サーベイの賢い選び方・使い方/Ⅰ.《理想イメージ》のマッチング/その3
市販のサーベイを賢く選んで使うコツをお伝えする連載の第3回。サーベイの前提になる組織の《理想イメージ》の話を締めくくりたいと思います。お付き合いいただけると幸いです。
前回(第2回)では、サーベイは、サーベイを行う主体の価値観を起点に〝組織のありたい姿”=《理想イメージ》を描き、それを基に質問項目を設定するとお話ししました。
この価値観⇒《理想イメージ》⇒質問項目設定というプロセスを市販のサーベイの場合には提供企業が終わらせてしまっているところに矛盾があると指摘した上で、その矛盾を解消する方法が《理想イメージ》のマッチングであるとお話しました。
今回は、その《理想イメージ》のマッチングのプロセスを具体的にご説明します。
※市販サーベイの価値観と《理想イメージ》は、公開情報から読み取れる
実は、市販のサーベイがどのような価値観を起点にどのような《理想イメージ》を描いているかは、公開資料から読み取れるようになっています。
サーベイを提供する企業は、企業のホームぺージ、サーベイ紹介のURLやパンフレットなどで、次の2点を必ず明示しています。この2点に加えてサーベイ結果のサンプルが提供されている場合もあります。
*サーベイの目的
*サーベイの対象とする組織特性
上記に加え、サーベイ結果のサンプルと個別の質問項目の一部が公開されている場合が多いと思います。
質問への回答に対する評価点とその評集計方法は、通常、非公開です。ここに各企業独自のノウハウが詰まっているからです。
これらの公開情報を検討すると、そのサーベイが立脚している価値観と《理想イメージ》を読み取ることができます。
たとえば、次のようなサーベイがあったとします。
このサーベイが拠って立つ価値観は、次のようなものと考えてよいでしょう。
*目標達成と、そのための計画的な業務遂行が重要
*業務を改善することも忘れてはならない
*メンバーが円滑な人間関係のもと適材適所で働くことが重要
*メンバーの育成も忘れてはならない
このサーベイが前提としている組織の《理想イメージ》は《人材配置と日常の業務遂行にスキのない、安定した組織》です。
あなたにとっての《理想イメージ》が《VUCA時代に合った、柔軟・敏捷でイノベーティブな組織》だとしたら、上記の『職場の健全性サーベイ』は《理想イメージ》が異なるので、このサーベイを採用しても、あなたが自組織を《理想イメージ》に近づけていく上で役立つ情報を得るのは困難ということになります。
市販のサーベイを使ってご自身の組織を診断される際は、候補になりそうなサーベイについての公開資料から、そのサーベイが拠って立つ価値観と〈理想イメージ〉を読み取り、ご自身の価値観と〈理想イメージ〉に出来る限り近いものを選ぶようにしてください。
※市販サーベイの提供企業と「対話」する
市販のサーベイが拠って立つ価値観と《理想イメージ》は公開資料から読み取れますが、最終的に導入するかどうかを決定する上では、提供企業と直接話をするのが一般的です。その時に、気を付けていただきたい点があります。
◎サーベイの提供企業に説明を求めてはいけない。
◎サーベイの提供企業と「対話」する。
あなたがサーベイを提供する企業の営業担当者だとして、あなたの会社のサーベイの導入を考えている会社さんに呼ばれて出向いたとします。そこで、ご担当の方から、「おたくの会社のこのサーベイについて説明してください」と求められたら、どのように反応するでしょう?
◆自社サーベイのメリットを言葉を尽くして説明したくなる
のではないでしょうか? 私は、そうなります。
しかし、サーベイを販売する営業スタッフは、それではいけないですね。お客様がどのような価値観・どのような《理想イメージ》を抱いているから、サーベイを行おうとしているか――その確認から入るのが、誠意ある、正しい営業アプローチです。
話をサーベイを選ぶ側に戻します。万一にでもサーベイ提供会社の営業スタッフから誤った反応を引き出さないためには、相手に説明を求めるのでなく、ご自身の《関心事》を語るべきです。
価値観と《理想イメージ》ではなく《関心事》と申し上げたのは、この時点では、価値観と《理想イメージ》がハッキリ形になっていないかもしれないからです。私の所属する会社の営業スタッフから聞いた限りでは、お客様との最初の接触では、かなり漠としたお話を頂戴することがあるようです。
ですが、漠としていて良いのです。漠とした《関心事》を営業スタッフに伝え、それに対して営業スタッフが色々と言葉を返してくる。そのやり取りを繰り返しているうちに、あなたの中で、ご自身が大切にしている価値観と、それに立脚した組織の《理想イメージ》が徐々に具体的な形にまとまっていくのです。つまり営業スタッフとの「対話」を通して、価値観と《理想イメージ》というサーベイの根幹を具現化できるのです。
こういうことはあまり考えられませんが、もし、相手の営業スタッフがそうした「対話」に乗ってこずに一方的に自社サーベイのメリットを語り続けるようなら、別の営業スタッフに代えるよう相手企業に依頼することをお勧めします。次に来た営業スタッフも同じ行動パターンなら、その会社のサーベイを採用候補から除外した方が良いでしょう。
◎サーベイを提供する企業の営業スタッフの頭脳を使って考える
のが市販サーベイを上手に用いる秘訣です。
※市販サーベイに〝大ハズレ”はない
私が先ほど提示した《組織の健全度サーベイ》は、組織の柔軟性・敏捷性を全く考慮していませんでした。だから、VUCAへの対応レベルを評価したいというニーズに対して〝大ハズレ”だったわけです。
ただし、上の例は論点を明確にするために意図的に極端なサーベイを設定したまでで、現実に市販のサーベイを用いる場合に、ここまで極端なミスマッチが起こることは、普通ありえません。それは、市販のサーベイが、中原 淳 氏の言葉を借りれば、次のような性格を持っているからです。
「市販されているサーベイ」のメリットは、専門家によって作成され、信頼性が確保されていることです。また、サーベイの結果を、業界や企業ごとにベンチマークを設定し、自由に比較・検討・分析できることもメリットの1つです。
デメリットとしては、他の企業も使う質問項目を用いるので、コレクション効果があまり期待できないことです。また、自由に設問を追加することができないことが多く、自組織にとって必要ではない質問項目やデータも含まれてしまうことがあげられます。
〔中原淳『サーベイ・フィードバック入門』P115から引用。太字部は、楠瀬が太字化〕
様々な企業に適用でき、業界や企業ごとに自由に比較・検討できるようにするためには、サーベイの質問項目を幅広い業界や企業に通用する最大公約数的なものにしておく必要があります。
サーベイを作るのはマネジメント研究のプロなので、マネジメントの実態とマネジメント研究の流れを把握してサーベイを設計しています。
企業に安定性と同時に変化に対応する柔軟性と敏捷性が必要なことは、VUCAという言葉が登場する以前からマネジメント研究の世界で指摘されていたことです。ですから、この要素を完全に欠いた市販サーベイはあり得ないと、少なくとも私は考えています。
しかし、これを裏返して言うと、どの企業のどのサーベイも視点と質問項目に似通ったところが多いからこそ、サーベイ提供企業の営業スタッフと深い「対話」を重ねないと、真にあなたのニーズに合致したサーベイを見つけ出すことが出来ないのです。
ここで、《理想イメージ》を描くことの大切さに触れた 中松尾 さんのnote記事をご紹介したいと思います。中松尾さんはの採用について書いていらっしゃるのですが、各論に入る前に《理想イメージ》の確立が必要という論旨は、サーベイの場合と全く同じです。
さて、ここまで3回にわたって《理想イメージ》のマッチングについてお話してきましたが、このテーマについては今回でいったん締めくくりといたします。
前回も申し上げましたが、ご意見、ご質問を、感想欄を使ってお寄せください。ご返事するのにお時間をいただく場合もあると思いますが、必ず回答いたします(既にいただいたものを私が見落としている可能性もあるので、不審に感じた方は、お手数ですが、繰り返しご連絡ください)
次回からは、サーベイ結果をどのように使ったら良いかについてお話していきたいと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
『サーベイの賢い選び方・使い方/1《理想イメージ》のマッチング/その3』おわり
前回(第2回)はこちらです:
次回(第4回)はこちらです:
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