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vol.11 ファイナルファンタジー4
自分が消えたと思ったら、しばらくして戻ってきて自分が二人になった。あと大して仲良くないクラスの女子と良い感じのムードになってなんだかよくわからないことになった。それが筆者にとってのファイナルファンタジー4だ。
筆者がファイナルファンタジー4をはじめてクリアしたのは、ワンダースワンカラー版であったと思う。スーパーファミコン版の出会いから十年近い時を経ていたのではなかっただろうか。
というのも、筆者はファイナルファンタジー4を持っていたことがなかった。2、3、5、6を持っていたが、ソフトを買ってもらえるタイミングに4は引っかからなかったのである。それからもスーパーファミコン版の4とはあまりご縁がなかった。
ファイナルファンタジー4は友人または友人の友人の家で観て出会い、それから何度か人から借りて一時期をプレイしたものの、いつもダークエルフと戦う「磁力の洞窟」あたりまででプレイが止まっている。その当時の根気がそこまでだったからだ。
その後はワンダースワンカラー版でクリアし、ゲームボーイアドバンス版をクリアし、小説版を読み、PSP版のTHE AFTERもクリアしているのだが、ここでは未クリアのスーパーファミコン版の頃の思い出を語る。
ファイナルファンタジー4の導入は魅力的である。スーパーファミコンの三作で最も魅力的に感じてさえいる。まず飛空艇の甲板でモンスターに襲われた自身の部隊を守り一人で戦う鎧姿のセシルがかっこいい。
そしてその後に仲間に入るカインがまたかっこいい。鎧のいかにも強そうなキャラが二人でスタートする、なんと少年の心を掴む導入だろうか。これにはまるで普段着のすっぴんバッツも、同じく旅人装束のティナ&ロックもお呼びでない。重装備こそがロマンだ。こちとら剣と魔法の世界に憧れているのだ。
こんなにカッコ良ければキャラには当然自己を投影したい。なんとファイナルファンタジー4ではいつでもキャラクターの名称変更が可能である。これは嬉しい。ということでキャラクターに喜んで自分の名前をつけるわけである。
どちらに自分の名前を付けるか。これは悩むところだが「竜騎士」の名前のカッコよさに痺れて、カインに自分の名前を付けることにした。ジャンプ攻撃は強力であるし、兜の造形も暗黒騎士より少しかっこよく感じた。代わりに暗黒騎士には当時の親友の名前を付けた。隊列は入れ替えて竜騎士を中央にした。
さて冒険開始である。プレイ済みの皆様はすぐにこの後に起こる事態を理解されるであろう。自分自身がパーティーから離脱するのである。自分の名前を付けたキャラがパーティーから離脱し、物語は早々に私の物語ではなくなってしまった。
これは由々しき事態である。しかし安心してほしい。上述のようにファイナルファンタジー4ではいつでもキャラクターの名称変更が可能である。いつでもというと誇張があるが、各拠点に居る「ネミングウェイ」というキャラに話しかけることで変更が可能である。
自分自身が居ない冒険をするわけにはいかないので、残った暗黒騎士に自分の名前を付けなおした。これで当座の問題は解決である。それから先、プレイは進み仲間のキャラクターたちも増えていく。男女それぞれの新規加入キャラには、クラスでキャラと顔の雰囲気が似てる人物の名前を付けていった。
冒険は中盤に差し掛かる。プレイ済みの皆様はこのパーティーに起こる事態を理解されるであろう。まず大して仲良くもないクラスの女子(ローザにつけた名前の持ち主)と自分のキャラはイイ感じになる。予期せず湿っぽいストーリーが展開される思春期には事故みたいなことが起こるのである。
そして、その関係が一つのクライマックスを迎える直前、自分の名前を付けた竜騎士が復帰する。自分自身と、自分自身と現実にはほぼかかわりのないクラスの女子がいい感じで、それに恋破れた位置づけの自分自身が参上するのである。
これは大変な混乱を生む。なんかよくわからないことになる。変な名前を付けてRPGを面白くプレイすることも、身近な人の名前をキャラにつけて勝手にダメージを受けるのもRPGの代表的なプレイであるが、それに加えて込み入った関係に複数の自分を織り交ぜることでカオスが起こる。ボーボボの人気投票のような様相である。
結局、この回のプレイはよくわからないまま中断され、借りたソフトは返却することになったのだが、このよくわからない判断でされた名づけだけは自分の心にしっかりと残っている。名前つけは重要な儀式である。ぜひ事故なく乗り切っていただきたい。
真面目な感想を言えば、ファイナルファンタジー4は音楽が好みだった。特に通常ボス戦には憧れがあったので、スーパーマリオRPGのクリスタラー戦で流れたときは痺れた。また、通常洞窟に入った時の小さな音量からクレッシェンドする導入も大変好みである。
大人になってからストーリーを思い返せば、キャラクターたちの奔放な振る舞いに様々な感情も沸くが、このゲームを少年期にやれたことは非常に良かったと思う。ファミコンよりも豪華になった戦闘エフェクト、飛空艇で空を飛ぶワクワク感、どれも感動的だった。
おそらく最も多くのゲーム機に移植されただろうファイナルファンタジー4、それを語るときには、よい思い出と共に、必ず名づけで失敗した思い出も心に浮かぶのである。