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【"Heroes" 】(1977) David Bowie ベルリン期を彩る華麗なるボウイの傑作

私がデビッド・ボウイで1番好きなアルバムです。このジャケットのポーズ、その気になって真似したものですよ…(苦笑)
先ずは、ボウイを代表する表題曲 "Heroes" 。
これほどロマンチックな曲があるでしょうか…。

ドイツ・ベルリンの壁を舞台に、東西に分断された2人の恋人の刹那を歌ったとされる歌詞。「僕らは1日だけなら英雄になれるんだ」実に甘美なフレーズですね〜。
シンセサイザーに通して弾いたと言うスペイシーなギタープレイは、キング・クリムゾンのロバート・フリップ。ヨーロッパ的な美しさに貫かれた陶酔感ある曲ですが、淡々とした歌い口から徐々に情熱を帯びていくボウイのボーカルが何とも胸に迫ります。まさしく時代を超えた屈指の名曲と言えますね〜。

邦題『英雄夢語り(ヒーローズ)』

本作はデビッド・ボウイの12作目。ベルリン時代と呼ばれるヨーロッパ主義に傾倒した時期の作品。彼を代表する1枚です。

70年代のボウイって変容の人なんですよね。フォークロックスタイルでデビューすると、突如グラムロックへと転身してスターの座に駆け上がり、黒人音楽の新しい波にアンテナが触れれば今度はソウルミュージックに挑戦……といったようにカメレオンのような変遷でした。そして、次がベルリン時代。

当時の西ドイツに身を潜めると、ボウイはブライアン・イーノとの共同作業で、シンセサイザーミュージックを実験的に取り入れていきます。その成果が【Low】(77年)。ヨーロッパ美学を強烈に発する陰鬱で野心的な作風は、インストゥルメンタルを中心にした内容で物議を醸します。そしてその延長線上で製作されたのが本作【"Heroes" 】となります。私個人は、よりポップでロック色を強めた本作の華やかさに惹かれますけどね。

さて、ベルリン時代のボウイですが、一般的には、ヨーロッパ文化へのある種のストイックさ、純度の高さで評価されている気がするのですが、私はそれだけでは片手落ちだと思っています。というのも本作、リズム隊は全員黒人ミュージシャンなのです。
デニス・デイビス(drums)、ジョージ・マレー(bass)、カルロス・アロマー(guitar)の3人は、ボウイのソウルミュージック期の作品【Young Americans】(75年)【Station to Station】(76年)からバッキングを務める強者メンバー。彼等はそのままベルリン期にも参加しているのです。
つまり、ベルリン時代のボウイというのは、下支えするリズムに対しての意識も高く、ヨーロッパ美学と黒人音楽の強靭さを掛け合わせたハイブリッドな作品を創っていたと言える訳なのです。故に私は、デビッド・ボウイ最強の時代だと信じたい、イヤ、信じています。


(アナログレコード探訪)
〜ボウイ史上最悪の音質〜

左から、英国盤、米国盤、日本盤、近年盤('17年)

日本人写真家の鋤田正義が撮影した有名なジャケット。モノクロにセンスを感じます。各国ジャケに当然違いはありません。ただし英国盤のみコーティング仕様です。

英国初回盤 マトA2 /B2
米国初回盤 マトA1/B3
日本初回盤
パーロフォン再発盤(2017年)

本作、実は音が酷いのです。各国盤、すべて悪い!こもり気味で、中央に寄せたようなミキシング。楽器の分離が悪いので色んな音がぶつかり合って団子状で飛び出してくる感じ……これはもうボウイで1番音の悪いアルバムと認定しますッ!

英米盤ともに音圧があってうるさく、同じ傾向の音でした(両方の内周部に「STERLING」刻印有り。米国カッティングと断定)。寧ろ整音された日本盤の方が、私は疲れずに聴けました。再発盤、リマスターCDは音量上げるとボウイの歌がボヤケるなど粗が出ます。小さな音で聴く分には良いんですが…。
ボウイのアナログってあまり音が良くない!?ので、本人は音質には関心が無かったのかもしれません。苦肉で1枚選ぶならコスパで日本盤でしょうか。アナログで聴く必要もないかも。

Side-A
① "Beauty and the Beast"

アルバムのオープニングトラック。派手なアレンジ、特にロバート・フリップのギターシンセが効果音のように飛び交っているのが印象的です。でもよくよく聴いてみると基本はR&B風の曲ですね。女性コーラスが華を添えていてGood。

⑤ "Blackout"

力強いビートの佳曲。やはりブラックミュージックからの影響を感じます。それでも【Young Americans】の頃と比べると、もっとスタイリッシュなファンクビート。都会的な洗練具合がミソですね。
映像は当時のライブツアー。ギターはロバート・フリップに替わってエイドリアン・ブリューが担当。彼は80年代のキング・クリムゾンに加入します。プログレとの接点が見えますね。

Side-B
② "Sense of Doubt"

B面はインストナンバーが4曲続きますが、前作【Low】の流れを汲むのがこちら。ベルリンの陰鬱な趣きは、瞑想の世界にも通じそうです。TVライブパフォーマンスでも電子音楽の密室的な雰囲気が伝わってきます。


③ "Moss Garden"

ドイツの次は日本。何とここでは琴が登場。シンセサイザーに和のテイストが加わる冒険作です。音の風景はヨーロッパを飛び越えて京都の苔寺へ。アンビエントな冷えた空気が漂いますね〜。私は大好きな曲です。
ちなみに次のB-④ "Neuköln" ではアラブ風のフレーズも出てくるなど、ボウイの視点が地球儀をぐるりとワールドワイドに広がっていく辺りも本作の興味深いところです。

今は亡きボウイ。晩節の作品【The Next Day】(13年)には本作のジャケットがモチーフに使われていました。彼自身にとって、もっともクリエイティブだった頃の作品、という思いはあった気がしますね。冬には無性に聴きたくなるベルリン期のボウイです。

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