見出し画像

介護は「医者の言うことを聞かなければいけない」という誤解

高齢者の身体および生活を支援をする介護の仕事は、健康管理として医療と連携する機会が多い。認知症ケアにおいても密接な関係がある。

血圧などの変化、基礎疾患、お薬、検査・・・高齢者でなくても気になるであろう身体の状態を医療という専門の目線で捉えて、可能な限り健康状態を維持することは必要である。

「高齢者にそこまで手厚くする必要はあるのか?」という疑問の声はあるが、予防という観点で言えばメリットは大きい。結局、何ごとも健康ありきということである。

高齢者の健康を日々観測する役割として介護は重要な位置づけにあるわけだが、ことに医療従事者と対面すると萎縮する傾向が伺える。特に医者相手となるとなおさらだ。

具体的には「医者の言うことを聞かなければいけない」「医療従事者からの指示は絶対である」みたいな風潮だ。また、「医者相手に間違ったことを言ってはいけない」という恐怖心から受診介助に苦手意識をもつ介護職員も少なくない。 
 



しかし、このような「医者の言うことを聞かなければいけない」という医療ファーストな考え方は、介護者側の大きな誤解であるとお伝えしたい。

上記でもお伝えしたが、高齢者の健康を日々観測しているのは介護者である。その前提で検査や問診などを行い、医療という専門家の視点で総括として医師がその方の健康状態を判断し、治療方針を提示するにすぎない。

医者もただの人間である。医療知識や経験は多聞にあっても千里眼をもっているわけでない。介護者からの日々の状態や情報をもとに判断をしているにすぎない。

何となく「医療>>>介護」みたいにな認識を抱いている介護者もいるようだし、介護職を馬鹿にしたような態度の医療従事者も確かにいる。しかし、お互いに役割が違うだけのことだ。

高齢者の日々の状態を観測し、その情報を医療側へ提供することで医者が健康状態や治療方針を判断する ――― それだけの話だ。

それは例えるならば、農家と料理人の関係。農家(介護側)が食材を育て収穫し、料理人(医者)はその食材をもとに調理するみたいな感じだ。

それぞれの立場でやることをやるだけだ。
 



利用者のかかりつけ医から「〇〇さんの認知症の症状はちょっと進行してますね。お薬を増量しましょうか?」みたいに問いかけられることがある。そのようなとき、介護職員は「え? こっちでそれを判断していいの?」と戸惑うことがある。

しかし、医師から言わせると日常の状態を具体的に把握して支援しているのは介護なのだから、介護側の意見を尊重するのは当然という認識がある。(もちろん、これは医師によって見解が異なるが)

少し過去に遡るが、訪問診療で介護施設に来た医師が上記のような問いかけをされて私は返答に窮した。それに対してその医師から言われた。

「あの・・・別に医者の言うことを何でも聞かなければいけないわけじゃないですから。それに直接介護するのは施設さんなのですから、どうしてほしいかは施設の考えでいいですよ」

この言葉にハっとした。それは医師の言いなりにならなくていいことではなく、介護者として医療側に介護の視点で意見を言うことも必要であるということに気付いたからだ。

また、医療に対して萎縮して意見を言わないことは、結果的に利用者たる高齢者の健康を守れないことにつながる。だからこそ、介護の専門家として医療に可能な限り客観的かつ正確な情報を伝えることが責務と言える。


――― 別に医師や医療関係者にケンカ腰になれという意味ではない。対等であるという意味でもない。実際、医師のほうが社会的に権威があるのは感覚的にあると思う。仕方のない話だ。

しかし、大切なことは介護として高齢者の健康を守るためには、日々の情報を伝えつつ、ときには介護としての見解を伝えることも必要である。そのようなときに「医者の言うことは聞かなければいけない」という誤解は足を引っ張る。

最初は慣れないかもしれないが、上記のような問いかけを医師や病院関係者から問われたならば、介護者側としての考えを伝えてみてほしい(もちろん、内容によっては事業所や上司に相談する必要はあるが)。

安心して欲しい。怒られたり注意されることはない。そもそも目の前に患者(高齢者)がいるのに、そんなことを言う医師はいないだろうから・・・。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

いいなと思ったら応援しよう!