介護現場は臨機応変な対応は得意だが、これからは計画的に仕事をすることに慣れることも必要
他業種から介護業界で働くようになった身として思うことは、介護従事者は計画的に仕事をすることに慣れていないということだ。
あくまで私見だが、この傾向は特に施設職員に強く見られる。
具体的には、その日の時間単位で臨機応変に仕事をすることは得意なのだが、一定の期間を設けて成果を出す仕事をするとなると動きがにぶる。
例えば、「今日は午前中のうちに入浴介助を10名終わらせる」というならばできる。利用者の状態や行動に合わせて臨機応変に対応し、予定よりも早めに終わらせられることもある(良いのか悪いのかは別として)。
一方、「今週中に施設入居者の衣替えをしましょう」となると「できるときにやる」「空き時間でやる」といった感じになって、気が付けば「他の対応が忙しくてやる時間がなかった」と言い週末になって何も手つかず、ということもある。
このように、介護従事者はその日・その場を乗り切る能力は異常なまでに能力が発達しているが、方針や予定、手順や担当者などを具体的に落とし込み、計画的に進行する能力に乏しい。
何だかバカにした物言いだが、これは仕方ないと思っている。
その理由は2つある。
1つは、介護現場ではその日・その場を臨機応変に行う場面が多いからだ。そのため、時間単位でやり抜く能力が高くなるのは自然のことと言える。
もう1つは、この逆である。介護スタッフ個人あるいはチーム単位で具体的な行動を計画を立てて進行するという機会が少ない。そのため、計画的に仕事をするという能力が延びにくい。
もちろん、これらは介護の仕事全般を指しているわけではない。介護現場ごとに週間の大まかなスケジュールはある。しかし、それが固定化されてルーチンワークになってしまうと、勤続年数が長い介護ほど、スケジュールに基づいて仕事をしているという認識は薄いようにうかがえる。
偏見のような話であるが、このような考えは訪問介護および介護タクシーを運営および実務を担っていた経験にも由来している。
訪問系の介護の仕事はスケジュール管理を徹底していないと、文字通り仕事にならない。道路状況やトラブルも考慮して効率的に動くことが必要だ。
しかし、介護現場によっては(良くも悪くも)予定が施設主導になるほどに「今日は忙しかったから仕方ない」とか「空いている時間に少しずつやろう」と言って具体的な計画を立てずに曖昧に終わることが少なくない。
この違いは何かというと、仕事を通じて予定や計画を立てる思考が養われているか否かだと思う。
前者は利用者(顧客)ベースの仕事なので否応なく計画を立てる思考が身につくが、後者は現場ベースの仕事なので先延ばしが可能になってしまう。
もちろん、先延ばしする代償もある。「空いている時間にやろう」と言って具体的な予定を立てないでおくと、次々と新しい用事やトラブルが差し込んでしまうので、やろうとすることが一向に足止め状態になる。
そうして終いには忘れてしまって、何かのタイミングで「しまった」「やろうと思っていたんですよ」となってしまう。場合によっては事故を誘発することもある。
とは言え、介護業界全体で「計画性をもった仕事をしよう!」なんて声を荒げるつもりはない。ハッキリ言えば、利用者と直接関わる介護従事者にとって計画立案などのスキルは別に必要ない。
予定や計画を立てるスキルは、管理者レベルはもちろん、現場リーダーや計画作成担当といった役割になって身につけていけば良いと思う。
――― と、少し前ならばそれで問題なかった。
しかし、昨今の介護業界の動向をみると、法令や制度が複雑化していることから、介護事業に求められていることを正確に理解し、それを計画的に実施する体制が必須になっている。
そのため、特に介護現場が大好きで、その日1日を臨機応変に対応しているのに慣れた介護従事者であるほど、これからの介護サービスを提供するうえで波に乗れなくなる可能性がある。
予定や計画を立てる1つとしても、背景や根拠を抑えておく必要がある。
そこで「数字」に慣れておいて損はないだろう。
失礼ながら、介護現場では主観で物事を捉え、感覚で語る人たちが少なくない。そこに数字や知識を用いた途端に嫌悪感を示す。
しかし、そんなことを言っている場合ではない。特に管理者クラスにおいては、行政への提出書類などを作成するにあたって文章を理解と数字で処理をする場面がたくさんある。
例えば、介護報酬や介護職員処遇改善加算といった国から受給する金銭に関わるものは「分かりませんでした」では済まされない。これは特に計画書や実績報告を提出するとともに、ちゃんと経過管理も求められる。
このように考えていくと、ずっと介護現場で利用者に直接介助を行うことを考えている場合は別として、介護業界でキャリア構築を考えている方ならば現場業務を通じて予定や計画を立てること、それに基づき仕事をすること、数字などの根拠をベースに介護を行うことに慣れたほうが良いと思う。
そのためには、日々の仕事で「空いている時間にやろう」と言う言葉が出そうになったら、「✕月✕日の〇時頃から、その日の出勤者2名で半分まで進めましょう」といった簡単な計画を立てることから始めてはどうか。
もちろん、計画を立てたからには実行することが1番であるが、まずは計画を立てるという習慣をつけていくことが第一としよう。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。