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【介護施設】退所時の私物の取り扱い。ご家族にすべて引き渡し、施設での処分を安易に引き受けない
■ 施設に入所したら、いつか「退所」もある
高齢者が介護施設に入所するということは、今や珍しくない。施設に入所後にまたご自宅に戻る(ご家族と同居する)ということも少なからずあるが、お亡くなりになるまで施設で生活することもまた珍しくない。
介護施設に入所するということは人生において一大イベントである。
それは当人だけでなく、ご家族だって慎重に吟味する。
施設費用もあるが、やはり死ぬまで生活することになると言う想定で施設を探すため、当人にとって安心して住める環境を選ぶのは普通の考えだ。
しかし、入所に関しては慎重になれど、施設を退所するとき、つまり施設を出ていくときの想定までされる方はほとんどいない。
もちろん、施設入所の契約をする際に重要事項説明書などで退所となった場合の説明はするだろうが、入所だけで精一杯なのに退所の想定なんてできないのが現実と言える。
また、「退所する=入所者がお亡くなりなる」という考えになるため、入所する当人はもとより、そのご家族だって死んだときのことを想定することは難しいだろう。死は誰もが平等であるとは言え、目をそむけたくなる話なので、どこかで「まだ先の話だろう」となるのは仕方ないかもしれない。
それでも、いつかは「そのとき」はやってくる。
そのときになって施設を退所する手続きや処理は出てくる。
そして退去時の対応の1つとして「私物を引き上げる」という作業があるわけだが、これが意外に厄介である。
■ 高齢者の私物は多いし、意外に増える
介護施設で生活している高齢者は私物なんて少ないと思われるかもしれないが、意外にそうでもない。事前に見学いただいたり、居室の収納範囲や必要最低限の物品は伝えておくものの、本当の引っ越しのように荷物を持ってくる方はいる。
クワや鎌などの農工具を持ち込こもうとされたり、ブレーカーが落ちるのでないかというレベルの電化製品を搬入しようとされたり、舞台俳優なのかと思うほどの衣類を運んできたこともある。
もちろん、収納範囲を伝えて入りきらない分はお引き取りいただくわけだが、それで終わりというわけにはいかない。
入所後にお店で買物をされたり、デイサービスで自作された作品や行事でいただいた装飾品なども増える。そして、面会にお見えになったご家族からのお土産やプレゼントだってある。人によっては友人からお手紙だって届くので、大切に保管することもある。
普通に暮らしていても気が付くと物はどんどん増えていくが、施設に住んでいても意外に私物はどんどん増える。
これは仕方ない話であるとは言え、それが結果的に退所時の引き上げや処分に影響を及ぼすことは言うまでもない。
■ ご家族の厚意は嬉しいが・・・
このように施設に入所したときですら私物の搬入は大変だったのに、退所時にはそれ以上の量になってしまう。
こう言っては何だが、たとえ親や身内の私物とは言え、他人の私物を片付ける・引き上げる・廃棄処分するというのは想像以上に大変な作業である。
ここでよくありがちなのは、ご家族から「施設で使うものがあれば、もらってください」というご厚意だ。
これは「介護施設ならば衣類や寝具は必要だろう」というイメージからのご厚意であると思われる。あるいは、施設で少しでも引き取ってくれれば引き上げや廃棄処分が減るという期待もあるだろう。
しかし、介護施設の運営および経営面の視点から言わせていただくと、ご家族からのご厚意であっても、私物を引き取ることはやめたほうが良い。
つまり、「退所時の私物はすべてご家族に引き取っていただく」ことを原則として考えることを強く推奨する。
と言うのも、退所のたびに使えそうなものを引き取っても、それはそのとき「あれば使うだろう」「あったほうが良いかも」と思っても、結果として未使用のまま置きっぱなし・・・なんてことになりかねない。
それはただの不要在庫であり、倉庫などの貴重な保管スペースを圧迫することにもつながる。衣類や寝具だと適切に保管していないとカビなどの温床にもなって不衛生だ。
ご家族のご厚意はありがたく受け取りつつ、私物は受け取らないほうが無難なのだ。
■ 施設での処分は引き受けないほうが良い
また、仮に私物は受け取らないとしても、ご家族によっては「必要な物は持って帰るので、あとは施設さんで処分して構いません」と言うこともある。
特に寝具としてマットレス、掛布団、毛布、タオルケット、枕、タオル類、そして衣類などは廃棄対象となりやすい。これらはシングルベッドを簡単に占有するほどの量になる。
それを施設で処分すると簡単におっしゃるが、それらを廃棄する作業をするのは施設職員であることを忘れていないかと言いたくなる。
また、施設職員も安易に「わかりました、こちらで処分します」と引き受けるものの、経営視点から言わせていただくと廃棄処分費を施設で支払っているという事実を忘れている。
少し話が脱線するが、介護業界は利用者側も介護現場も、このような無自覚な無償対応が多いと思う。だからこそ、サービス業というビジネスなのに経済として発展しない原因の1つになっていると歯がゆさを感じる。
・・・まぁ、このあたりを言っても仕方ない話であるが、ひとまず廃棄処分費も含めて金額設定して有償対応にするか、ご家族に廃棄業者を紹介するなどして、ご家族主導で廃棄したほうが良いと思う。
■ トラブル回避のため
ちなみに廃棄処分をする際には、ちゃんとご家族の立ち合いのもとで行うことを推奨する。そうでなければ、しかるべき文書を作成しておき、廃棄業者とご家族の署名をいただこう。
その内容には「この廃棄処分および以降の私物に関しては、施設では一切関与しないこととする」などの文言があったほうが良い。
これは上記でお伝えしたように「ご家族に全て引き取っていただく」にも通じる話だが、廃棄処分に施設が関与すると後々トラブルになるリスクは少しでも軽減しておいたほうが良い。
ほとんどない話ではあるが、退所後しばらくしてから「すいません、廃棄するときに✕✕はありませんでしたか?」と聞かれたり、引き取った私物から貴重品やお金が出てくることもある。
こうなると、キレイに最期のときを迎えても、家族間のごたごたに巻き込まれることになりかねない。
ご家族によっては親子間の関係性が悪いことから、退所時には立ち会っていただいても以降に連絡がつかなくなることもある。そうなると、貴重品やお金が見つかったときの処理に非常に困るのはご理解いただけると思う。
ここまではちょっと大げさに書いたが、廃棄するときに小銭が出てきたり、補聴器が出てきた経験はあるので、このようなこともあってなるべくご家族に処分いただくようお願いしている。
何度もお伝えするが、やはり私物は全てご家族に引き取っていただくのがベストである。
――― 本記事は少し施設側の都合みたいな言い方になったが、入所と同様に退所時も私物は(ご本人がお亡くなりなった場合は)ご家族に任せてしまったほうが後腐れないという話だ。
ご厚意であっても安易に私物を引き取ることは、資材管理という意味で施設運営に影響をきたしたり、その後に貴重品などが見つかったときの退所にも困る。
また、いらないものは施設で処分してもらえると思われても困る。特に退所してからの介護以外の処理なので、それをタダで行うというのは違うと思う。それこそビジネスライクに「お引き取りいただけない場合、処分はご家族様で行っていただいております」と伝えるべきだろう。
「お亡くなりになった後なのだから、そのくらい施設でやればいいのでは」という意見が出るかもしれない。
もちろん、そのような考えを否定するつもりはない。本記事は単純に私の個人的な意見である。しかし、退所に対してメリハリとけじめをつけるならば、やはり入所と同様にご家族が引き受けることが大切だと思う。
それもまた、1つの供養ではないだろうか・・・。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。