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マーケターがマネージャーになったら最初に意識すべきこと:「オールB」を目指さないと失敗する理由


マーケターとして実務経験を積み、新しくマネージャーに就いた方、また転職して未経験からマネジメント層になった方に読んでほしい

「チームを動かそうとしても、みんなが同じレベルで動いてくれない」「自分の得意領域は回しやすくなった。ほかの領域も行けると思ってたけど意外と進まない」 「広告やブランドには強いけど、オペレーションやデータのことを考えたことがなかった」
現場で経験を重ねて自信を持ってマネージャーになったはずなのに、いざ組織を任されてみると、これまでの成功パターンだけでは進まない。思ったよりも組織が回らない。なぜこのような状況に陥るのか。そして、どうすれば乗り越えられるのか。今回は、マネージャーとして大事だと思う考え方について、私なりの整理をしてみたいと思います。
ただ、これは私がこれまでのプロジェクトで見てきた事例や、マーケティング職の友人・知人から聞いた話をもとにまとめたものです。絶対的な正解というわけではなく、あくまで一つの参考として捉えていただければと思います。

1章 マーケティングの成功は「オールB」から生まれる

結論から言えば、マーケティングの成果を継続的に最大化するには、「一部の領域で突出した強みを持つ」のではなく、「全体的にバランスの取れた状態」を作ることです。
まず前提として、マーケティングの範囲は非常に広範です。商品開発、ブランディング、コミュニケーション設計、データ分析、オペレーション管理、コスト管理など。(詳しくはこちらの記事にまとめています。)

そしてこの広範なテーマは互いが密接に関連しています。
例えば、どんなに秀逸な広告運用をしても、顧客対応が弱ければ長期的な成果は出にくいです。精緻で意味のあるデータ分析ができても、施策実行の質・量・スピードがいまいちであれば、競争優位性は失われていきます。

チームとしてのマーケティングの成功には「オールB」が必要なのです。すべての領域で最低限の水準をクリアし、バランスの取れた状態を作ること。これが、組織としての継続的な成果をあげる鍵となります。逆に言えば、「一部の領域だけを突出させる」アプローチでは、全体最適が崩れ、長期的な成果にはつながりにくくなります。
もうすこし解像度をあげて説明していきます。

2章 なぜ「オールB」が必要なのか① 偏ったスキルが引き起こす歪な意思決定

「オールB」の重要性は、マネージャーの意思決定の質にも大きく影響します。

得意な領域にばかりリソースを投下しがちになる

多くの場合、マネージャーは自分の得意分野にリソースを振り分けたがる傾向があります。広告運用が得意なマネージャーは広告予算を増やしMTGにも積極的に参加し、データ分析が得意なマネージャーは分析基盤の整備に注力する。
得意分野の旗頭になるのは、偏差値を上げやすく、一見すると合理的に見えます。しかしこの判断が、実は組織全体のバランスを崩す原因となっているのです。

バランスを崩すと、短期的な成果は出せても中長期で競争力を失う

たとえばこれはよくあるケースなのですが。コミュニケーション領域や広告領域の経験があるマネージャーが、さらにレベルをあげるべくチームの時間と予算を集中的に投下します。確かに短期的な売上は伸びていますが、在庫管理や顧客サポートの体制が追いつかず、結果として顧客満足度が低下。リピート率の悪化を招き、1-2年後の売り上げの増加具合は大したことない。

短期成果はこれまでよりも権限が増えているので、自分の得意領域で出しやすくなっていますが、中長期観点では連動している他の領域をほったらかしにはできません。

得意ではない領域では、短期的な成果すら出せないことも多い

意欲的な新人マネージャーにありがちなことですが、得意ではない領域に対してもマネージャーだからと、十分に把握できていないにもかかわらず、価値を示そうと上辺だけの指示を出してしまうことがあります。
その結果、現場が混乱したり、アプローチの見直しが必要になり、むしろ停滞を招くことも少なくありません。
しっかりと向き合わず、表面的に関与するだけでは、短期的な成果どころか逆効果になることさえあります。

ただし影響力が大きいテーマはある

ただし、ここで注意したいのが「すべてを均等にする」必要はないということです。業界や企業の特性によって、特に重要となる領域は変わってきます。例えば

  • D2Cブランドであれば、ブランド戦略と広告運用の精度は特に高めに設定する必要がある

  • BtoB企業なら、リスト鮮度と営業連携のスキルが重要度を増す

  • 小売業であれば、オペレーションと在庫管理の精度が企業の成長に直結する

つまり、「最低限のバランスを保ちつつ、競争力の源泉となる領域はより伸ばす」という考え方が必要です。(というよりも、業界・業種・プロダクト毎に必要なマーケティングのテーマが違う、という捉え方のほうが正しいかもしれません)

3章 なぜ「オールB」が必要なのか② チーム全員が「偏差値70」を目指すことの無理

当たり前ですが、本当はできるならオールAを取りたいです。成熟した組織であるならば目指すべきです。しかしそんな組織は20年弱マーケティングに携わってきた中でほとんど見たことがありません。

高度な専門性を持ち、組織にフィットする人材はレア

マーケティングの各専門領域において深い知見を持つ人材は、多くの場合、事業会社ではなく専門サービスを提供する企業に集中しています。例えば、広告の専門家は広告代理店に、データ分析のエキスパートは分析支援会社やデータベンダーに所属していることが一般的です。
特に10年以上のキャリアを持つベテランは、多様な企業や案件を経験する中で豊富な知見を蓄積し、幅広い状況に柔軟に対応できる力を備えています。そのため、こうした専門人材は多くの企業にとって魅力的な存在ですが、仮に採用できたとしても、自社のカルチャーやプロトコルにフィットするとは限りません。
結果として、高度な専門性を持つ人材だけでチームを構成するのは、採用の観点から現実的ではないのが実情です。

能力の高低は個人差がある

採用が難しければ、必然的に既存メンバーで対応することになります。しかし、学習スピードには大きな個人差があります。新しいツールや手法をすぐに習得できる人がいる一方で、時間がかかる人もいます。
さらに、思考が凝り固まり、新しい領域や考え方、仕事の進め方に対して 反射的に「ノー」と否定してしまう人も少なくありません。そのため、チーム全員を高い専門性を持つ人材へと育成するのは、現実的に厳しいと言わざるを得ません。

外注パートナーの限界

外部リソースの活用も一つの選択肢ですが、これにも限界があります。

  • 外注先が自社のカルチャーや要求水準に合うとは限らない

  • すべての業務をアウトソースするのはコスト的に現実的ではない

  • 品質管理や方向性の擦り合わせにも多大な工数が必要

組織全体としてのバランス

だからこそ、チーム内で最低限のスキルレベルを維持することが重要です。マネージャーの役割は、「全員をハイスペックにすること」ではなく、「チームとして機能させること」にあります。

個々のメンバーすべてに偏差値70を求めるのではなく、チーム全体が一定の水準で力を発揮できる環境を整えることに注力すべきです。各メンバーの得意分野を活かしながら、チーム全体としてバランスを取る。これこそが、マネージャーが意識すべき視点です。

4章 どうすれば「オールB」を実現できるのか?「オールB」を実現するための具体策

〈自分の稼働〉得意領域は効率化、知らない分野にディープダイブ

  • 得意領域に依存せず、弱い部分を地道に補強していく。とくに、初めての領域は新人の頃に戻ったようにぶつかっていくしかないです。なんとなくマネージャーっぽく指示だけ出して報告や相談されるのを待っていもて進んでいきません。

  • そのためには、自分の得意領域はどんどん効率化させていく。高い偏差値を出すことを諦める。自分のリソースを確保する必要があるので、悔しいと思いますがさくっと片づけてしまうようにしましょう。

〈メンバーの動かし方〉偏差値55くらいで自律的に回せる環境づくり

「すべてを完璧にする」のではなく、「最低限のレベルを超える」ことを念頭に考えます。具体的には

  • 絶対に高度にしない(オペレーションが弱いチームには、シンプルなKPI管理の仕組みを導入し高度なKPIにはしない。データ活用が苦手なメンバーには、基本的なダッシュボードを提供し、少しずつ慣れさせる。高度な分析はしない。シンプルで実感しやすいものにする。など)

  • 「新領域」と「オペレーショナルな領域」で、できる人・できない人をうまくバランスさせる。残念ながら無理な人は無理です。割り切りは必要です。業務量や、新しい領域⇔オペレーショナルな領域の配分を雑に考えずに、個人個人のポテンシャル・状態にあわせて設計する。

  • メンバーにとっての新領域は絶対に一緒に動く。情報があまたあり意思決定をすべて任せていると高いレベルを求めて動いてしまうことがあります。一緒に動くことで「これくらいでよい」をレベルを示してあげる。

〈時間軸〉1年スパンでの組織強化

短期的な成果にとらわれすぎず、長期的な視点で組織を育てていくことが重要です。

  • 1~2か月で「全然できない」と絶望しないこと

  • 四半期ごとの目標設定と振り返りのサイクルを確立する

  • 施策の成功・失敗を丁寧に分析し、チームの学びに変えていく

  • メンバーの成長を待つ余裕を持つ

〈目標設計〉楽な目標にするために、上司と戦う

1年スパンの時間軸が必要で、また自分が知らない領域を学ぶ時間も必要です。なのでなにより最初に戦うべき仕事は「ナリユキで達成できる目標設定にする」ことです。短期成果をがしがし積まないと達成できない目標にはしないことです。とはいえ優秀なプレイヤーだった人には当然期待値も高く、自身も意欲的に高い成果を早く出したいと思うでしょう。そこをぐっと堪えて、低い目標を勝ち取ることを目指してください。

まとめ マーケティングマネージャーとして生き残るために

オールBを意識した組織づくり

一部の領域に特化するのではなく、チーム全体でバランスの取れた状態を作ることが重要です。これは短期的には遠回りに見えるかもしれませんが、長期的な成長につながる道筋です。

時間軸を意識したマネジメント

マネージャーになると意欲的になり、成果を出すことにかかり気味になります。焦らずに時間をかけて組織を育てていく。その過程で

  • 短期施策と長期戦略のバランスを取る

  • メンバーの成長に合わせて権限委譲を進める

  • チーム全体の底上げを継続的に行う

優秀なプレイヤーだったことが、マネージャーへの障害となる

マーケターからマネージャーへの転換は、大きな挑戦です。とくに優秀なプレイヤーだったマーケターこそ苦労するイメージがあります。
なぜなら、個人としての卓越した専門性とスキルが、時として組織マネジメントの壁となるためです。プレイヤー時代は自ら手を動かし、成果を直接生み出すことで評価されてきたのに対し、マネージャーには「自分でやる」のではなく「チームを動かし、成果を最大化する」役割が求められます。

優秀なプレイヤーであるほど、自身の高い基準や成功体験に基づいて物事を判断しがちです。チームメンバー全員に同じレベルの実行力や専門性を期待してしまい、結果として組織全体のパフォーマンスが上がらないという事態に陥ることも少なくありません。自身のスキルに頼るのではなく、他者を育成し、組織全体のパフォーマンスを高めることにシフトしなければならないこのギャップに適応するのは容易ではなく、特に成果にこだわるタイプほど苦しむことが多いのです。

しかし、「オールB」の考え方を持ち、適切な時間軸で組織を育てていけば、道は開けるはずです。一朝一夕には実現できず地道に進めるしかありませんが、この考え方を持ち続けることで、マーケティングマネージャーとしての成長は確かなものになっていくはずです。

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