プシュプに2つのルールがある理由...ゲームを構成する「感覚」と「論理」

(※以前書いた記事を全体的に修正して再掲したものです)

 プシュプはスマホ向けの対戦落ちものパズルゲームです。上下に分かれた2つのフィールドで連鎖を組み、フィールドそのものを押し合って競います。
 このゲームの大きな特徴が「FEEL」と「THINK」という2つのルール。2人で連鎖を撃ち合うという基本構造は同じながら、FEELでは連鎖を消している最中でもブロックを「置ける」、THINKでは「置けない」という違いがあります。一見すると些細なこの違いが発端となり、プシュプには全く異なる2つのゲーム性が生まれました。

 本記事ではプシュプの開発経験をもとに、コンセプトを守りつつ偶然を生かしていくゲームデザインと、「感覚と論理」でゲームの要素を整理する手法を提案していきます。複数のアイディアが対立してうまくまとまらない...そんな問題にぶつかった時に役立つかもしれません。

速さを追求する楽しさ 薄れていく駆け引き

 多くの落ち物パズルでは、ブロックが消えている間は新しいブロックを追加することはできません。消えたブロックの上にあるブロックが落ちたりしてフィールドが落ち着くまで、短い時間ですがプレイヤーの手が止められます。
 ゲームによってまちまちですが、ぷよぷよやドクターマリオといった有名どころの落ち物パズルはだいたいこのパターンに沿っています。プシュプも例外ではありませんでした。

 ただ、開発中のゲームはいろんな部分が未完成です。初期のプシュプではそもそも「ブロックが消えている間は操作を止める」という処理がなく、連鎖中でもブロックが置けてしまいました。作っている本人からすればバグのようなものです。
 しかし、連鎖中にブロックが置けると何となく面白いと感じることに気づきます。消えていくブロックの周囲に新しいブロックを追加すると、そのまま連鎖を足していくこともできてしまう。まるで連鎖が生き物になったようでした。

 これに拍車をかけたのがブロックを置くスピードの調整でした。フィールドに落ちるまでの時間を極端に短くすると、連打するようにして大量のブロックを配置することが可能になります。
 連鎖が終わる前に次々とブロックを追加することで、途切れさせずにどこまでも伸ばしていくことすらできる。操作に慣らすうちに自分の積みが速くなり、消せるブロックの量が増えていくのは爽快でした。

 開発中に起きたバグが思ったより愉快だったり、パラメータをめちゃくちゃにいじっていたら予想外の魅力が生まれたりするのは、ゲーム開発では良くあることです。しかし偶然生まれたこれらの価値は、明らかにゲームのコンセプトと矛盾していました。
 プシュプが目指していたのは「駆け引きが奥深い対戦パズル」です。自陣でブロックを消すと、相手陣地の同じ列に妨害ブロックを送り込めるようになっていて、ある程度狙った箇所を攻撃できます。この仕組みを通して相手と対話するようなゲームにしたいと考えていました。

 連鎖中でも休まずブロックを追加できるとなると、相手の攻撃によってこちらの連鎖が崩れても柔軟な補強が可能です。妨害されてもほとんど無視できてしまうのです。
 ブロックの配置を高速化すれば、送り合う妨害ブロックの量も一気に多くなります。連鎖が勢いよく破壊されては、それを素早く補修する。緻密に計算したり相手の陣地を見たりする暇はなく、ひたすら己の速さを追求するゲームになっていました。
 コンセプトからは離れていくのに、このスピード感は捨てがたい。思わぬ中毒性が生まれつつありました。

 加えて、上記の新要素を除外して予定通りに設計してみても、思ったほどコンセプトである「駆け引き」が生じないのも気がかりでした。
 相手陣地に干渉して妨害することはできるものの、それで有利になる状況は限定的。無理に駆け引きを仕掛けても、さほど勝率に影響しているようには見えません。あと一歩何かが足りない状態でした。

 当初の方向性がぱっとしない中、偶然生まれた魅力は膨らむばかり。このままゲームの軸がずれていくのを許容していいものか、どうにもしっくり来ませんでした。

感覚的なゲームと論理的なゲーム

 これは昔から漠然と想定していたことなのですが、「ゲームの要素は大まかに2つに分けられる」と僕は考えています。1つは感覚的なもの、もう1つは論理的なものです。

 例えば、アクションゲームは基本的にリアルタイムでゲームが進行し、ちょっとした操作の違いで毎回展開が変わっていきます。一歩一歩精密にキャラクターを制御することは難しく、直感的に、あるいは臨機応変に判断していくことが求められます。
 比較的パターンが作りづらく、手早い思考で状況を俯瞰するようなゲームを「感覚的である」と表現しています。

 対して、ターン制で進むシミュレーションゲームやパズルゲームなどでは、決まった操作をくり返すことは容易と言えます。数手先をおおむね正確に読むことができ、ゲーム状況の遷移を緻密にコントロールすることが可能です。
 一定の型が出来上がりやすく、じっくり一点ずつ凝視していくようなゲームを「論理的である」と解釈しています。

 世の中のゲームが単純に2つに分類できる、ということではありません。「リアルタイムに進むゲームはしばしば感覚的」「マス目で管理されたゲームは論理的になりやすい」といった具合に、大まかにゲームの要素を分類するための理論です。
 そして自分の経験則から言えるのは、感覚的なものと論理的なものは安易に混ぜてはいけないということです。

 わかりやすい例として、将棋をリアルタイムに遊ぶことを想像してみてください。ターンにとらわれずいつでも好きなだけ駒を動かせると仮定します。
 相手がどんどん駒を進めてくるとしたら、じっくりと次の一手を練っていても意味がありません。とにかく速く、少しでも多くの駒を取りに行った方が有利になるでしょう。駆け引きは失われ、将棋本来の奥深さは損なわれていきます。

 ゲームが論理的であるというのは、言うなれば制約が多いということ。将棋の場合、1ターンに1つの駒しか動かせない、マス目に沿って動かさなければいけない、などが該当します。
 限られた選択肢しかないからこそ、対戦相手の行動を先読みすることが可能になる。ここが対戦系のゲームで駆け引きを担保する要です。

 将棋ほどかっちりしたものではないですが、プシュプが目指していた方向性も論理的なものでした。イメージしていたゲームスピードはやや遅めで、相手の陣地も見ながら対応していくようなシステムにしたかったのです。
 連鎖中でもブロックを置けるようにしたり、ブロックを置くスピードを上げるということは、感覚的な仕様に切り替えていくことを意味します。駆け引きを失う代わりに、アクションゲームのような爽快感が芽生えていました。

 アイディアを取捨選択し、絞り込まなければシステムは完成しません。しかし、感覚と論理という定義でもって自分のゲームを整理していくうちに、落とし込む先は一点でなくてもいいと直感したのです。

分離し、特化する

 上記の理論に従って2つのルールを作ることにしました。それぞれ「FEEL」「THINK」と名付け、まずは個々の土台や方向性を明確に定めます。

 FEELはスピード重視のルールで、何より速さを極めることを是としました。消した連鎖数に応じてブロックを置くスピードが上昇し、さらに連鎖を伸ばしやすくなります。
 少しでも効率よく加速し、相手より多くのブロックを消して、物量でねじ伏せる。直感的な連鎖センスと迷いの無さが勝負を分けます。

 THINKは駆け引き重視のルールで、相手とのやりとりを核にしました。連鎖中にブロックを置かなくていいので相手陣地を見やすく、全体的にゲームスピードを遅めにしています。
 1つの大きな連鎖で一気にフィールドを押し込むチャンスがあり、手数による力押しは利きません。どこで仕掛けるべきか、常に判断を求められます。

 2つに分けることで、それぞれのルールをさらに特化させることが可能になったのも大きな収穫でした。相反する仕様に惑わされることなく、個々のルールのコンセプトだけに従って掘り下げられるようになったのです。

 例えばFEELでは「セカンド」という仕組みを導入しました。1つの連鎖が消えていく間に2つ目の連鎖を起動することで、送り込む妨害ブロックの量を通常より増やすことができます。

 1つの連鎖を維持するだけだと、プレイヤーの積み速度が増すに連れてフィールドにブロックが余ってきます。そのブロックを用いた追加の攻撃を可能にしたのがセカンドです。
 さらに大量のブロックを消す意味が生まれ、攻撃力の上限が取り払われました。プレイヤーの速度の上昇にどこまでもゲームが応えられるようになったのです。

 対してTHINKでは、妨害ブロックによって相手の連鎖を弱体化できるようにしました。敵陣のブロックがつながるようにずらしてやると、強制的に連鎖を発動させることができます。勝手に消された連鎖はパワー(フィールドを押し込む力)が大幅にダウンします。

 このゲームの土台である「狙った箇所を攻撃できる」システムを生かし、相手陣地の弱点を突くことが可能になりました。それをかわすために防御的な連鎖を組むなど、独特の戦術も生まれています。
 敵に干渉する手段が増えたことで自陣と敵陣の関係性は密なものになり、対戦相手との駆け引きがより豊かになりました。システムを磨き込むことで、ようやく当初のコンセプトが実現したのです。

2つのルールが教えてくれたこと

 ゲームを作る上で、最初に想定していたアイディアがそのまま形になることはまずありません。予想外の壁にぶつかるだけでなく、魅力的なトラブルが転がっているものです。
 その中から筋のいい偶然を見逃さないことが肝要です。コンセプトと関係ないからとすぐに投げ捨ててしまえば、想定内のものづくりしかできなくなります。

 かといって思いつきに振り回されていると、簡単に当初の方向性を見失います。計画が行き詰まり、コンセプトを捨てた方がいいのかと迷う時も。
 1つ1つ問題を潰し、最後の微調整でようやく実現するコンセプトもあります。何かが足りない、という意識をしつこく持ち続けるべきです。

 偶然と計画、最後までどちらも捨てなかった経験が僕の糧になりました。ルールを2つに分ける発想や、感覚と論理という分類が他のゲーム作りでも役立つかもしれません。このnoteが誰かの開発の一助になればと願っています。

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