サーベイの賢い選び方・使い方/Ⅰ.《理想イメージ》のマッチング/その2
市販のサーベイを賢く選んで使うコツをお伝えする連載の第2回。今回は、サーベイにおける《理想イメージ》とは何かをお話ししたいと思います。本題に入る前に、前回のおさらいをしておきましょう。
※第1回のおさらい
第1回では、簡単なサーベイの例を用いて、サーベイでの質問の投げかけ方を考えました。自分で書いたものを読み直してみると、ポイントがボケていたので、ここで要点を整理し直します。
【第1回の要点/その1】
サーベイでは、具体的な回答が返ってくるような質問をすること。そのためには、具体的な質問をすること。
【第1回の要点/その2】
具体的な質問をするためには、サーベイ対象がこうあって欲しいというイメージを描く必要がある。
【第1回の要点/その3】
サーベイ対象がこうあって欲しいというイメージは、サーベイを実施する人間の価値観で決まる。
(その2)について補足します。《親友度サーベイ》で、私は、相手が本当の親友だったら私にしてくれるはずだと私が期待する行動を尋ねました。これは、《親友はこうあって欲しい》というイメージを描いて質問したわけです。
第1回のおさらいはここまでとして、第2回の本題に移りたいと思います。第1回について、まだ釈然としないという方は、感想欄を使ってお問い合わせください。
第1回についてだけでなく、この連載全体を通して、疑問点、提案などを、是非、感想としてお送りください。一方的な説明ではなく、対話的な要素がある方が、より実りある連載になると思っています。
※《理想イメージ》
私が《理想イメージ》というコトバで意味していることを、研究者の言葉を借りて説明することから始めます。実際にサーベイを作るときは《価値観》⇒《理想イメージ》の順に進めるのですが、説明の上では《理想イメージ》を前に持ってきた方が、分かりやすくお話できると思います。
初めに、坪谷 邦生 氏の『図解 組織開発入門』から引用します。この連載のタネ本は 中原 淳 氏の『サーベイ・フィードバック入門』ですが、この本以外の書籍やnoteへの投稿記事、ネットで見つけた記事なども適宜引用していきます。
質問項目は、「目指す組織状態」を想定して作成する必要があるのです。
〔坪谷邦生『図解組織開発入門』P68から引用。太字部は、楠瀬が太字化〕
次に、中原 淳 氏の表現を引用します。
サーベイによって職場・集団に「質問」を投げかけ、データを集めるという行為自体が、「人々が行動を変えるためのエナジー」を内包しているということです。その理由は、「質問項目」自体が、「その組織において、何が望ましい行動で、何が望ましくない行動なのか」を潜在的に示す指標として機能してしまうからです。
〔中原淳『サーベイ・フィードバック入門』P79から引用。太字部は、楠瀬が太字化〕
私が言う《理想イメージ》は、坪谷氏がいう「目ざす組織状態」を《あるべき組織の姿》に置き換えた上で中原氏の考え方を借りて《具体的な望ましい行動に分解できるもの》という条件を加えたものです。
《理想イメージ》=《あるべき組織の姿であり、具体的な望ましい行動に分解できるもの》
※価値観
私たちがなにかについて「あるべき姿」をイメージするときには、必ず、ある価値観(のセット)が起点になります。
第1回で私がイメージした親友の「あるべき姿」は 《実用性が何より大切》という価値観に基づくものです。だから、部屋に泊めてくれるとか、お金を貸してくれるとか、恋のライバルにならないでくれるとか、現実の利害得失に関わる質問をしていたのです。
《魂の絆が何よりも大切》という価値観に立った場合は、
「君は、私が取り乱しているときでも、私の気持ちや考えに耳を傾けてくれるかい?」
「君は、私の目をみただけで、私を信じることができるかい?」
「君は、私が大切に思っているものを大切に思ってくれるかい?」
というような質問になるかもしれません。もっとも、《魂の絆が何より大切》という価値観の人には、そもそも《親友度》を評価しようなどという発想はなさそうですが……
組織の「あるべき姿」をイメージする上で起点となる価値観の例として、次のようなものが考えられます。
A:【目標必達】掲げた目標は必ず達成すべきである
B:【挑戦】新しい課題に挑戦すべきである
C:【効率性】最低限のインプットで最大限の成果を生むべきである
ア:【人格の尊重】組織メンバーの人格は尊重されるべきである
イ:【人間関係】組織内では良好な人間関係が維持されるべきである
ウ:【成長機会】組織は、メンバーに成長する機会を提供すべきである
A、B、Cは、機能としての組織に関する価値観で、ア、イ、ウは人間の集団としての組織に関する価値観であると言えます。他にも多様な価値観があると思います。
※質問項目の作り方
このような《理想イメージ》と《価値観》の関係をベースにした場合、サーベイの質問項目は次の3ステップで作ることになります。
【ステップ1】
サーベイを実施する主体が自らの価値観とその優先順位を決める。
【ステップ2】
サーベイを実施する主体が価値観とその優先順位に従って、組織の《理想イメージ》を描く。
【ステップ3】
《理想イメージ》どおりの組織では《メンバーは、どのような行動をとっているか?》を想定し、それを質問項目にする。
【ステップ1】から【ステップ3】の主語は、すべて〝サーベイを実施する主体”です。つまり、市販のサーベイを使ってご自身の所属組織を評価したいと考えている〝あなた自身”です。
ところが、市販のサーベイの場合は、提供企業がサーベイを設計する段階で【ステップ1】から【ステップ3】までを済ませています。
あなたが主体的に行うべき仕事を他者が先に済ませてしまっている。これは矛盾した状況と言えます。この矛盾を解消する方法が、次回説明する《理想イメージ》のマッチングです。
今回は、ここまでとします。
ここまでお付き合いただき、ありがとうございました。
『サーベイの賢い選び方・使い方/1《理想イメージ》のマッチング/その2』おわり
前回(第1回)はこちらです:
次回(第3回)は、こちらです。
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