サーベイの賢い選び方・使い方/Ⅱ.サーベイ結果の正体
前回まで3回にわたって、市販サーベイを選ぶ上での原則となる『《理想イメージ》のマッチング』について説明してきました。今回は、サーベイ結果の本質について、お話ししたいと思います。
前回は、こちら。
1. サーベイ結果が勝手に組織を変えてくれるわけではない
サーベイを実施して、組織の現状が具体的なデータとして「見える化」されました。現状が《理想イメージ》から乖離している度合い、つまり《理想と現実のギャップ》も、具体的に把握できました。
さぁ、これで、明日からこの組織は良い方向に変わっていくぞ!
……というような都合の良い展開には、なりません。なぜかというと、サーベイで得られた結果は情報に過ぎないからです。
みなさんが職場で受けている定期健康診断を思い出してください。Aさんが健康診断を受けたところ、昨年すでに正常値を上回っていた血糖値が、今年はさらに上がっているというデータを得ました。
Aさんは、このデータを見て「このまま血糖値が上がると糖尿病になってしまう」と解釈します。この解釈にしたがって、血糖値を下げるため、「糖尿病食の宅配を頼むこと」、「自宅でエアロバイクをこぐこと」というアクションプランを立てます。そして、これを実行し、その成果を次回の健康診断で確認します。
組織の現状についてのサーベイも、その結果の扱い方は、定期健康診断の場合と全く同じです。解釈⇒アクションプラン⇒実行が伴って、初めて組織が変わっていくのです。
2.サーベイ結果は、実は《感覚的なもの》で、皆が納得するとは限らない
サーベイ結果の活かし方を健康診断のたとえで説明しました。しかし、健康診断と組織の現状サーベイには、決定的な違いがあります。それは、
健康診断の結果は客観的だが、組織の現状サーベイの結果は感覚的である
ということです。
私がこう申し上げると、「組織の現状サーベイの結果は数値で示されるのだから、客観的なのではないか?」 という反論が当然予想されます。
この反論に対して、具体的なサーベイのサンプルを用いてお答えしたいと思います。下の表は、三隅 二不二 氏が管理者のリーダーシップを診断するために設定した質問項目と厚労省の「5分でできる職場のストレスセルフチェック」の回答法を組み合わせて作ったものです。名称は「管理者のマネジメント行動診断」としました。
三隅氏の質問項目の中にはストレスセルフチェックの回答法では答えられないものもあるので、そのような項目については、表現を変えてあります。表現を変えたものについては、オリジナルの表現を( )で囲んだイタリック表記で付記してあります。
管理者のマネジメントの仕方は組織の状態を決定づける大きな要因なので、管理者のマネジメント行動診断には、組織の現状サーベイとほぼ同様の意味があります。
この診断では、「そうだ」、「まあそうだ」、「やや違う」、「違う」と判断する基準は明示されていません。どの選択肢をとるかの判断は、回答者の直感に任されているのです。
「まさか?」とお思いになるかもしれませんが、サーベイでは、どの回答を選ぶか・どのように回答するかは回答者の感覚に委ねられていることが一般的なのです。
サーベイ結果は数値化されますが、その数値の根拠は、実は回答者の感覚です。サーベイでは、サーベイ対象者が感覚的に選んだ回答に数値を割り振り、その数値を集計して全体の結果を算出しているのです。
ですから、次のようなことが起こります。同じ組織に属するXさん、Yさん、Zさんが組織の現状サーベイの結果を見せられたとき、Xさんは「なるほど、この通りだ」と受け止め、Yさんは「こんなものかな」と思い、Zさんは「これはあり得ない」と反発する。こうなる原因は、Xさん、Yさん、Zさんでは、自らの組織に対する感じ方が違っていることにあります。
感覚には必ず個人差があります。その感覚を数値化して集計した結果について、個人の間で納得度に違いが現れるのは、当然のことなのです。
「サーベイをすれば組織の現状を客観的に把握できると思ったから実施したのに、サーベイは実は感覚的なものだなどと言われたら、やった意味がないではないか」
そういう声が聞こえてきそうです。というよりも、聞こえています。
ここで私が、「いいえ、感覚的なものだからこそ、実施した意味があるのです」と申し上げたら、怒りの声を浴びそうな気がします。ですが、私は、本気で「感覚的だから意味がある」と考えています。
それはなぜなのか? この疑問に答えることで、組織の変革にどのように取り組んでいけばよいかが見えてきます。次回は、このテーマについてお話したいと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
『サーベイの賢い選び方・使い方/2サーベイ結果の正体』おわり
次回は、こちらです:
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?