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工学と文学の親和性

文系、理系という分類があります。私はどちらかというと理系で、専攻分野でいえば工学でした。
そして同時に読書も好きで、活字小説を読んで育ってきています。最近ではショートストーリーの創作と発表をするようになりました。

もちろん文系と理系は相反するものではなく、論文やプログラミングは言語能力を必要とするため、理系も意外と文章能力を必要とします。国語力の高い理系ってけっこう多い印象です。

その中でも今回特に工学を取り上げたのは、工学のモノづくり思考がエンターテインメント性を持っていて、それが小説と結びつくことで面白く生きていくように考えているからです。

そんな仮説をもとに、工学系作家を紹介してみたいと思います。(敬称略)

東野圭吾(大阪府立大学工学部電気工学科)

超有名ミステリー作家です。
作品数が圧倒的で、さらに数多く映像化されて認知度も高いので、とりあえず好きな小説家と言えばまず彼の名前を出します。

理系作家でありながら、難解すぎない内容と読みやすい文体が世間に受け入れられやすいのだと思います。教師経験があることも関係しているかもしれません。

始めて読んだ作品は『白夜行』。
連続ドラマが面白くて、原作を読んだらもっと面白くて衝撃を受けました。
少し古い世代の理系知識に触れるところも興味深くて、カセットテープで保存するゲームも父(工学部)が持っていたのでウチにありました。

東野圭吾作品は私の本棚の一角を占領していますが、自分の中のダントツ一位は今も不動で『白夜行』です。

星新一(東京大学農学部農芸化学科)

工学って言っておきながら工学部じゃないですが(笑)、でも近未来SFを語るうえで欠かせない作家なので加えました。

ロボットや宇宙など好奇心を揺さぶる作品が数多くて、夢もあり怖さもあり、さらにショートショートは読みやすいので、ぜひお子さんの手の届くところに置いて欲しい本です。

将来こんな世界になったらおもしろいな、こういう危機があったらどうしようっていう想像力も、工学との親和性の高さを感じます。

森博嗣(名古屋大学工学部建築学科)

理系作家として知名度が高い作家の一人、森博嗣。
代表作の一つ『すべてがFになる』はテレビドラマ化もされました。

一言で工学部といっても、その中で何を専攻するかによってもまた得意分野と傾向が違うように感じます。彼の作品を読んで、工学より理学(理論系)寄りだなって印象でした。

乙一(豊橋技術科学大学工学部)

ミステリー作家と一言で言い表せない、深い闇と悲しみが入り混じる作品を数多く世に出している乙一。
子どものころ江戸川乱歩の深みにはまったのと同じ感覚を味わって、あっという間に虜になった作家です。

孤独や狂気など感性をえぐる作品も多いなか、工学系らしいSF作品といえば『陽だまりの詩』がイチオシ。
収録されている『ZOO』がかなりグロホラー短編集なので、収録本としては『短編工場』をオススメします。

複数作家による短編集で、どれも面白いです。

田丸雅智(東京大学工学部、大学院工学系研究科)

現代のショートショート作家の第一人者と言える、田丸雅智
自身の作家活動だけでなく、初心者や小学生向けのショートショート講座を開くなど、幅広く創作の門戸を開く活動をしていることでも注目を集めています。

彼が主催する400字の超ショートショート作品投稿サイト「ショートショートガーデン(SSG)」は、ここnoteと並んで誰でも手軽に作品発表ができる場となっています。
私もSSGを通して作品発表、コンテスト応募をしています。

自分にとって縁のある愛媛県の出身であるところも、一方的に親近感を感じています。

工学とジェンダー

女性の身で工学の道を選択するのは、実はけっこうハードルがあります。
私の場合は父の存在が工学の入り口でしたが、母は反対に「女の子だから」という理由で様々な制約を与えてきました。(ガンダム、見たかった。。)
持って生まれた工学向きの素質が育つ環境として、女の子はどうしても不利だと感じることは多くありました。

そして壁を越えてまで工学部に進むには、ちょっと世間と一線を画した気質も同時に育ってしまうので、女の子としては変わり者が多くなる傾向もあるように感じます。

中学の頃、当時はまだ学校教育の中で男女区別が多く、男子は電子工作、女子は家庭科という授業枠がありました。
私はどうしても電子工作がやりたくて先生に直談判しに行き、予備の工作キットをもらって放課後の理科室で組み立てたりしていました。幸い理科の先生は理解を示してくれたのですが、周囲からは当然、変わった子扱いです。

工学と文学をつなぐもの

一見まるで別分野である工学と文学。
その共通点を考えたとき、携わる人の動機にもよりますが、私の場合は「モノづくりの楽しさ」と「何かに役立つかもしれない面白いことを伝えたい」が大きいようです。
前者は自分にとっての楽しみ、後者は仕事や社会との関わり、その両方が作品公開につながっています。

昔はSFの世界だった夢物語がIT社会の中で実現してきて、生き方も多様性を増してきました。
それでもまだ課題は山ほどあります。
「こんな世の中はどうだろう」という想像を表現する手段の一つとして、私は短い物語を書いています。

工学出身作家を名乗れるようになるまで末端の末端にこっそり存在しながら、立ち位置を見つけていけたらなと考えています。

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この投稿は「第二回教養のエチュード賞」に参加しています。

【追記】

68番で紹介されました。

嶋津さん、こうして記する機会と素敵なコメントをいただきありがとうございました。

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