手抜きを個性に変えるゲームデザイン

ゲーム開発初心者にありがちだが、自分の力量を超えた難しいゲーム開発に挑戦して行き詰まるパターンは多い。市販のゲームが高度な技術の上に成り立っていることに気付かず、憧れのゲームデザインをいきなり真似ようとして挫折する。
 それでも失敗を乗り越えて、何年も修行を積んでから大きな夢を叶える人もいる。それはそれで良い経験なのだが、理想のゲームを必ずそのまま実現する必要はないのでは...と僕はしばしば思う。

特に小規模な開発の場合、大抵「何を作るか」より「何を捨てるか」の方が重要だ。手を抜くことは何ら恥ではなく、むしろ素早く試行錯誤を回した方がセンスは磨かれる。
 ここでは僕が個人開発してきたゲームを例に、アイディアの要点を見抜いて簡略化するコツを語っていく。引き算のゲームデザインを覚えれば視野が広がり、当初のアイディアにこだわりすぎない柔軟な思考が身に付くはずだ。

「いい加減」な物理演算

「バブルゲーム」は滑るような泡の動きが独特な物理パズルだ。泡をくっつけて連鎖を起こすとフィールドが広がるのが特徴で、全体的に泡がぐいぐい動き回るアクション性の高いパズルゲームになっている。
 この手の物理パズルは既存の物理エンジンを使う場合が多いと思うが、僕の開発環境ではそういった便利なものはないので、自前で物理計算を行っている。しかしこの手のプログラミングはそれなりに面倒なのが分かっていたので、最初からかなり手抜きを意識していた。

まず物体の形は円形だけに絞り、当たり判定処理はお互いの距離を見るだけで済むようにした。様々な形状の物体をぶつける一般的な物理演算と比べるとだいぶ簡単だ。
 強引に押し込むと泡同士がかなり重なったりもする。これは当たり判定処理という意味ではバグに近いのだが、泡の柔らかい感触を表現するならむしろしっくり来る。

もっと言えば物体間の摩擦もないし、回転運動もいい加減だ(スプライトをそれっぽく回しているだけ)。実は物理演算と呼ぶにはかなり胡散臭い実装をしている。
 泡という柔らかくあやふやな物体をテーマにしているので、ツルツルと滑るような不安定な動作でも違和感が出ない。むしろ、こういった手抜きがしやすいようわざと泡をテーマに選んだ所がある。
 もしプログラミングが苦手で思った通りに実装する自信がないなら、こういった工夫である程度ごまかすことが可能だ。真面目に高度な処理を書かなくとも「そういうゲームだから」で成立するケースは多い。

一般的な物理演算ゲームの場合、物体の山の中に新たな物体を押し込むと急に暴れたりしてバグの原因になりやすい。バブルゲームでは強引に泡を差し込むことも可能で、これは恐らく自前の単純な物理演算だからこそできたことではないかと思う。
 上下左右どこからでも泡を追加できるので様々な連鎖を狙えるし、ぐいぐい泡を押せて単純に感触も楽しい。攻略的にも手触り的にも手抜き物理が力を発揮している。
 市販のゲームなどを参考に「まずはちゃんとした物理計算を勉強しよう」と考えていたら多分こうはならないだろう。もっと楽に実現できないか...と逃げることで、結果的に予想外のアイディアが浮かぶのが創作の面白い所だ。

ステージを自分で作らない

「ワラワラッシュ」は1つの操作で多数の自機(キャラクター)が一斉に動くアクションパズルだ。移動・ジャンプのみのシンプルな操作性ながら、ピクミンのような分業・効率化ゲームの側面も持っている。

「複数のキャラクターが同時に動く」という本作のアイディアを膨らませるにあたり、一般的なパズルゲームのようにステージを1つずつ手作業で作る(レベルデザインする)こともできたと思う。例えば「複数のスイッチを同時に押すと扉が開く」といったギミックを用意すれば、地形とスイッチの組み合わせで様々な問題を作れるかもしれない。
 ただ、ステージを1つ1つ積み上げていくのはなかなかの手間だ。遊びの幅を広げたいなら色々なギミックも考える必要がある。どうせならもっと楽に、かつ拡張性のあるゲームデザインにできないか?と僕は考えた。

そこで思いついたのが「掘削」という仕様だった。地形にダメージが蓄積していずれ穴が開く仕組みにすれば、道すら繋がっていないぐちゃぐちゃなランダム地形でもゲームとして成立する。
 沢山の自機が一斉に壁を掘ると地形に様々な変化が起き続けるので、ステージの初期形状が少し変わるだけでも攻略手順ががらりと変わる。掘れば掘るほど自機が増えていくという独特なゲームに仕上がった。
 手作業によるレベルデザインを避けた結果、ランダムならではの予想外で多彩な遊びが広がった。実質ステージは無限に生成できるが、その1つ1つに思わぬ攻略法が見つかるのがワラワラッシュの醍醐味だ。

ランダム生成のステージがパズルとして面白いのか?と疑問に思う人もいるかもしれない。実際どのステージもクリア(フィールド上に散らばった宝石を全て掘ると終了)だけなら簡単で、時間を掛けて掘り続ければ物量でごり押しできてしまう。
 実はこのゲームの本質はタイムアタックにある。複数の自機を並行して操り、無駄なく素早く掘り進めようとすると、全てのステージが急に奥深いパズルに化ける。

難解なパズルゲームではしばしば「これ本当に解けるのか?」と疑いたくなるような問題が出てくる。じっくりステージを見つめながら何度も試行錯誤していくと、ふと思わぬ解法を閃きハッとさせられる...そんな経験はないだろうか。
 ワラワラッシュの場合、効率の良い掘り方を模索する内にこの「閃き」に至る瞬間がある。1つの気付きにより急激にタイムが縮み、これこそがこのステージで最も速いルートかもしれない...と自分で納得する時があるのだ。

一般的なパズルゲームは解けるか解けないかの2択になりがちで、問題が簡単すぎるとゲーマーは満足しないが、難しすぎると解けないプレイヤーがストレスを抱えることになる。難易度をどう調整してもジレンマからは抜け出せない。
 その点このゲームは「どこまで解くか」がプレイヤーに委ねられている。次々とクリアだけして気軽に流してもいいし、それなりに速いタイムを出して満足してもいい。そして全ステージでみっちり効率化を追求すれば、本作はボリュームたっぷりの高難易度パズルに変貌する。
 これは普通のパズルゲームとはだいぶ毛色の違う設計ではないかと思う。ステージを厳密に手作りせず、ラフな遊び方が通用するシステムを模索した結果、パズルが苦手なプレイヤーでも気軽に遊べる作品になった。

バブルゲーム、ワラワラッシュという2本のゲームを例に挙げたが、どちらも比較的少量のプログラムで成り立つ小さな作品だ。技術的にも物量的にも難しいことをしていないからこそ、ゲームの本質的な面白さにだけ時間を注ぐことができた。
 いかにも大変な作業は避ける代わりに、そこから生じた個性を伸ばすよう工夫するのが大切だ。「どのように手を抜くか」はクリエイターの腕の見せ所であり、新しいアイディアの源泉となるものだと考えている。

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形:ゲーム開発
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