【Bloodshot】(1973) J. Geils Band アトランティック期最大のヒット作品
本作と繋がる忘れられないコンサートの思い出を一つ。
1997年1月21日、渋谷クラブクワトロに元J・ガイルズ・バンドのピーター・ウルフの来日公演を観に行きました。ちょうどその頃私は再上京して間もなく、まだ東京での生活が軌道に乗らず、心待ちにしていたコンサートでした。
当日、オールスタンディングの狭い会場に客はまばら。日本でのJ・ガイルズ・バンドの人気からすれば予想出来たとはいえ、ちょっと寂しかったことを憶えています。
しかしステージが始まるとピーター・ウルフはお構いなしにアクセル全開。ソロ最新作【Long Line】(96年)の曲を中心に、かつてのナンバーも惜しげもなく連発してくれました。当時50歳を過ぎたウルフでしたが、手抜きなしで2時間半を超えるビッチリのパフォーマンスにはただただ感動でしたね〜。
途中、ステージから降りて客と歌ったり、所狭しと客席を走り回ったり(笑)。後方の私の所にも来てくれたので、思い切ってタッチしてみると彼のシャツは真冬なのに汗でビショビショ(細い躰でした)。これが長年ライブサーキットでファンを獲得してきたミュージシャンの凄味なんだと心底実感しました。今でも私が観た中で1、2を争うコンサートの思い出です。
この日のステージでは勿論、本作収録の曲も歌ってくれました。思い出深いのは "Give it to Me" 。
♪ギービットゥミ〜、ギービットゥミ〜
J・ガイルズ・バンドが初めてレゲエに挑戦して、シングルヒットした曲です。本作を初めて聴いた時、彼等とレゲエの組み合わせが面白く思えましたが、楽しいこの雰囲気は、生ステージでも観客をバッチリのせておりました。
デビューして間もない初期のJ・ガイルズ・バンドは、ブルース、R&Bのカバーを通してストレートな黒人音楽へのオマージュを表現していました。押して押して押しまくる直球勝負ですね。勿論、これが彼等の真骨頂ですが、私個人は寧ろその直後が彼等の一番良い時期、面白い音楽を演っていた頃だったように思います。
音楽性のバリエーションが豊かになって、バンドのノリにもしなやかさが出てきました。前に猛進するだけでなく駆け引きを覚えて、ポップな匙加減も丁度いい。本作、【招かれた貴婦人】(73年)【悪夢とビニールジャングル】(74年)。迷いが出たとの意見もありますが、私の大好きなJ・ガイルズ・バンドです。
これまた私が好きな相撲で喩えるなら、押し相撲の力士が突っ張るだけでなく、いなす、はたく、など相手との距離を図った技能相撲と似ているかもしれません。時には相手の差し手をたぐったり、小手投げを打つような機敏な取り口。往年の関脇・貴闘力の相撲のような臨機応変さと男気が、この時代のJ・ガイルズ・バンドにはあったように思いますね〜。
Side-A
① "(Ain't Nothin' But a) House Party"
威勢のいいイントロ。これぞJ・ガイルズ・バンドです!でも歌が入るといささかリズムワークが鈍臭くて、イモっぽく聞こえるのはB級バンドの魅力ということで御愛嬌(失礼)。フィラデルフィア出身のR&Bグループ、ショウ・ストッパーズのカバー。バンド一丸となった演奏でヒートアップしていきます。
③ "Back to Get Ya"
こちら腰の座ったロックナンバーです。本作から取り入れたファンクビートを大きくフューチャー。ギターのJ・ガイルズの16ビートカッティングが決まってます。
間奏にはお約束のマジック・ディックのブルースハープ、セス・ジャストマンのオルガンが畳み掛けます。アレンジに幅が出てきたことが窺える本作の好トラックでしょうか。
Side-B
① "Southside Shuffle"
冒頭のバタ臭い感じが如何にもアメリカのバンドっぽくてイイ(笑)。パーティバンドらしいムードを振り撒く彼等を代表する一曲です。ウルフも元気よく吠えていますね。リズムは前のめりでなく、バックビートに重心を置いた余裕のあるノリに。バンドの変化を感じます。
③ "Start All Over Again"
彼等のアルバムに必ず収録されるバラード。決して気の利いたメロディでなく、器用な展開もない。でも愚直でストレートな歌心にホロッとさせられます。少しばかり哀愁を漂わせた男のバラード……泣かせるんじゃねえよ。
ピーター・ウルフ公演の終演後、しばらく興奮を冷ましてから私は会場を後にしたのですが、人気の少なくなった冷え込む渋谷の街を歩いていたら、肩を抱き合いながら "Give it to Me" を大合唱してる男性2人組が居ました笑。何とも微笑ましくて、嬉しくなってしまいましたッ!
日本にも熱いJ・ガイルズ・バンドのファンが居るんだ。少しはピーター・ウルフに伝わったかなと思える夜でした。