君子豹変
内外の情勢に応じ、的確な判断を行って、必要とあればそれまでの方針や考え方を大きく転換させることは重要です。その決断と実行は時機を得ており、かつ非常なスピード感を伴うことにより大きな効果をもたらすことが多々あります。臨機応変は、株式市場での投資家たちの行動や、あらゆるビジネス分野で優秀な人たちが採用している原則ではないでしょうか。学問や科学技術の分野でも、研究の戦略上の岐路に立つとき、あるいは研究室の運営や大きなプロジェクトの対応で、同様のケースが少なからずあります。その主なポイントは、変化への適応、それ以前の環境やルールではなく新しい環境やルールに適応することを重視するという点にあります。「君子は豹変する」という言葉がありますね。それは、どういう意味なのでしょうか。豹変という表現が、変化を特に強調しており、劇的な変化を厭わない、強固な意志、決心を感じさせます。個人的には、私は豹変の人とよく言われます。豹変はよいのですが、もともと、そういう意味なのでしょうか?
中国の古典、儒教の五経と言えば、詩経、書経、礼記、易経、春秋ですが、このうちの易経は、もともと周易(英語では I Ching)の名の書籍で、原文と英語訳をWebページで閲覧できます。さっそく見てみましょう。
https://ctext.org/book-of-changes/yi-jing/zh
古代の中国ってすごいと感心します。そこには何といっても2進数が登場しています。陰と陽を破線と実線の記号にあて、縦に3つならべて0から7まで(あるいは1から8までともいえる)の数を表現します。3ビットということです。破線を3つ縦に並べた000(=0)相当のものは「坤」(意味はearth)です。実践を3つ縦に並べた111(=7)相当のものは「乾」(意味はheaven)です。その組み合わせによって64通り(6ビット)としています。周易は64の卦に分かれています。上のWebページで、49番目の卦を見てみましょう。革です。革の前に、破線、実線、実線、実線、破線、実線と順に6列並べた記号がついています。これは「兌」(011)と「離」(101)の組み合わせて、それを漢字では「革」としたのでしょう。
周易があまりにも面白いのでちょっと脱線してしまいましたが、周易の易経49番目の卦、革卦を見てみましょう。
周易の象傳49番目の卦、革卦にもほぼ同じような文言があります。
意味が平明になるように、同じホームページの英語の解釈を見てみましょう。今回注目は、6と7です。7がいわゆる君子豹変、6がちょっと似た表現大人虎変です。まずは、周易の易経49番目の卦、革卦のほうです。
次に、象傳49番目の卦、革卦のほうです。
いかがでしょうか。たぶん、現代日本では、本来の古典の意味とは違った理解で使っているように思われます。ここでは、豹変、虎変ともに、華麗でエレガント、美しく人を惹きつける魅力あふれる変化、旗幟鮮明でわかりやすい変化です。素早い臨機応変の... というよりも、大きな方針変更をする際には、そういう明快かつ胆力もあり人を得心させるような提示をするのだと言っているのでしょう。文中にあるように、それに対して、小人は、顔色を変えるだけで支配者に恭順の意を示すだけ、と書いていますね。無節操な変貌ぶりのことを今日豹変と揶揄したりすることがありますが、それは、君子豹変ではなく、その次にある小人革面が本当はぴったりというところです。
豹変は、ただの変化ではなく、外から見て美しく魅惑的な変化です。個人的には、人が驚くような、人がついていけないほど速い変化というのにもとても興味があります。また、そんなことも書いてみたいです。
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