モノづくり/擦り合わせ vs 組み合わせ/そして、EV
もの造りの2つのタイプである「擦り合わせ」と「組み合わせ」を振り返り、その文脈でクルマのEV化が自動車産業にもたらすであろう変化を予想します。
1.「擦り合わせ」型もの造りと「組み合わせ」型もの造り
もの造りには「擦り合わせ」型と「組み合わせ」型があり、日本メーカーは「擦り合わせ」型に強みを持っていると初めに指摘したのは、現在、早稲田大学 商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センターで上級研究員を務めている 藤本 隆弘 氏です。同氏の『日本のものづくり哲学』(2004年6月25日 初版第7刷)から抜粋します(一部改変)
「擦り合わせ型」(インテグラル)の製品というのは、ある製品のために特別に最適設計された部品を微妙に相互調整しないと性能が発揮されない、というような製品のことを指しています。「組み合わせ型」(モジュール型)の製品というのは、「ありもの」の部品を巧みに寄せ集めると、いろいろな最終製品ができる、というタイプの製品のことを指しています
「擦り合わせ型」は、このようなイメージです。
「組み合わせ型」は、このようなイメージです。
ブラウン管テレビは「擦り合わせ」製品の典型で、この製法に日本のテレビメーカーは圧倒的な強みを持っていました。世界のどの国も、ブラウン管テレビでは、日本勢に太刀打ちできなかったのです。
ところが、2000年代に入るとテレビがデジタル化し、市販の汎用ICチップと液晶モニターを組み合わせるだけで、十分に視聴に耐えるテレビを作ることができるようになります。「組み合わせ」でテレビを造ることが可能になったのです。
韓国勢は「組み合わせ」で《手ごろな価格でそれなりの品質》のテレビを造り、当時急成長中だった新興国市場で優位に立ちます。やがて品質を向上させ先進国市場にも食い込み、日本のテレビメーカーを駆逐してしまったのです。
2.「組み合わせ」型のガソリン車造り
ガソリン車は部品が30,000点あると言われます。省エネ性能、スポーツ走行性能などを高いレベルで実現するためには、これら部品相互の形状・機能を精密に擦り合わせる必要があります。つまり、典型的な「擦り合わせ」製品なのです。「擦り合わせ」型もの造りに強い日本メーカーは、自動車産業でも優位に立ち続けてきました。
これに対抗するためフォルクスワーゲン(以下、VW)が編み出したのが「組み合わせ型」による自動車製造です。
同社が2012年から導入した「MQB」(「横置きエンジン車用・モジュールマトリックス」)の基本骨格を下に示します。
この基本骨格に下のようなモジュール化部品(複数の部品を一体化しモジュールにしたもの)を組み付けて自動車を造るという方式です。モジュール化部品を製造するのは主としてボッシュ、ZF、コンチネンタルのような有力な自動車部品メーカーです。
「MQB」の強みは、同一の基本骨格に色々な性能のモジュール化部品を組み込むことで、効率的に多様な自動車を造れることです。VWはゴルフなど大衆車用の「MQB」だけでなく、傘下の高級車ブランドAudi用の「MQB」も開発しています。
「MQB」には、もう一つの強みがあります。それは、VWの本国ドイツとは作業者の熟練度が異なる様々な国で、同じ品質の自動車を造りやすくなることです。これは、グローバル展開にとって大きな助け舟になります。
VWの「MQB」はトヨタにも影響を与え、同社も「TNGA」という「組み合わせ型」要素を持った製造法を導入しています
3.EVと「組み合わせ」型もの造りの相性
EVはガソリン車より構造が簡単で、部品点数はガソリン車の30,000点に対し、15,000~18,000点と言われています。このため部品間の形状・機能の擦り合わせの必要性は、ガソリン車に比べると、ずっと小さくなります。 ガソリン車の時代から採用され始めていた「組み合わせ」型の製造法が、EVではより適用しやすくなると考えられます。
ガソリン車の駆動装置であるエンジンは自動車メーカーが自社で開発・設計・製造していて、エンジン性能がメーカーの競争力の決め手になっていました。
ところが、EVの駆動装置であるモーターは自動車メーカーの専売特許ではなく、モーター専門のメーカーが多数存在します。自動車メーカーにとって、今からモーターを自社開発するよりモーター専業メーカーから高性能のモーターを購入して組みつける方が安価で製造効率が上がる可能性があるのです。
実際、モーターの有力メーカーである日本電産がモーター、インバーター、減速機が三位一体となった 「E-Axle(Eアクスル)」と呼ぶ駆動系モジュールを開発し、中国の自動車メーカー向け販売を拡大しています。
(同社のホームページから引用)
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モーターメーカーでは、日本電産の他にも明電舎がEアクスルを手がけています。また、自動車部品メーカーもEアクスルに進出しています。ボッシュ、トヨタ系列だがトヨタ以外にも顧客を広げているデンソーとアイシン、日立製作所を母体とする日立アステモなどです。下の図はアイシンのEアクスルです(同社ホームページから引用)
自動車は文字通り自ら動く機械ですが、その動力源を造るのが自動車メーカーではなくモーターメーカーや自動車部品メーカーに変わっていこうとしているのです。これは、自動車産業にとって革命的なことだと、私は考えます。
日本の自動車メーカーは、これまで自動車メーカーとその系列部品メーカーの中で製造が自己完結する「垂直統合」型のもの造りをしてきました。欧米では、ボッシュ、ZF、コンチネンタルなどのように不特定の自動車メーカーに部品を提供する有力企業が存在してきたので、日本に比べると「水平分業」に近い形で自動車製造がおこなわれてきました。
しかし、日本でも、電気、モーターに強い異業種の企業がEアクスルのようなモジュール化部品で次々参入してくると、自動車製造が「水平分業」化していく可能性があります。
さらに、自動運転や「インターネットとつながる車」の分野ではGAFAに代表されるIT業界に一日の長があります。
自動車産業は大変革期に突入しつつあり、今後10年間から20年の間、目を離せない産業になると、私は考えています。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
〈おわり〉
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