまれつつも2021年に閉店しましたが、自宅のある三鷹通り沿い(住所は調布市)に移転し、2代目として息子さんが引き継ぎました。
コーヒーハウスTOMが三鷹へ移転したばかりの頃、ひとりでふらっと訪れたという友人。そんな彼女に「絶対気に入るはず」とすすめられ、コーヒーハウスTOMを知ります。
天気に恵まれた平日のお昼にいってみると、マスターのおだやかさと老舗の気品が調和した空間にひたることができました。
コーヒーハウスTOM
コーヒーハウスTOMの近くまで車で向かい、お店までは歩いていきます。
四車線で通行量の多い東八道路から脇道に入ると、住宅や団地が広がり、くらしやすさを感じる街並みです。
道の途中で昭和の面影が残る、コンビニエンスストアらしき個人商店を発見しました。
日焼けで色あせた立て看板や、店前に集う喫煙する地元の方、この場所だけ令和とのギャップがある雰囲気です。お店まで歩いて街を眺める時間もなんだか好きだったりします。
三鷹駅から徒歩で向かうと、約40分かかるほど遠く離れた場所に移転したコーヒーハウスTOM。
自宅の1階を改修してオープンしたので、見た目は普通のおうちそのものです。友人に「ここだよ」と教えてもらえなければ、素通りしてしまうところでした。
慣れた手つきで躊躇せず扉を開く友人に続いてお店に入ると、2代目である現店主・古巻大さんが出迎えてくれます。
平日ということもあり、店内はわたしたちのみ。すかさずお水とメニュー表がやってきました。
代々木の店舗を再現するように、テーブルやステンドグラスのランプなどの調度品をそのまま引き継いでいるとのこと。所々修正されたメニュー表もそのままです。
代々木店から積み重ねてきた歴史を三鷹でも体感できます。
お店の奥に4名がけテーブル、壁に沿って2名がけが2つ、カウンターは7席あります。
コーヒーハウスTOMの名物であるババロア・ジジロアの写真が掲載された卓上カレンダーや、レコード盤を模した時計、大小さまざまなデザイン・大きさのコーヒーカップなど、店内には見所がたくさん。提供されるまで、じっくりと店内の小物をながめながら待ちます。
BGMには控えめなボリュームに絞られた、ラジオが採用されていました。ざらざらとした音質は、かえって喫茶店の味わい深さを引きたてる素材のよう。落ち着いた雰囲気が漂い、ゆっくり読書したくなる空気感です。
名物のジジロアで老舗の味をたしなむ
友人にすすめられ、名物メニューのなかから「ジジロア セット」を注文しました。
ジジロアとはカフェオレ味のババロアのこと。ブレンドの「ストロング珈琲」がついてきます。
一般的なコーヒーカップより小ぶりな、デミタスカップに注がれてやってきました。
口にふくめば、目を見開いてしまうほどガツンとした苦味がじんわりと広がります。ストロングコーヒーの名を裏切らない味わいです。エスプレッソのように小さめのカップに注がれた理由がわかりました。
鼻から抜けるスモーキーな余韻にひたっていると、喫茶店の風格がにじむ店内の雰囲気とあいまって、深煎りってやっぱりいいなとしみじみ感じます。
つるんと真っ白なお皿に、エンゼル型のジジロアがのせられています。
仕上げとして、コーヒーシロップとコーヒーフレッシュのようなものがかかっていました。
ねっとり・なめらかな舌触りと、甘さがきいたカフェオレのような味わい。ワイルドな苦みのあるストロングコーヒーとマッチする、まろやかなコクが伝わります。
ランチ後にうかがったので、食後のデザートにちょうどいいボリューム。お腹が空いているときは、トーストやサンドイッチと一緒に注文してもよさそうです。
前回ジジロア セットを注文したと話す友人は、今回ババロア セットにしていました。
プレーンのババロアに自家製のキウイソースがたっぷりかけられ、真ん中にはちょこんとホイップクリーム。さわやかでかわいらしいビジュアルです。
ババロアにはソフトコーヒーが寄りそいます。ストロングコーヒーとは異なり、一般的なサイズのコーヒーカップに注がれ、お店のロゴが記されたオリジナルソーサーが印象的でした。
ちょっといいことありました
お会計のときにショップカードはありますか? とたずねたところ、実はないんだよねとのこと。
ちょっとがっかりしていると「ショップカードの代わりに……」と言いながら、レジカウンターの後ろにある棚をガサゴソしはじめたマスター。なんとうれしいことに、ロゴ入りのマッチをいただきました!
「まだたくさんあって、どうしようかと思ってるんです」とはにかみながら、どうぞどうぞと渡してくれたんです。
喫茶店のマッチってコレクターが集めるほど貴重なもののはず。そう伝えたところ、誰もほしがりませんよと笑みを浮かべて謙遜するマスターから、温和な人柄をうかがえます。
愛されたTOMの味を三鷹でも
平日の12時頃に訪れたところ、入店から退店までわたしたちのみで貸切のような空間です。
2代目店主の古巻さんと接していると、趣味の延長でコーヒーを追求しているような、心をほぐすゆるさが伝わります。堅苦しくない印象がお店の居心地のよさをつくっているのかなと感じました。
お店の前には日替わりのサービスコーヒーが紹介されているので、コーヒー付きのジジロア・ババロアセット以外を注文の方は要チェックです。
手づくり感のあるお冷のコースターや、歴史を感じるテーブルの手触りなど、実際に足を運んだからこそ肌で感じる、老舗喫茶店の魅力を存分に楽しめました。