“新結合”をどのように生み出すか
これは、“産地の技術連係”というアイデアを確信に変えてくれた言葉です。
経済学者 シュンペーター によるこの言葉にヒントを得て、これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって、新たな価値を創造することにチャレンジしていこうと決心したわけですが、具体的にどのように第一歩を踏み出したのか、今回はそんなお話をしていきたいと思います。
(まだ見てないという方はこちらの記事も合わせてご覧ください)
繊維産地の“わざの連係”で生まれたガーゼパジャマ
ふわりと軽快に着られて、汗をしっかり吸水してくれるガーゼパジャマを、繊維産地の技術連係プロジェクト『LOCAL FABRIC』の第一弾企画として、今年の2月に発売しました。
製品のポイントは大きく2つ。先述した通り、“ふわりと軽快に着られて” “汗をしっかり吸水してくれる” ことなのですが、これらを実現するにあたり「播州織」と「泉州タオル」2つの産地の技術を掛け合わせてつくっています。
①播州織|兵庫県西脇市
ガーゼと言えば、肌ざわりが優しくて通気性が良い、そういった特長を持つ生地なのですが、その反面、ボリュームがあまりないという弱点があります。
ボリュームを出すために、層を重ねて厚くするという方法がありますが、それだと生地自体が分厚くなってしまい、せっかくの軽快さが失われてしまいます。
そこで、軽快な着心地は維持しつつ、ガーゼに包まれるような着心地を実現するためにこのような構造を考えました。
②泉州タオル|大阪府泉佐野市
ガーゼのパジャマを着ると、通気性がよく涼しい反面、汗でベタつくような感覚がありませんか?
“肌ざわりの良い生地”とはなんだろう?
これを突き詰めて考えた時に、汗をぱっと吸ってくれる吸水性の良さが重要であると考えました。
水を吸うといえばお風呂で濡れた身体を拭く「タオル」を連想し、たどり着いた答えがタオル産地で、タオルのように仕上げてもらうことでした。
また、このガーゼ生地は化学薬品を使わずに酵素の力で、でんぷん質や糊などの不純物をしっかり洗っています。薬剤ではなく、酵素を使って洗うことにより、環境への負荷を軽減しつつ、生地へのダメージも抑えられるため、長くふんわり感を味わえる生地になります。
播州織の産地での出会い (再会)
このガーゼパジャマ企画を一緒に挑戦してくれたのは 大化産業株式会社 の高橋さん。
実は前職が同じだったのですが、まったく別の部署だったこともあり、ほぼ喋ったことがないうえにお互い退職したことも知らず、再会した時は「あれ?」みたいな感じだったのですが、今では高橋さんのジョークを華麗に右から左へ受け流せる関係になっています。
再会からほどなくして、なにか一緒に取り組めることがあればなと思い、色々な生地を見せてもらったのですが、そこで気づいたのはほとんどが“シャツ向け”の生地で、吸水性に優れたものがないということでした。
これは当たり前のことと言えばそれまでなのですが、
・どうせやるなら産地にあまりなさそうな生地をつくりたい
・柄や見た目以外にどのような便益を生み出せるか
ということを考えていたので、まずその点に着目し、
「いくら見た目がキレイなハンカチでも水を吸わないと意味がないし、ふんわりしたガーゼのパジャマでも汗を吸ってくれないとベタついてしまう」
「潜在的には誰もが吸水性を求めていながら、そこを追求するアプローチは意外となされていないんじゃないか」
と考えました。
そして前述したように、“吸水性が良いもの”として想起しやすいのは「タオル」だろうと考え、泉州タオル産地にある染工場との協業を打診しました。
新たな挑戦を受け入れてくれた泉州タオル産地の染工場
染めと洗いの工程をお願いしたのは ダイワタオル協同組合。
基本的にはタオルの加工を手掛ける工場なので、こういった依頼はあまり歓迎されないだろうなと思いつつ「ダイワタオルさんで染めて洗ってもらったら絶対に良い風合いに仕上がる!」という確信があったので、ダメもとでお願いに伺いました。
・染めムラができる可能性がある
・仕上がりが何メートルか測る設備がない
懸念事項はいくつかありましたが「まずはやってみよう!」と快諾いただけたおかげで、この生地は完成しました。特に吸水性の良いガーゼタオルに包まれるような着心地は、産地の壁を越え、強みを掛け合わせることによって生まれた賜物だと思っています。
こうして、本当に人に恵まれ、繊維産地の技術連係プロジェクト『LOCAL FABRIC』の第一弾商品ができあがりました。
これまでの当たり前を逸脱した製造工程を選ぶ
誰もやったことのないこと≒予測がつかないことをやる
産地の技術連係を実現するには、こういった新たな挑戦が必要不可欠です。
そして、冒頭に引用で書いた“新結合”を生み出すには、誰かがリスクを取る必要があるなと思い知らされました。
まだ、現段階ではイノベーションと呼べるまでのことではないかもしれません。ただ、繊維産業に新たな好循環を創出するべく、リスクを恐れず試行回数を増やしていきたいと考えています。
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