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『Longing for Belonging among the Marginalized in Urban Australia』の紹介

神奈川大学外国語学部英語英文学科です。2024年8月の「Professors' Showcase」で紹介したオーストラリア研究が専門の栗田先生の新刊書、『新自由主義時代のオーストラリア多文化社会と市民意識 : 差異を超えた新たなつながりに向けて = Australian multicultural society and citizenship in the neoliberal era : towards new connections that transcend differences』(2024年、法律文化社)に続き、英語版である『Longing for Belonging among the Marginalized in Urban Australia』(2024年、Lexington Books)を紹介します。皆さんも英語の勉強のため、日本語版と英語版の両方を読んでみてはいかがでしょうか?


『Longing for Belonging among the Marginalized in Urban Australia』(2024年、Lexington Books)

皆さんは「citizenship/citizen」と聞いて、何を想像するでしょうか?日本人であれば、日本に住んでいる人、日本語が話せる人など、いわゆる「典型的な日本人」を想像するかと思います。では、多文化社会と言われるオーストラリアはどうでしょう?おそらく最初に思い浮かぶのは英語を母国語とする白人、これが「典型的なオーストラリア人」ではないでしょうか。

 『Longing for Belonging among the Marginalized in Urban Australia』ではオーストラリアの現代社会においてうまく溶け込めず、疎外感を感じている「非オーストラリア人性」をもった人々に焦点を当てています。「典型的なオーストラリア人」、「望ましい人」と必ずしも見られることのない人たちがどのように生活しているのか、彼等はどこをコミュニティとしているのかについて論じています。

 この本では個人主義や競争社会といった新自由主義時代においては、実はこのような疎外感を感じている人々は先住民に限らず、難民そして白人貧困層もまた同様にオーストラリアの現代社会においては「望ましくない人」と見なされていると指摘しています。

 第1章と第2章では、主に先行研究や市民意識、帰属意識、新自由主義などの概念について説明しています。これまでどのような研究がなされてきたのか、その上でこの本が提供する新たな視点とは何かに着目しながら読んでいくとより理解が深まります。

 第3章から第5章にかけては先住民、アフリカ人難民、白人貧困層がそれぞれどのようにオーストラリア社会で一市民としての意識が形成されているのかについて、インタビューデータとオーストラリア政府の政策やメディア報道などの多種多様なデータを使いながら説明されています。実際にそこに住んでいる人たちの生の声を通してオーストラリア社会を理解していくことができます。また、それぞれの人生経験、家族関係などについて読んでいくと、彼等の話は決して他人事ではなく、思いがけず共通点なども見えてきたりします。

 第6章では「非オーストラリア人性」を共有する人々が新たなコミュニティを構築することで新しい帰属意識が生まれていると指摘しており、将来オーストラリアの社会がどのように変化していくのか考えさせられる章となっています。

 本を読んでいく中で明らかになってくることは先住民や難民の間でもアイデンティティが異なっているということです。例えば、先住民の方でも、先住民族としてのアイデンティティを強く持っている人もいれば、先住民族のコミュニティに溶け込めない人もいます。このような個人としてのアイデンティティの微妙な違いなどは実際に住んでいる人たちに直接聞かないと知りえないことなので、人類学ならではの面白さでもあります。また、複数の異なるアイデンティティを持つことの難しさ、現代社会においての生きにくさなどは共感できるトピックかもしれません。

 英語版と日本語版、両方を読んでいくことで英語の勉強となると同時に、書き方の違いなどちょっとしたニュアンスの違いも楽しめます。是非これを機会に『Longing for Belonging among the Marginalized in Urban Australia』を手に取ってみてはいかがでしょうか?


栗田 梨津子『Longing for Belonging among the Marginalized in Urban Australia』(2024年、Lexington Books)はこちらから!

日本語版である『新自由主義時代のオーストラリア多文化社会と市民意識 : 差異を超えた新たなつながりに向けて = Australian multicultural society and citizenship in the neoliberal era : towards new connections that transcend differences』(2024年、法律文化社)についてはこちらから!

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