vol.17 クロノトリガー
1995年はスーパーファミコンとRPGが大変に盛り上がっていた年であった。ドラゴンクエスト6、聖剣伝説3、クロノトリガーがいずれも1995年、さらに95年度という枠組みで見ればスーパーマリオRPGも96年3月9日である。恐ろしい年である。
この中でもクロノトリガーは当然に超ウルトラビッグタイトルであった。ドラゴンボール、ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー、当時のエンタメの巨頭が合同し、何かすごいことをするらしい。
週刊少年ジャンプ、Vジャンプで特集が組まれ、ドラゴンボールの絵で描かれる主人公は目を引いた。さらに少し成長したアラレちゃんのような少女。当時、Vジャンプでは「ちょっとだけかえってきたDr.SLUMP」も連載されていた時期である。
クロノトリガーは瞬く間に話題のゲームになった。さて筆者はというと、クロノトリガーを所有していなかった。筆者はドラゴンクエスト6を買ってもらっていたが、聖剣伝説3とクロノトリガーは買ってもらっていなかったのだ。
よってクロノトリガーは近隣の友人に借りて遊ぶことになった。クロノトリガーを借りて遊ぶということには他のゲームと違う側面があった。そう「つよくてニューゲーム」の存在である。
今でこそ初回のプレイを強化状態で遊ぶのはまるでチートを使うようで味気ないと思うようになったが、当時は無双できればできただけ楽しいと思える少年である。当然のように友人のプレイを引き継いで無双した。初回からドラゴン戦車にシャイニングぶっ放しであった。属性が「天」ってかっこよすぎないだろうか。
こんなプレイスタイルではあったが、ラスボス前にマップを歩き切りたいという性分であったので、イベントは全て網羅したプレイになっていた。クロノトリガーはそれぞれの場面できっちり歩けばイベントを網羅できる作りになっている。これは嬉しい。
繰り返しのプレイが容易であるので、マルチエンディングのパターンを探すのも楽しかった。当時はまだインターネット以前である。進行しセーブデータのサブタイトルが変わるそれぞれのタイミングでラスボスを倒しに行くのだ。新しいエンディングが見られれば友人と共有するのである。
イベントで印象的だったのはやはり古代にたどり着いた時だろうか。初めて聴いたBGM「時の回廊」は子供時代ながらに特別だった。1995年はドラゴンクエスト6で主題をアレンジする音楽に触れ、聖剣伝説3とクロノトリガーでワールドワイドな音楽に触れる、感性の育つ年であった。義務教育に組み込んだ方がよいではないだろうか。
さて、クロノトリガーについて筆者にはノイズとなる思い出がある。それは「ロボ」の存在である。上述のように筆者はクロノトリガーを所有していなかったので、友人からソフトを借りてプレイした。
借りる前には友人のプレイを切れ切れに観ていたわけであるが、観ていたタイミングで友人はちょうど「ロボ」を仲間にしていた。クロノトリガーは仲間キャラ加入時にキャラクターに名前を付けるタイミングが発生する。友人はふざけて「ロボ」に筆者の名前を付けたのである。
これには大いに憤慨した。考えてみてほしい。クロノトリガーの男性系キャラには日本刀をぶん回すかっこいい少年がいる。勇者であるかっこいいカエルが居る。その中でわがままボディのロボである。他のキャラには特別な名前を付けていない中、ロボに筆者の名前である。
ロボとの出会いには、ロボ自身が他のメカからしこたま暴行を受けるシーンがある。そのシーンも筆者の名前で見させられるわけである。名前をつけるとき、その名前がダイアログで強く表示される時にちょっとニヤニヤしていやがった。あいつはロボにも筆者にも失礼な奴だ。
それ以降、現在まで数回ほどクロノトリガーを通しでプレイしたが、ロボとの出会いのシーンを通るたびにそのノイズが頭をよぎる。ロボがタックルをするたびに「ロボに自分の名前つけられたんだよな」と思い出す。なおロボタックルは魔王戦などでも非常にお世話になる強力な技である。
こうなると超感動シーンであるところの「緑の夢」イベントも割引になってしまう。あの友人は筆者を四百年ほど自主労働に狩りだしたのだろうか。なんてやろうだ。パスコード入力にも力が入るというものである。
このノイズはティーンを通り過ぎるまで続いた。しかしこのノイズがプレイを遠ざける理由にはまったくならないほど、ゲーム本体が魅力的であるのがクロノトリガーである。超名作の前には思春期の羞恥などまるまじろ以下の障害でしかないのだ。
余談であるが、友人とは親の転勤後疎遠になり以降関りがなく、先日ふと思い出して名前で検索したら某国立大学の助教に就任していた。ロボに筆者の名前を付けていたようなやつがエラい出世ぶりである。ぜひ重要な場面で当時よく踊っていたキタキタ踊りを披露してほしい。