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日本で健康診断、アメリカで再検査? 在米日本人の医療との付き合い方
日本に一時帰国する際、私は必ず健康診断を受ける。もちろん、日本の保険には加入していないので全額自己負担になるが、日本の健康診断には十分その価値はある。
アメリカには定期健康診断という考え方はなく、保険の内容によってAnnual Physical Examがうけられるが、内容は身体測定に近い。アメリカでも「かかりつけ医(Primary Care Doctor)」を通して、日本と同程度の検査を受けることは可能であるが、天文学的な値段になることは間違いない。私は、日本では検査項目が多い10万円くらいのものを毎年受けているが、CTやMRIもしてくれ、アメリカと比べたら破格の値段だ。カリフォルニアでMRIなんて受けたらそれだけで50万円はくだらないだろう。
価格と品質の両面で日本の健康診断は最高だが、「要再検査」となると困ってしまう。一時帰国で健康診断を受けると、結果が出るのは、アメリカに戻った後だ。そこで「要再検査」となるとアメリカで受けないといけない。
私のいつも受ける健康診断にはがんの腫瘍マーカーが入っている。よくわかりもせずに沢山の項目を検査しているが、なぜかCA19-9という胆嚢がんや胆管がんを調べる数値だけ毎年高い。胆嚢が何なのかも実はよく知らないが、基準値を下回ったり、上回ったり毎年境界線をさまよっている。
今住んでいる所でその検査だけ受けると$200。天文学的ではないが、安くはない。一度受けたことがあるが、その際はすれすれ基準値を下回って無罪放免。だけど、まぐれと言えばまぐれで、その再検査にどれだけの意味があったのかは疑問だ。CA19-9という検査に対する医者の反応もまちまちで、
えっ!?CA19-9!がんの腫瘍マーカーじゃない、すぐに再検査ね!
へぇ、ところでなんでCA 19-9なんて受けたの?がんがあるの?
と人によって真逆の反応。今のかかりつけ医にいたっては、私の前でググって調べる始末。ググっても良いけど、患者に見えないように調べてくれよ、せめて。
日本人の二人に一人はがんになるというのに、がんという病気についてあまりに不勉強なので、この度、『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』という本を読んでみた。
本書は3人のがんの専門家が、基礎知識から、本当にするべき治療や検査を紹介するというもの。世にはびこる、がんについての勘違いやミスリーディングな情報に対して、専門家の視点から適切に指南するということを目的にしたもの。主要なメッセージは、「がんは、手術・放射線治療・抗がん剤治療という保険適用の標準治療が最高の治療であり、先進医療が優れているわけではない」という点。先進医療に対応した高い保険を売りつける保険会社や「とんでも医療」をまことしやかに法外な値段で売りつける民間医療がはびこる昨今の情勢に警鐘を鳴らしている。
がんの本は山のようにあり、本書だってそのうちの一つに過ぎず、単純に鵜呑みにはできない。が、本書が他書と一線を画するのは、あふれかえる情報の読み解き方を専門的な視点で解説をしている点だ。特に『第5章 「トンデモ医療」はどうやって見分けるのか』では、トンデモ医療を見分ける6つのポイントが求められており、情報の成否を判断する視点が提供されている。この章だけでも本書を読む価値は十分にある。本章の冒頭では
教育レベルや収入が高い人ほど、怪しいがん治療法にだまされやすい
という指摘が、実際の研究データと共に紹介されている。専門家、研究者らしく、常にその主張を裏付けるデータと研究が提示されているので、信頼度は高い。
なお、私が困っているCA 19-9については下記の記述が紹介されている。
CEAやCA-19-9などの腫瘍マーカーは、私たち医師が臨床現場で一般的ながんの診断の補助(すでにがんと診断されている方に対するがんの進行度の評価など)に使っている腫瘍マーカーであり、検診目的(がんかあるかどうかの評価)で使用することは推奨されません。がん検診に使うには感度が低く、がんを見逃してしまうことが多いからです。
確かに腫瘍マーカーは偽陰性と偽陽性があるというのは見たことがある。上記の引用は以前のかかりつけ医が「へぇ、ところでなんでCA 19-9なんて受けたの?がんがあるの?」ということとも整合し、納得感が高い。本書では、検査によってがの死亡率が減少している証拠のある、信頼度の高い検査方法が紹介されており、これも重要な情報だ。ここだけとっても、1,650円という本書の値段はお釣りがくる。
アメリカは医療制度が日本とは大きく異なる。自己負担の比率が高いので、「その検査や治療は本当に必要なものなのか?」ということを日本以上に考える機会がある。医療は、もちろん良い医者にかかることは大事だが、それと同様に受信者側にそれなりのリテラシーが求められる。自分の身体のことなので、最後は自分で決断をくださなければならないことは、日本でもアメリカでも同じことだ。在米日本人として、日米の良い所をそれぞれ活かし、医療と賢く付き合っていきたい。