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プレイングマネジャーとパワハラリスク
溝延 祐樹@働く人たち応援弁護士 さんの『パワハラ対策が浸透しないメカニズム』に触発されて、プレイングマネジャーとパワハラについて考えてみました。
1.パワハラ対策が浸透しない理由(溝延さんのご指摘)
溝延さんは、企業でパワハラ対策が浸透しない理由として、次の3点を指摘していらっしゃいます。
理由➀:「パワハラ」の定義がわからない
理由②:違法とされる「パワハラ」は氷山の一角
理由③:「パワハラ」の加害者はエース社員が多い
その上で、溝延さんは「『余裕』こそが最大のパワハラ対策」とおっしゃっています。
この記事では、理由③:「パワハラ」の加害者はエース社員が多い と「『余裕』こそが最大のパワハラ対策」に触発されて考えたプレイングマネジャーとパワハラの関係について述べたいと思います。
2.プレイングマネジャーが感じるプレッシャー
組織のフラット化が進んだ現在、自らの担当業務で成果を出しつつ、部下を動かして職場としても成果を上げることを求められているプレイングマネジャーが一般化していると思います。
このプレイングマネジャーに就くのは、いちプレイヤーとして優れた成果を上げた人たちです。溝延さんのお言葉を借りれば、エース社員です。
エースとしての実績を認められてマネジャーに抜擢されたからには、個人として今まで以上の成果を出さなければならない。プレイングマネジャーは、そう考えがちです。
一方、部下たちを使って職場としても成果を上げないと、マネジャーとしては評価されないことになる。プレイングマネジャーは、そのことも認識しています。
つまり、プレイングマネジャーは、常に、エース社員としての優秀さとマネジャーとしての優秀さを両方とも発揮しなければならないという大きなプレッシャーを感じているのです。
3.プレイングマネジャー、最悪の展開
常にプレッシャーを感じているプレイングマネジャーが会社から短期の成果を厳しく求められると、何が起こるでしょう。
これから私がお話するのは、あくまで《最悪の展開》です。このような展開に陥っていくプレイングマネジャーは、ごく少数だと思います。
しかし、稀な事態ではあっても《最悪の展開》はパワハラにつながる危険性が極めて高いので、企業は《最悪の展開》を想定しておく必要があると考えるのです。
〔最悪の展開A〕:部下が《やる気不足・努力不足》だと思う
エース社員には、《自分は人並みはずれた努力をしてきたから高い成果を上げてこられた》という自負があります。そういうエース社員がプレイングマネジャーに抜擢され、成果の上がっていない部下をみると、努力が足りないと感じ、もっと頑張れとハッパをかけます。それでも成果が出ないと、その部下はやる気がないから努力しないのだと考えます。
*その部下がどのように指導されてきたか?
*現在の仕事のさせ方が部下の熟練度・部下の個性とマッチしているか?
……といった、《部下本人の責任ではない事情》に目が向きにくいのです。
〔最悪の展開B》部下に《足を引っ張られている》と思い始める
部下が成果を上げないと、マネジャーとしての自分の評価が悪くなる。ところが、部下のなかには、やる気がなく努力しない人間がいる。プレイングマネジャーがこのように認識してしまうと、《自分は、やる気がなく努力しない部下に足を引っ張られているのではないか?》という感情が生まれやすくなります。
〔最悪の展開C〕部下を一方的に叱責することが増える
〔最悪の展開A〕と〔最悪の展開B〕に陥ったプレイングマネジャーは、部下の挙動のひとつひとつが神経にさわるようになってきます。部下には部下の言い分があり、また、それに正当性があるような場合でも、部下の意見を聞かずに一方的に叱責することが増えます。
そして、この状況では、パワハラが非常に発生しやすくなります。溝延さんの記事から引用します。
優秀な職員が、指示は聞いているはずなのに一向に改善しない部下にイライラを募らせパワハラに走る・・・そういう構図でパワハラが発生しているのです(被害者側の名誉のため補足しますと、転勤・転職で能力を発揮する方は多いです。)。
〔太字部分は、楠瀬が太字化〕
4.企業に求められるアクションと発想転換
上記のような〔最悪の展開〕を避けるため、企業がプレイングマネジャーに対して次の2つのアクションをとることが必要と考えます。
(1)部下とじっくり向き合えるように、余裕を与える
会社にはプレイングマネジャーに短期の成果を迫るのを控え、プレイングマネジャーが部下一人ひとりと向き合う時間の余裕を与えることが望まれます。
プレイングマネジャーは余裕時間を部下に向き合うことに回すので個人で活躍する時間は減ります。短期的に職場の業績は下がるかもしれません。
しかし、プレイングマネジャーが個々の部下をよく理解して動かせるようになることで、中長期的には、大きな成果を得ることができます。
(2)自己認識を変え、新しい働き方を身につけるよう指導する
会社は、プレイングマネジャーに対して、今の彼/彼女に求められているのはエース社員としての活躍ではなく、マネジャーとして職場の成果を向上させることだということを指導すべきです。
上述の(1)、(2)を実行するためには、会社そのものが認識を改める必要があると考えます。
「今までどおりエースとして活躍し、それに加えてマネージャーとしても成果を上げてね」なんていう、会社都合の虫のイイ話は成り立たないということを、しっかり認識すべきです。
そういう欲を張ることがプレイングマネジャーと部下の双方にどれだけの害をなすかを理解すべきです。
プレイングマネジャーを含めた社員全体が生き生きと働き成果を上げることのできる環境を整備することは、企業の最大の務めの一つです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
『プレイングマネジャーとパワハラリスク』おわり