
人事の立場として、同時ダブルワークを始めることは推奨しない理由
副業や兼業、そしてダブルワーク ――― 色々な言葉はあれど、現代は1つの仕事に拘らずに色々な仕事をすることが容認されている。
その理由は様々だ。働く動機は多くの場合お金のためだが、キャリアアップのため、社会貢献のためなど人それぞれで構わない。それは「どう働くか?」は「どう生きるか」が根本にあり、それは自分自身で決めるものだからだ。
人の生き方に対して、あれこれ口を出すことは野暮な話だ。失敗も含めて、その結果は自分自身が享受するだけのことである。
とは言え、少しだけ野暮な口出しをさせていただきたい。それは、ダブルワークを考えておられる方々に対しての警鐘でもある。
私は介護事業の経営および運営をしているが、その中で人事も担っている。
その中で介護で働きたいという方々と面接し、採用して、そして勤務していただく中で、昨今ではダブルワークという言葉が増えている。
分かりやすく言えば、「掛け持ちで介護の仕事をしたい」ということだ。
流石にフルタイムは困難だが、パートタイムや派遣といった形態で1日3~4時間の勤務をしたり、週2~3日間の勤務など可能であると見込んで、介護の仕事を希望するわけだ。
求人を出している立場からすれば、こちらのニーズとマッチしていれば構わないので、掛け持ちだろうがダブルワークだろうが関係なく採用する。
採用後は業務内容はOJTで覚えていただき、未経験者であれば介護の基本中の基本も教える。本人の不安が軽減するまでは研修期間を続ける。
ある程度の業務や基礎スキルが身についたら1人前、というわけではないがひとまず人員としてカウントされるようになる。それはダブルワークの方でも派遣でも同様だ。
しかし、その後問題なく業務をこなしていたのに、半年もしないうちに「実は辞めようと思ってます」とか「派遣期間満了で終わるつもりです」と言う人がいる。
その理由の1つに「ダブルワークが辛くなってきた」というものがある。
仕事内容に不満があるとか、人間関係のあれこれとかいう話ならばまだ協議しようがあるが、これはどうにもならない。
一応話を聞くと、同時期にそれぞれの職場で勤務したものの、やってみて自分が思っていたよりも大変だったということに気づいた、というのだ。
もちろん、当人としてはダブルワークは大変だということは承知だし、お金を稼ぐという目的があるから頑張りたいようなのだが、やはり同時に新しいことを始めるのは心身への負担が大きいのだ。
そこで、ダブルワークの1つを辞めて負担を軽減したいという考えなわけだ。特に介護は肉体の負担がダイレクトな仕事なので、そこを削るというのは自然な考えだ。
――― が、一方で見込みが甘いとも思ってしまう。このような人がいるからこそ、私はダブルワークという前提がある方に対しては、失礼ながら年齢や肉体面も踏まえて、両立可能かを面接にて再三確認する。
実際、このような人は同時に新しい仕事としてダブルワークを始めるにあたり、周囲から「大変だと思うよ」「どちらか片方が落ち着いてからのほうがいいのでは?」と心配されると言う。
しかし、人間には、他人から言われるほどに自分の力量を高く見積もってしまうという心理がある。
これも1つの見栄なのかもしれないが、そこで心配されるほどに「大丈夫、自分ならできる」と過信する。そして、結果的に見込みが崩れて心身のバランスを崩してしまう。
また、ダブルワークをするということは、肉体や精神面だけでなく、1つの職場で勤務をするより時間制約を受ける。いわゆる「自分の時間」が減る。
それは余暇を楽しむだけではなく、子供や親に何かあったとき、自分の生活環境を維持するための時間も含まれる。家庭環境や年齢によっては、お金のためだけでなく、このあたりも考慮しなければいけない。
このあたりを考慮せず、自信過剰になってお金を稼げるはずのダブルワークという言葉に乗っかってしまうと苦労する。
これは今年に入ってだけでも、採用してきたダブルワーカーの方々を見ていると色々なトラブルに見舞われているように伺える。場合によっては急な欠勤につながるケースも珍しくない。
さらに「ダブルワークは大変なので辞めます」とまで言われると、上記でもお伝えしたように、ダブルワークでも頑張れるという前提で採用して、時間をかけて教育もした意味が無駄になってしまう。
別に、職場に迷惑をかけないように「無理にダブルワークを続けろ」という意味ではない。そんなことをしたら、それこそ倒れてしまう。
しかし、ダブルワークをするならばもう少し検討してほしいと思う。
特に同時に新しい職場でダブルワークを始めることは、リスクがあるということは分かってほしい。それは当人の肉体や精神面の話だけではなく、ダブルワーク先の職場にも影響があるからだ。
本人にとっては「やっぱりダブルワークは大変」という気づきで終わるかもしれないが、採用した側からすれば痛手である。業務を1人で遂行できるようになるまでのコストもそうだが、急な休みへの調整、そして新しく人員募集しなければいけないという対応が生じてしまう。
人事としてこのような背景は伝えたいし、ダブルワークをしている方や考えている方々には1%でも分かって欲しい。
もしも、ダブルワークを考えているならば、いきなり2つ同時に新しい仕事をやらないほうが良い。
まずは1つ足場を固めていって、職場にも仕事にも体を慣らしながら次の職場を検討することを推奨する。
ダブルワークを非難するつもりはない。むしろ、お金も経験もどんどん稼いでいくことができるならばやった方が良いと思う。
しかし、ダブルワークがしやすい世の中になったとはいえ、人間のスペックが向上したわけではないことは理解した方が良い。
そもそも、基本的に人間はマルチタスクできない。その時間で脳で処理できるのは1つのことだけだ。その事実は受け入れよう。
また、人間は自分という存在を高く見積もってしまいがちだ。「できる」と自信を持つのは構わないが、見込みも根拠も実力もないまま物事を始めると、自分だけでなく周囲にも悪影響になってしまう。
特に家族のことも考えなければいけないならば、場合によってはダブルワークよりも役所に行って支援や補助を受けることが考えたほうが良いかもしれない。
夢を追うときは突っ走ってもいいかもしれないが、それをダブルワークにも適合しようとすると痛い目を見る可能性がある。
ダブルワークを始める前に、まずは自分の体力や生活環境も踏まえて一考したうえで、それでも大丈夫ならば2つ同時でなく1つずつ始めることを改めて推奨して記事を締める。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。