人と組織の評価:評点 or 自由記入?(1/3)
この記事では、國松禎紀 さんが上司による部下評価について投稿なさった記事をヒントに、人や組織の評価法について考えてみます。第1回は、一般的な評価法のメリットとデメリットの話です。
1. 一般的な評価法=決められた評価項目についてに評点をつける(評点法)
部下の働き具合を評価する人事考課では、あらかじめ決められた評価項目のそれぞれについて、5点、4点、3点、2点、1点、または A、B、C、D、E などと評点をつけ、それを合計して総合的に評価する方法が一般的です。これを評点法と呼ぶことにします。
組織全体について従業員満足度などを評価するためのサーベイもよく行われますが、ここでも、複数の評価項目それぞれに対して従業員に評点をつけてもらい、それを合計して総合的に評価する評点法が一般的です。
評点法には、次のメリットがあります。
ⅰ)評価者間の着眼点のバラツキを小さくできる。
ⅱ)横の比較がしやすい。
上司が部下を評価する場合、部下の個人業績にもっぱら目が向く上司もいれば、部下のチームへの貢献に目が向く上司もいます。
会社が評価項目を上司に指示すると、上司は、自分の目が向きにくい領域についても、日ごろから部下の行動を観察するようになります。その結果、上司間の着眼点のバラツキを小さくできます。
個々の従業員が組織のどういう面に目が向きがちかにも、個人差があります。評価項目が決まっていると、従業員は、ふだんは気にしていない組織の側面についても振り返ることになります。
評点法では、結果が数値で示されます。A、B、C、D、E など記号で評価した場合も、どこかで数字に換算するのが普通です。
数値化することで、従業員相互を比較しやすくなります。つまり、相対評価できるようになるのです。
相対評価は人を評価する方法としては邪道です。人間は成長するものです。そして、自分の成長を他者に評価されることで、さらに成長しようという意欲がわくものです。このような個人の成長は、他者との比較を抜きにした絶対評価によってしか、正しく評価できません。
では、なぜ従業員同士の横比較をメリットに上げたのか? それは、人事考課が、最終的には従業員の処遇を決めるからです。処遇を構成する給与も昇給昇格も、全体のパイの大きさが決まっています。大きさの決まったパイを切り分ける場面では、相対評価を導入せざるを得ないのです。
では、ある組織についてのサーベイ結果は、何と横比較されるのでしょう? 自社内の他の組織、あるいは、自社全体と他社と比較されるのです。
2. 評点法のデメリット
評価法のデメリットは、社内の一部の人間の《集合的主観》に基づく評価であるにも関わらず、結果が数値として示されることによって、客観的な事実として通用してしまうことです。《集合的主観》という言葉の意味については、のちほど説明します。
《集合的主観》を説明する前に、まず、評価項目を決め、それに対して人々に評点をつけてもらうことの本質的な意味について考えてみましょう。
私たちが家族や友人に「食欲はどう?」と尋ねる場面を思い起こしてください。なぜ、食欲という評価項目について、相手に答えてもらおうとするのでしょう。それは、「健康な人間は食欲がある」という「こうあって欲しい姿」のイメージが頭にあるからです。
人事考課や組織サーベイの評価項目も同じです。評価項目を設定する主体(人事部門や企画部門など)には「従業員または組織には、こうあって欲しい」という理想のイメージがあって、それに基づいて評価項目を設定しているのです。
もちろん、組織内の1個人の主観がそのまま理想のイメージを形成するわけではありません。従業員と組織の理想のイメージは、複数メンバーの議論を通して形成されるものです。
しかし、この議論は、人事部門、企画部門、部門長など、社内の限られたメンバーによって行われるのが普通です。したがって、その議論を通して形成された理想像は、こうした人々の《集合的主観》と言うべきものです。
主観である以上、それが、本当に、会社が必要としていることを正しく反映しているという保証はありません。にもかかわらず、ひとたび人事考課や組織サーベイが行われ、その結果が数値として現れると、従業員は、それが正しくて客観的なものだと思い込んでしまうのです。これは、評点法の作り方そのものに内在するデメリットと言えるでしょう。
逆説的ですが、評価者(人事考課なら上司、組織サーベイなら従業員全般)の主観を教えてもらう自由記入法を採用した方が、客観的な評価に近づける可能性があります。次回は、この可能性について論じたいと思います。
ここまで、お付き合いいただき、ありがとうございました。
次回も、引き続き、よろしくお願いいたします。
『人と組織の評価:評点 or 自由記入?(1/3)』おわり
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