好きな道を走る
私は車が好きです。
それは車そのものの自走する仕組みであり、造形美であり外観デザインであり、ハンドルを握って自分の道を走ることであり、そこから見る景色でもあります。
幼い頃、シフトレバーを操作する父にあれこれうるさく聞いた挙句、父が私にシフトレバーを握らせてくれて、その上を父の手が覆い、ギアチェンジをした記憶が残っています。
運転免許は当然マニュアル車で取得。
教官が解説のために持っていたミッションの実物歯車模型に食いついて、時間外までシフトチェンジの体験をさせてもらったことも貴重な思い出です。
自分でハンドルを握るようになると、世界は広がりました。
誰かの運転に同乗して断片的だった道が、自分で運転するようになって一気に繋がります。
方角と位置関係が接続して、脳内でみるみる拡張。
点と点が線で結ばれて、その隙間を埋めるように土地ごとの縁と出会いが色を付けていき、私の道は鮮やかになっていきました。
同時期に出会ったのが、物理的な車の限界への挑戦でした。
それは公道を走る一般カーの最高峰、WRC(ワールドラリー選手権)。
WRCといえばスバル。
そう思う人がどれほどいるでしょうか。
オフロードを泥まみれに走る青いスバルの姿が好きで好きで、胸が熱くなります。
三菱のランエボも素敵なんですが、私にとって長年の憧れになったのはスバルの青いインプレッサWRCでした。
一般的な収入の地方庶民が乗る車は、生活用品の一部のようなものです。
無難な価格で小回りが利いて操作が楽なオートマ車。中古車はさらに手軽です。そのうえ車にこだわる女性は少数派です。
私のスバルへの憧れは、いつか叶える夢として心に密かに持ちました。
憧れは薄れるものではなく、私の中でじくじくと熱を持ったまま留まり続けていました。
生活に余裕のない田舎暮らしの私が、キャンペーンにつられてスバルの試乗をしたのが2019年12月。実はまともにスバル車のハンドルを握ったのがこのときはじめてでした。
無駄に思えるほどのこだわりの細かさに魂を惹かれ、あっという間に虜になり、自分の生活費からカーローンをねん出できるか入念な計算を日々重ねました。
車関連の知人に相談を繰り返して、親身なカーショップを見つけて見積もりを重ねました。
狭い地域です。
知人つながりの知人から電話がかかってきます。
「スバル買うなんてやめなよ」
私が発言する余裕もないくらい、相手は延々とまくしたてるように話し続けて私が高級な新車を買うことを止めてきました。
「うん」「そうだね」「へぇ」「あぁ」「うんうん」
私が買う車について、私は相槌をうつだけの会話が30分以上続きました。
スバルに乗るのは私だし、お金も私の収入から出すのに、関係のない人からあれこれ言われてしまう。
実はこれ今でも続いています。
平気な顔をしていれば「お金持ちね」と言われ、生活苦を口にすれば「だからスバルなんか買わなきゃよかったのに」と言われます。
どちらも聞きたくなくて、1年経った今も私はあまり車を買ったことを周囲に話していません。
純粋に私が乗りたい車に乗っていることを一緒に喜んでくれるか、ただ聞いてくれるか、それだけでいいんだけどね。
「いい青だね」って言ってくれれば、その人の表情も一生忘れないくらいうれしい。
これを書いている今は3月。
誰がいつこの世を去るか分からないということを痛感した時期です。
様々な自然災害によって繰り返し日常が失われる経験を重ねて、私たちはとても不安定な地盤の上に生きていることを散々思い知らされてます。
それならせめて、私は乗りたい車に乗って、自分でハンドルを握って、行きたい道を走りたい。
買って良かったし、そのために働くことを頑張れています。
納車からもうすぐ1年になります。
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