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行動経済学入門:あなたの意思決定を変える心理学の秘密

はじめに

行動経済学は、心理学と経済学を組み合わせた学問分野です。これは、人々の意思決定プロセスを研究する分野です。従来の経済学では、人々は常に合理的な選択をするという前提に基づいていましたが、行動経済学は実際の人間の行動が必ずしも合理的でないことを示しています。

例えば、セールで必要のないものを買ってしまうことや、健康に悪いと分かっていてもジャンクフードを食べてしまうことなどが挙げられます。

この記事では、行動経済学の主要な基本概念をもとに、考察や具体例を通じてその重要性を伝えます。これにより、読者の皆さんが行動経済学に興味を持ち、自分の行動を見直すきっかけや、より良い意思決定を行うためのヒントを得ることができれば幸いです。

なぜこの記事を書いたのか?

主に2つの理由があります。

1つ目は、行動経済学という考え方や学問分野が私たちの日常生活に大きな影響を与えているからです。私たちは毎日、無数の意思決定を行っていますが、その多くは無意識のうちに行われています。行動経済学を理解することで、私たちの意思決定がどのように影響を受けるのかを知り、より賢い選択をする手助けとなるものであると思っています。

次に、最近、以下の参考文献に記載の行動経済学についての本を読みました。内容は、具体例が添えてあり、その説明も端的で大変読みやすく、行動経済学を今まで知らなかった人でも面白く興味深く読めると思います。この記事の内容は『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』からいくつかの例を抜粋しています。
この記事を読んで行動経済学に興味を持たれた方は、ぜひ以下の本を読んでみてください。初学者に適切な内容の本であり、おすすめです。

参考文献

橋本之克(2024)『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学 BEST100』総合法令出版


行動経済学の主要な概念

行動経済学にはいくつかの重要な概念があります。以下にその一部を紹介します。

クラウディングアウト

クラウディングアウトとは、外部からの報酬やインセンティブによって、内発的モチベーションが減少、または消失する現象を指します。例えば、子供が楽しんで絵を描いているときに、報酬としてお金を与えると、その子供は絵を描くこと自体の楽しさよりもお金を得ることに関心を持つようになり結果的に絵を描く意欲が減少するということがあります。

問題:保育園の実験

実験が行われたイスラエルの保育園では、保護者が決められた時間までに、子供を迎えに来ないことが問題になっていました。
その結果、閉園時間を過ぎても保育士が残って子供の面倒を見なければならず、コストと労力がかかります。
そこで、遅刻した保護者に罰金を導入して、その結果を観察することにしました。

さて、どうなったでしょうか?
遅刻する保護者は減ったでしょうか?

結果:保育園の実験

遅刻する保護者は、罰金を導入する前よりも増えました。
さらに、その後に罰金を撤廃しても遅刻する保護者の数は増えた状態のままで戻りませんでした。

このような結果になったのは、罰金を抑止策ではなく、「別のお金」と認識したことが原因と考えられます。
罰金導入前の保護者は、保育園に気を使い、遅れないように努力するという内発的モチベーションを持っていました。
ところが、罰金導入後に保護者は、これを遅刻の「免罪符」としました。
遅刻に対する「罰金」ではなく、保育時間後に少しの間、子供を保育してもらう「対価」と捉えたのです。
その結果、以前は遅刻の歯止めとなっていた「罪悪感」を抱かなくなってしまいました。

罰金という金銭的な負の外発的モチベーションによって、
協力的な保護者であろうとする内発的モチベーションがクラウディングアウトされたのです。

フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ情報でも、提示の仕方によって人々の意思決定が変わる現象のことを指します。例えば、ある製品が「90%の成功率」と「10%の失敗率」のどちらで表現されるかで、消費者の選択が異なることがあります。医療の分野では、手術の成功率を強調するか、失敗率を強調するかで患者の意思決定が変わることがあります。

問題:どちらがより好意的に受け取られやすいでしょうか?

A:この手術は95%の確率で成功します。
B:この手術は5%の確率で失敗します。

A:購入者の90%が効果を実感しています!
B:購入者の10%は効果を実感できません!

プロスペクト理論

プロスペクト理論は、人々がリスクを伴う意思決定をする際の特徴を説明する理論です。
この理論の主要なポイントは、以下の通りです。

  • 参照点依存性:人々は絶対的な金額ではなく、ある基準(参照点)からの利得や損失で価値を判断します。

  • 損失回避:同じ金額でも、得をする場合より、損をする場合の方が心理的インパクトが大きくなります。例えば、1万円を失うことの痛みは、1万円を得る喜びの約2倍といわれています。

これらの特徴は、投資行動や保険の加入、ギャンブルなど、様々な経済活動に影響を与えています。

問題:どちらがより幸せだと感じるでしょうか?

A:昨日は100万円持っていて、今日500万円持っている人
B:昨日は900万円持っていて、今日500万円持っている人

A:自軍攻撃時、命中率90%の攻撃が回避された
B:敵軍攻撃時、命中率90%の攻撃を回避した

上昇選好

上昇選好とは、人々が同じ結果であっても、状況が改善していく場合を好む傾向のことです。
人間は連続して物事が起きる場合に、時間の経過につれて満足が拡大することを好む心理があります。

具体例:目標設定について

目標設定に関する良い見本があります。野球選手のイチロー選手です。
イチロー選手は、シーズン中の目標を「打率」ではなく「安打数」に設定していました。
それにより1年間の長いシーズンを、調子の波を抑えながら高いモチベーションで戦い抜きました。
では、「打率」と「安打数」はどう違うのでしょうか。

まず、打率というのは、シーズン開始からの通算安打数を打数で割った数値です。この数値の特徴は試合毎に常に上下に動くことです。
一方で、安打数というのは、ヒットを打つごとに積み上がる数字です。増えることはあっても決して減ることはありません。

イチロー選手は、上昇選好の原理を活用した目標設定を行いました。
そして年間200安打を10年間続けるというメジャー記録を達成したのです。

魅力効果

魅力効果とは、比較対象の中に「デコイ(おとり)」(対象となる選択肢より、全ての点で劣る選択肢)を加えることで、特定の選択肢への選好が強まる現象です。

問題:どれを選ぶ? ①

週刊雑誌の購読について、以下からどれを選びますか?

A:オンライン版の年間購読:59ドル
B:印刷版の年間購読:125ドル
C:オンライン版と印刷版セットの年間購読:125ドル

問題:どれを選ぶ? ②

週刊雑誌の購読について、以下からどれを選びますか?

A:オンライン版の年間購読:59ドル
B:オンライン版と印刷版セットの年間購読:125ドル

結果

①では、Cを選ぶ人が最も多く、②ではAを選ぶ人が最も多くなります。
この例では「魅力効果」に加え「アンカリング効果」の影響も受けていると考えられます。

アンカリング効果

アンカリング(係留)効果とは、意思決定の際に最初に与えられた情報や数値が、その後の判断に大きな影響を与える現象のことです。

  • 商品選択への影響

    • レストランのメニューで、最も高額な料理を配置する

    • 他の料理の価格が相対的に「手頃」に感じられるようになります

  • 価格設定での応用

    • 「通常価格9,800円→特別価格4,980円」という表示をする

    • より高い価格を先に示すことで、実際の販売価格が「お得」に感じられます

  • 給与交渉での影響

    • 最初に高めの給与金額を提示し、交渉を始める

    • 提示された給与額が、その後の交渉の基準点となり、最終的な合意額も高くなる傾向があります

重要なポイント

アンカリング効果は無意識のうちに働き、たとえその数値が非合理的や無関係であっても影響を受けてしまうことです。例えば、スーパーでの「1人様2点限り」という表示は、多くの消費者に「2点購入」を暗示する機能を果たします。

利用可能性ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、複雑な問題を簡単に解決するための経験則や直感的な判断方法のことです。
これにより、迅速な意思決定が可能になりますが、時には誤った結論に至ることもあります。

ヒューリスティックには、いくつかパターンがありますが、その中の1つが、利用可能性ヒューリスティックです。これは思い出しやすい出来事や情報を過大評価してしまう傾向のことです。

  • リスク認知の歪み

    • 飛行機事故のニュースは大きく報道されるため、飛行機事故の確率を過大評価

    • 実際には自動車事故の方が発生確率が高いにもかかわらず、飛行機への恐怖が強くなる

  • メディアの影響

    • テレビで特定の犯罪が頻繁に報道されると、その種の犯罪が増加していると錯覚

    • 実際の統計とは関係なく、報道頻度が高いものを危険と判断

  • 投資行動への影響

    • 最近のニュースや経験に基づいて投資判断を行う

    • 過去の成功体験が思い出しやすいため、リスクを過小評価

重要なポイント

  • 記憶に新しい情報や印象的な情報が判断に強く影響する

  • メディアの報道によって認知が歪められやすい

  • 実際の確率や統計データとは異なる判断をしてしまう可能性がある

このバイアスを認識することで、より客観的な判断ができるようになります。

行動経済学者のダニエル・カーネマンは利用可能性ヒューリスティックの活用として、結婚している夫婦にそれぞれに「家の掃除」「ゴミ出し」「社交的な行事」などに関する「自分自身の貢献度」をパーセントで聞くというものをあげています。
夫と妻の答えたパーセンテージの合計は、多くの家庭で100%を超える結果になるでしょう。
このようなテストをすれば、実際に自分が家事をやっていたのか相手がどれほど努力をしているか考えるきっかけになります。それを機に夫婦のコミュニケーションが円滑になり、それぞれが相手を思いやれるようになるかもしれません。

人間は誰しも自分の経験が絶対だと思ってしまいがちです。その裏側では利用可能性ヒューリスティックが働いています。

結論

行動経済学は、人々の意思決定の背後にある心理的要因を理解するための重要なツールです。これにより、より効果的な政策やビジネス戦略を設計することが可能になります。

特に重要な概念として、リバタリアンパターナリズムがあります。これは、人々の選択の自由を保ちながら(リバタリアン的要素)、より良い選択へと穏やかに誘導する(パターナリズム的要素)という考え方です。例えば、社員食堂で健康的な食品を目立つ位置に配置することで、選択の自由を制限することなく健康的な食事を促すことができます。

このように行動経済学の知見は、個人の自由を尊重しながら社会的に望ましい行動を促すための具体的な方策を提供します。初学者にとって、これらの基本的な概念を理解することは、日常生活や仕事において有益です。

私も、まだまだ行動経済学について学びはじめたばかりなので、良い書籍などあればご紹介いただけると幸いです。これからも継続して学んでいきたいと思います。
行動経済学とその書籍の紹介でした。最後までお読みいただきありがとうございました。

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