「高度の平凡さ」 6.目的達成への強い意欲(1)SONYのゲーム事業
この第6回と次回・第7回の2回にわたって、「高度の平凡さ」のうち「Ⅱ.目的達成への強い意欲」について、実際の企業事例に即して検討を加えていきます。
前回「Ⅰ. 目的への納得と目的の共有」で、SONYが自社の存在目的を大転換させ社内共有したことを見ました。今回は、その後のSONYの歩みのなかに、目的の達成に向けた強い意欲と粘り強い取り組みを確認していきます。
※前回はこちら⇒
1.「感動を与える会社」の柱となるべき事業
SONYは自社の存在目的を「革新的なエレキの製品を生み出す会社」から「感動を与える会社」へと転換させました。
この時点で、SONYは「感動を与える会社」の柱となるべき事業をすでに持っていました。「革新的なエレキの製品を提供する会社、ソニー」のレガシーである高性能ゲーム機プレイステーション(以下PSと略記)を軸にユーザーに感動を提供できるゲーム事業です。
2.ゲーム事業の低迷
ところが、このゲーム事業が2006年度以降、低迷していたのです。PSという高価なゲーム機とPS専用に開発したゲームソフトを提供するというビジネス・モデルにほころびが生じていたのです。
携帯電話(ガラケー、スマートフォン)をインターネット接続して楽しめるゲームが増え、PSという高額な機器が敬遠されるようになっていたのです。
3.ゲーム事業の立て直し
未来を託すはずのゲーム事業が低迷していたことはSONYにとって痛手でした。
しかし、SONYはここで諦めず、粘り強くゲーム事業の立て直しに取り組んでいきます。《PS+PS専用ゲームソフト》というビジネス・モデルから脱却し、ユーザーがネット接続でゲームを楽しめる環境を築いていったのです。
こうした施策が功を奏し、2015年度から、ゲーム事業の売上高営業利益率が全社の営業利益率を上回り始めます。
4.ゲーム事業がSONYの稼ぎ頭に
ゲーム事業の営業利益が全社営業利益に占める割合は2015年度が30.7%(金融事業の54.2%に次ぐ第2位)、2016年度が47.0%(金融事業の56.0%に次ぐ第2位)と上昇し、全社利益への貢献度を高めていきます。
2017年度になると、赤字だった他事業が黒字転換してきたため相対的な数値こそ24.1%に下がりますが、金融事業(24.3%)と並んで、SONYの業績回復を牽引しつづけます。
2018年度になると、ゲーム事業の営業利益は全社営業利益の34.0%に達し、金融事業の18.4%を抜いて全社No.1の稼ぎ頭に躍り出ます。その後、2020年度までこの地位を維持し続け、2021年度も大黒柱
上の表はSONYが2021年4月28日に開催した決算説明会の資料『2020年度連結業績概要』から抜粋したものです。
「感動を与える会社」になろうと強い意欲を持ち、そのための柱とすべきゲーム事業を粘り強く再生させたことが、SONYの現在の隆盛につながったということができるのです。
〈第7回につづく〉