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南極ゴジラ『BIRD BIRDER BIRDEST』

作・演出/こんにち博士(会場:すみだパークシアター倉)
最新技術でよみがえったダーウィンと高校生がディベートする。高校生は恐竜が鳥に進化した理由で進化論を否定する。理由はとある小惑星で見つかった恐竜の化石。地球から吹き飛ばされ化石となった恐竜はビデオを持っていた。そこに映っていたのは、約2億5190万年前、学校に通っている恐竜たちの姿。

冒頭、全員の演奏でたま『電車かもしれない』をカバー。岡本ゆい演じる少女が歌唱。原曲の不気味さはありつつ賑やかさと岡本の透明感ある歌声で爽やかな始まり。
恐竜が鳥へ進化するまでの3時代(三畳紀、ジュラ紀、白亜紀)を学生生活3年間に例えた青春モノ。恋に部活に馬鹿が大わらわ。

最初はコミカルだが、同じクラスに草食と肉食がいることによっておきる軋轢。お調子者の男子は転校生に恋をするが恋心の暴走によって取り返しのつかない事態が起き、友人間でもトラブルが発生。と、どんどん苦味が現れる。
学生の成長を恐竜の進化と重ね合わせ、変わっていく自分、卒業後の進路を一人一人カメラに語り掛ける。
主人公は高くジャンプする恐竜版鳥人間コンテストみたいな部活に熱心。(ただし、自信はジャンプしないサポート役)。ただ、おバカで明るい彼女もどんどん自分のやりたいことに板挟みになって悩んでいく。
卒業はもうすぐ、そんなときにやってくる隕石。さぁここで飛ぶことと皆を撮影したビデオが繋がってくる。
皆の思いを抱いて彼女は飛び立つ。そんな彼女を飛ばすためにみんなで力を合わせる。集団芸で人力フル利用で生み出す終盤の怒涛の勢い。
今回は生バンドの演奏付き。舞台の端に演奏スペースがありそこに、鱒、U乃、柴田碧(パソコン音楽クラブ)による楽器隊。現在人気急上昇中のDTMユニットメンバーである柴田がいるなんて豪華。
物語に臨場感に疾走感に焦燥感。リアルタイムで加わる音楽の相性抜群。裏方として大きな役割、と思いきや終盤に音楽隊があのーと声をかけてくる。この学校の軽音楽部なんですけど僕たちも手伝わせてください。あんたたちも登場人物なんかい!と一笑い生み出してからの総力戦。
ラストの美しさに、ガチで泣く

沢山の面白さが今回も炸裂する大作。
ただ要素が多すぎて消化不良な部分が。
例えば冒頭で唄う少女が歌うのでこの子が物語の鍵を握るのかと思う。実際、男子が惚れて騒動を生み出したり主人公の部活のピンチヒッターになったり活躍はするもののあくまで主人公のクラスメイトとしての役割。で、あれば冒頭は主人公が歌った方が良かったのでは?
前作『(あたらしい)ジュラシックパーク』は天の声をしていた女優が中盤になり重要人物として満を持して登場し大興奮。ということもあるので、冒頭に印象的に出た少女が中盤にいよいよ登場したら、やはりここから大きく展開するカギを握っていると思ってしまうのでスカされてしまった。

また、校外学習から抜け出そうという男子の計画が気づけば怪しげなカルト集団からの逃走劇になるのもやりすぎな面白さで楽しい。が、作品コンセプトである進化の3時代を高校3年間に準えるという所から外れて普通に恐竜主人公の学園ものドタバタ劇をやっている。
このコンセプトが生きるのは3年生になってからであり、面白いことは間違いないが作品コンセプト的には1年生2年生は必要がない。3年生だけに絞って90分くらいで仕上げても同様の面白さになってそう。博士のエンタメ魂が作品コンセプトとアンマッチを起こしている。
面白いんだけど、長編というより3つの短編で構成されるオムニバス物という感じ。ただ、明らかに長編として書かれているので繋がってはいるので繋がっている割に繋がりが弱い。
何より友達を食べちゃうという重要な要素が流されてしまう。何の解決もされないまま隕石が来てしまうのは脚本の不備だとは思う。
そうそう、冒頭の蘇ったダーウィンと学生のディベートも回収されないのも不満。現代の視点で恐竜のビデオに録画された映像を語るという枠を用意したのなら回収しないと気持ち悪い。額縁が途中でちぎれてしまっている。

前作の構成と比べると、比重が後半によってしまっている。
ただ、それでもカルト集団からの脱出はそれまで嫌な奴だった肉食恐竜のクラスメイトが活躍していたり、後先考えず恋心に暴走する男子の愚かさを描いたり、南極ゴジラ流のトンチキ恐竜ワールドを肉体に舞台美術たっぷり使って迫力満点。
そして、見事に飛翔。

そうそう、冒頭曲のオリジナルを歌う元たまの知久寿焼さんがこの公演と同じ9月に出した新作が『hyougaki』なのは博士は知っていて狙ったのか偶然なのか気になるところ。


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