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【マーケティングアジェンダマップ】マーケティングの範囲を考える 〜立場で変わる意味と、実務者のための整理法〜

まえがき

「マーケティングとは何か?」という問いに対して少し調べると、顧客中心主義だったり、売れ続ける仕組み作りだったり、戦略をさしたりと色んな論説が出てきます。
また実務者だと、マーケティングの定義は環境や立場によって変わり、「自分が経験してきたもの=マーケティング」 と思い込んでしまうことも多いものです。
定義の不一致は、大なり小なり不具合を起こすことがあります。
マネージャーに昇進したり、転職したときに、それまでのマーケティングの範囲と異なる業務を求められ、戸惑うこと。大学でマーケティングを学んだ若手が、実務の現場で「学問のマーケティング」との違いに苦しむケースなど。
本記事では、こうした課題を解決するために、「マーケティングの定義がなぜ曖昧なのか?」 を整理し、マーケティングの全体像を俯瞰できるフレームワークを提供します。マーケターが実務で少しでも困らないように。

1章 マーケティングの定義がなぜ曖昧なのか

混乱の原因:3つの視点の違い

マーケティングの全体像が捉えにくい理由に、以下の3つの視点があります。

  1. BtoB企業のセールスメッセージ

  2. マーケティング理論と原則

  3. 企業ごとの独自定義

1.BtoB企業のセールスメッセージ

マーケティング支援を提供するBtoB企業は、自社のソリューションを売るために「マーケティングの新潮流」や「最新トレンド」を発信します。
これらのメッセージが業界内で広がることで、いつの間にか「マーケティングのあるべき姿」として認識されることがあります。
大手のコンサルティングファーム、ベンダー、商社などのBtoB企業は、広告出稿額やビジネスモデルの影響力が大きく、官公庁やメディアに対しても強いメッセージ力を持っています。
こうしたメッセージが小さくない影響力となって、クライアントはBtoB企業に対してメッセージの内容を相談しにいきます。
そこで案件化することになれば、BtoB企業はさらに案件化した内容を官公庁やメディアに事例として紹介・共有しに行きます。
そしてまたクライアント企業は競合他社に遅れてならないと、BtoB企業に相談することになります。
そうしていつの間にか、BtoB企業が発信したメッセージが業界を回る話題のテーマとなっていき、現代のマーケティングの中心となるアジェンダはそれなのである、と思い込まされます。

BtoB企業のセールスメッセージが伝播していく様
案件化するとスパイラルも発生する

2.マーケティング理論と原則

マーケティングには、アカデミックな定義やフレームワークが多数存在します。
例えば、アメリカマーケティング協会(AMA)は、以下のように定義しています。
「マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、そして社会全体にとって価値のある提供物を創造、コミュニケーション、デリバリー、および交換するための活動、一連の制度、およびプロセスである。」
また、マーケティングの基本フレームワークとして「4P」「3C」「STP」などがあります。
これらはまったくもってその通りでマーケティングの根本であるし、本質だと思います。
しかし現場のマーケティング活動と直接結びつかない場合もあります。これらはマクロ観点であることが多く、そればかりを意識している状態だと、いざ実務になった際に、これらのフレームワークや考えが全く関係ない(ような)業務を行うことになり、ギャップを感じ、自分はマーケティングをやりたいのにな、、と絶望することがあります。

3.企業ごとの独自定義

企業によって「マーケティング」という言葉の指す範囲は異なります。
多くの場合、社内で「マーケティング」とされるものは、マーケティング部門と名付けられた組織を指すことが一般的です。そのため、たとえマーケティング関連のテーマを扱っていても、組織名に「マーケティング」が含まれていない場合、それが営業部門の活動と認識され、「これはマーケティングではなく営業だ」と捉えられることも少なくありません。
これもマーケティングの範囲が人により異なる大きな要因の一つです。
以下の図は一般的な部門名とミッションです。マーケティングと呼ぶかは企業ごとにより異なります。

マーケティングのテーマと部門

2章 実務におけるマーケティングの5つの領域

マーケティングの本質的な意味は、「マーケティング理論と原則」にあると考えます。これらについては、先人たちが分かりやすく整理し、さまざまな記事や書籍にまとめています。
しかし、実際の現場では「何をすればよいのか?」「マーケターとしてどこまで求められるのか?」といった問いに直面することが少なくありません。
そこで本記事では、実務者がマーケティングの現場で把握しておくべきテーマを整理し、マーケティングの領域を理解できるようにしたいと考えています。
それが以下のマーケティングアジェンダマップになります。

マーケティングアジェンダマップ

マップの特徴と課題

このマップの作成には、いくつかの課題がありました。まず、領域間の明確な境界線を引くことが難しく、また領域同士が重複する部分も存在します。さらに、理論と実践の間にはギャップがあり、時代とともに各要素の意味合いも変化してきています。
これらの要因により、マップの構成や内容に関しては様々な解釈が存在します。しかし、各領域(マップ内の各ボックス)にはそれぞれの専門家が存在し、各領域を見れば、その分野のエキスパートを容易に想像できるほど、マーケティング実務において明確な役割とタスクが確立されています。マーケターたちの思い浮かべるマーケティングのテーマ群であると思います。

各テーマの深度

マップ内の各テーマ(ボックス)は、それぞれがさらに広く深い世界を内包しています。例えば、「ブランディング」や「SEO」といった個別の領域には、それぞれ専門的な知識や技術が蓄積されています。

マップは大きく次の5つのエリアで構成されています。

◆戦略エリア

マーケティング戦略の策定と実行に関するテーマです。
市場分析、競合分析、STP戦略の立案、ブランド戦略の策定などが主要な要素です。これらのテーマは、企業の長期的な市場での成功と競争優位性の確立に不可欠です。
コンサルや事業会社ではマネジメントレイヤーたちが携わることが多いエリアです。

◆商品エリア

製品やサービスのライフサイクル全体をカバーするテーマです。商品企画や設計から始まり、テストマーケティング、流通戦略の立案、営業戦略の策定、在庫管理に至るまでの幅広い領域を含みます。
これらのテーマは、市場ニーズに合致した商品開発と効率的な供給体制の構築に不可欠です。
商品部や開発部という部門名であることも多いと思います。また学生の方はここがマーケティングだと思っていることも多い印象です。

◆ユーザー接点エリア

エンドユーザーとの接点を最適化し、購買行動を促進するためのテーマです。顧客体験の設計、広告戦略の立案、販促活動の企画・実行など、顧客との多様なタッチポイントを管理し、最適化するためのテーマが含まれます。
これらのテーマは、ブランドロイヤルティの構築と売上の直接的な向上に寄与します。
マーケっぽいエリアではないでしょうか。代理店の主戦場でもあります。

◆テクノロジーエリア

デジタル時代のマーケティングに高頻出な、データとテクノロジー活用のテーマです。マーケティングオートメーション、ビッグデータ分析、AI活用での業務効率化など、先進的なツールと技術を駆使して、データドリブンな意思決定と効率的なマーケティング活動を実現するためのテーマが含まれます。
これらのテーマは、マーケティングの精度と効率を飛躍的に向上させ、競争力の強化に直結します。
BtoB企業の功罪でマーケにおいてデータや便利そうなソリューション群が神格化されたことで、マーケっぽさが増したエリアだと思います。

◆パフォーマンス管理エリア

マーケティング活動の効果測定と質の担保、また継続的な改善に関するテーマです。予算管理、リソース配分の最適化、業務品質管理や、エージェンシー・ベンダー管理などが含まれます。
これらのテーマは、マーケティング投資の効率を最大化し、マーケティング推進の土台となります。
事業会社にいないと見え難いエリアだと思います。

以上がマーケティングといえる範囲であり、マーケターがあつかうテーマは非常に広範であると思います。

3章 変化し続けるマーケティング:自らアップデートが必要

マーケティングの世界に、固定されたルールはありません。時代や市場環境の変化、テクノロジーの進化に伴い、「マーケティングの範囲」も常に変化し続けています。

例えば、かつてマーケティングは「広告や販促活動が中心」と捉えられていましたが、デジタル化が進むにつれてデータ分析やCX(カスタマーエクスペリエンス)へ焦点が集まるようになりました。
また、BtoB企業が発信する「最新のマーケティングトレンド」も次々と登場し、業界の注目テーマは絶えず移り変わっています。

こうした変化の中で、マーケターとして成長し続けるためには、「学び続ける力」 が不可欠です。自ら積極的に情報をキャッチし、マーケティングの定義をアップデートし続ける姿勢が求められます。

マーケティングは数年単位で大きく変わる

私自身、マーケティングに携わって20年弱になりますが、テーマの変化は数年単位では小さくとも、5年・10年のスパンで見ると確実に大きく変化していると実感しています。

かつてはテレビCMやマス広告が主流だった時代がありましたが、デジタル広告が普及し、データドリブンなアプローチが一般化しました。今では、AIやパーソナライゼーションがマーケティングの中心になりつつあります。

マーケティングが変化し続ける以上、今持っている知識や経験だけに頼っていては、次第に市場の動きに取り残されてしまいます。「マーケティングとは〇〇である」 と一つの定義に固執するのではなく、変化を前提に、柔軟に考え続けること が重要です。
マーケターに求められるのは、「常に学び、変化を捉え、適応する力」 なのだと思います。

  • 本記事に掲載されている「マーケティングのテーマと部門」 「マーケティングアジェンダマップ」 は、以下のライセンスのもとで提供されています。

  • クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際(CC BY 4.0)

  • 本作品は自由に利用・改変が可能ですが、クレジット表記(著作権者の表示)が必要です。詳しくは、クリエイティブ・コモンズの公式ページ をご覧ください。https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja


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