コンプソンズ『ビッグ虚無』
作・演出/金子鈴幸 (会場:駅前劇場)
ハプニングバーに友達と一緒に来た男はナンパが上手くいかず。常連客は愚痴を言い。男は旦那を不倫させるためにハプニングパーに来た人妻と出会い、意気投合しつつあったがその時怪現象が起こりプレイルームにいた旦那と相手の女は突然消失してしまう。
コンプソンズは、長編も短編もサブカルネタを中心に不謹慎なブラックユーモアを多発する。しかし、長編ではそれが人生の苦しみと結びつくことによって壮大な物語展開へと転がっていく。
コミカルに始まったこの物語も男が病気であと数年の命だと自嘲的に笑い、人間が消えると黒い始まりになっていき、怪現象が起きた数年後に当時店に泣いた客が集まり現象の再考察する。その数年間で成功した者は怪現象を自分に幸運をもたらした奇跡とあがめたり、病気を患っていた常連は死去していたり、人妻は旦那を探すためハプニングバーの店員になっていたりと人生が大きく変わっている。
奇跡の考察も、人妻はアメリカを犯人とする陰謀論にはまってしまい荒唐無稽なことばかり。そのなかで、人間観察をしている常連と店長だけがあの時と変わらず客観的に見守っているのが癒し。
やがて、数年の時を経た男は通り魔になってこの店に戻ってくる。
このように書くと、凄惨な出来事の中でサブカルな笑いが展開する作品のよう。過去作で言うと、『われらの狂気を生き延びる道を教えてください』のような作品かと思った。あれも陰謀論がでてくるし。
だが、ハプニングバーは異世界となり死んだ常連客はサキュバスとなり、やがて物語構造を押し流すナンセンスの嵐。現代の孤独な人間を描いても、気づけば大海原で漂流している地獄模様のブラックコメディ。
コンプソンズいつものメンバーは流石に上手くカオスをさらに盛り上げていく。大宮二郎の性行為中の叫び声のくだらなさ。
カオティックな中で堀靖明が演じる店員の常識人と愛情が入り乱れる佇まいが特に好きだった。安川まり演じる常連客の正体にうすうす気づきながら好意を持つ姿。
そして常連客も気真面目な性格で使命がありながら、店員や常連客と交流を深めていく。この二人の存在が混沌のなかで清涼剤だった。
コンプソンズはナンセンスで進めながらもそこにヒューマニズムを感じさせる作品を上演してきたが、今回は最初から最後まで無教訓意味なし演劇で突っ走っていった。
演劇の美学って何?メッセージ性、人間描写って何?表現っていう物は全部ギャグだよ って言いながらに作品自体を燃やしながら高笑いをしている。
そんな作品。
実のところ、それをやっているのがオルギア視聴覚室で上演している短編作品群で、私はオルギアは入りからコンプソンズを見た人なので本公演ではちゃんと物語をやっていてびっくりした。
そして今回短編のテイストを長編で描いたという訳さ。
ナンセンスでキチンと物語描けていて岸田賞の候補にも挙がってと注目度上昇中の中で、俺の本質はナンセンスだとブチぎれたような作品。かっこいい。