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HER-SYS(ハーシス)、データ共有システムの在り方とは

 HER-SYS(ハーシス)、という言葉を一度は耳にしたことがあるかと思いますが、本日の一連の報道で上手く医療機関・自治体・厚生労働省の中で活用されていないのではないかと感じます。

 午前中には10代女性が亡くなった、という報道が出て携帯の速報がブーブーと鳴っていましたが、午後には一転して上記のような報道がなされていました。※ネット上では色んな憶測が流れていましたが、今回は報道されている内容が事実であるという前提で。

HER-SYSとは

 Health Center Real-time Information-sharing System

 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム

 今年の5月から厚生労働省が、全国の新型コロナウイルスの感染者情報を一元管理するために、スピード開発をしたシステムとなります。

 当初、保健所・病院→自治体への感染者の報告はFAXで行われているということで、日本のデジタル化の遅れが叫ばれていましたが、確かにイマドキFAXってどうなのだろう、と全国民が感じた事でしょう。このFAXでのやり取りを発端に、給付金申請やオンライン授業ができない、といった日本のデジタル化への対応遅れが露わとなり、デジタル庁発足への機運が高まりました。

 そこで急ごしらえではあるものの、HER-SYSという全国の感染者・医療機関・自治体・厚生労働省をつなぎ、データ共有するためのシステムが出来上がったわけです。

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 リリースまでのスピード感も素晴らしく、新型コロナウイルスに立ち向かうためのツールとしての発想も良いと思います。しかし現実にはあまり使われていない、そのため本日のような誤報を招いてしまっているのだと思います。

なぜ使われていないのか

 あくまでこれは私の推測です。もしも医療従事者の方で、現状をご存じの方いらっしゃったら、コメント頂きたいです。

 現場では結局のところ使われていないのではないかと思っています。理由としては大きく以下2点があります。

①病院のネットワークはインターネットに繋がっていない
②現場の支援システムではなく、データを管理したい人のためのシステムになっている

①病院のネットワークはインターネットに繋がっていない

 まず病院は外部に繋がるインターネットの出口を持っていない。病院は超デリケートな個人情報を取り扱っているため、患者のデータを取り扱うシステムのネットワークは完全に外の世界と分断されていることがほとんどです。町のクリニックやPCR検査センターは分かりませんが、多くの病院はネットワークを切り離されています。

 病院で問診を受けていると医師が病状を電子カルテにカチャカチャと打ち込んでいますが、あのパソコンからは外のインターネットにつなぐことが出来ません。なので、HER-SYS専用端末がポケットWi-Fiとセットでコロナ患者受け入れ病院においては配備されていたと聞きました。(現在はどのような運用なのかは分かっていませんが)

②現場の支援システムではなく、データを管理したい人のためのシステムになっている

 これはIT業界の中ではあるあるの話なのですが、「支援」システムと言いつつ、全く現場の事務的作業や営業行為などの「支援」となっていないということです。

 よくある話の例として、SFA/CRMといった営業支援/顧客情報管理システムを導入する際に、管理をしたいデータばかりが入力項目として並び、実際に現場の営業マンの業務の支援にはなっていない。本部や管理職が現場のデータを管理・可視化したいといった要望ばかりが反映されてしまい、まるで現場の仕事を無視したシステムが出来上がってしまうケースを多く見かけます。営業支援のシステムであれば、営業の売上に貢献してくれるようなシステムでないと、現場でも一生懸命活用されることはありません。

 そのため、現場はぶーぶー文句を言いながら必須項目のみを入力して、管理する側はその薄いデータを参照しなければならないという、お互いに悲劇的な状況を生み出しています。

 今回のHER-SYSもそういった悲劇を生んでいるのではないかと推測されます。既に過去のツイートなので発見できなかったのですが、一時期「誰のためのHER-SYS?」「現場では全く必要としない入力項目が多すぎて、使う気がしない」といった内容のツイートを多く見かけました。※匿名Twitterがほとんどだったので、信憑性に欠けますが。

データ共有システムの在り方は

 現場仕事を完全に無視して、本部側のマネジメントに必要なデータをとにかく徹底して強制力を持って入力させる。

 これも手段としてはアリだと考えています。しかし、この方法が通じないのが今回の新型コロナウイルスであると思います。ただでさえ精神的にも肉体的にもキリキリの状況にある現場に対して、そんな要求はとてもじゃないがまかりとおらないでしょう。

 であれば、あるべき姿の現場支援システムとならなければなりません。現場での運用に則したシステムで、現場での事務的作業の負荷軽減が実感できるような作りにするべきです。(IT業界では常にそんなの当たり前、と言われているような話なのですが、なかなかそれが徹底されずに悲しい結果を招いている現状もあります)

 HER-SYSはスピード感を第一にして開発されたのだと思っていますが、ある程度運用や管理すべきデータが見極められつつあったタイミングでアップデートしていくべきだったと思います。厚労省のHPを見る限り、アップデートの通達が見当たらなかったので、軽微な修正しかなかったのではないでしょうか。

 とにかく、まずは現場で日々対応をしてくれている医療関係者の皆様の現場負荷を少しでも軽減できるようなシステムとなってくれるよう、今後に期待します。


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