【Bang】(1973) James Gang トミー・ボーリンの多芸ぶりが光る中期の好盤
イーグルスのジョー・ウォルシュが、かつて在籍したジェイムス・ギャング。彼のインパクトが強いため、その後もバンドの歴史が長く続いたことは余り知られていません。
しかしこのバンド、掘れば掘るほどなかなか面白いキャリアなのです。1977年の解散までに各時期にそれぞれの個性があって、70年代アメリカンハードの裏街道とはいえ興味が尽きません。
ジョー・ウォルシュ期を経て、カナダのブッシュというバンドからロイ・ケナー(ボーカル)とドミニク・トライアーノ(ギター)が参加した第2期(1971〜72年)があり、これが割とファンキーな味。
次にギタリストがトミー・ボーリンに交代する時期(1973〜74年)では、完全に彼が主導権を握って、それまでとはひと味違った感性をバンドに持ち込みます。
当時のトミー・ボーリンはフュージョン系のビリー・コブハムの【スペクトラム】(73年)に参加して一躍注目を集めたギタリスト。
そもそもジェイムス・ギャングへの加入はジョー・ウォルシュの推薦だったそうです。
この第3期にあたるトミー・ボーリン時代にバンドは2枚の作品を残していますが、本作はその1枚目となります。
ジョー・ウォルシュ期の2ndからバンドはABCレコードに在籍していましたが、本作より米国アトランティックレコードのサブレーベル、アトコレコードに移籍しています。
ベッドの上で娼婦らしき女性?とメンバー4人が戯れるジャケット。こんなポップな構図もバンドでは初めてのこと。心機一転という心意気が伝わってきます。
プロデュースはジェイムス・ギャング名義でリミックスは名匠トム・ダウド。
本作のレコードのUS盤が、素晴らしい音なんです!低音はズッシリ、高音は突き抜けるようで、CDでは味わえない臨場感ある感触。アナログレコードって音が良いんだなぁと実感した1枚でした。
ジェイムス・ギャングは1973年の夏、トミー・ボーリンのオーディションを行ないますが、セッション15分後には加入が決定したそうです。
本作では音楽面を若くて才能溢れる彼にほぼ一任。新加入ながらボーリンは全9曲中8曲を共作or単独で書き、リードボーカルも1曲取っています。バンドは彼の才能に賭けたのでしょうね。
しかし、このフロントマンを迎えながらバンド活動を維持するスタイルは、どこか英国のフリートウッド・マックと似ていますね。
【Bang】(1973)
A-①「Standing In The Rain」
②「The Devil Is Singing Our Song」
③「Must Be Love」
④「Alexis」
B-①「Ride The Wind」
②「Got No Time For Trouble」
③「Rather Be Alone With You」
(A.K.A. Song For Dale)
④「From Another Time」
⑤「Mystery」
ボーリン期の大きな特徴は、よりライトでポップな感性を注入した事でしょうか。それまでの混沌とした音、土着的な性格とは違ったニュアンス。エフェクターを多用したスペーシーなギターサウンドも印象的です。
A-①「Standing In The Rain」 はボーリンがバンドに最初に持ってきた曲らしく、非常にポップで端整なロックナンバー。この時期の代表曲と言えます。
若干ブリティッシュロックぽく、P.マッカートニー&ウイングスの「ジェット」を連想させます笑。イントロのフィードバックからギュンギュン高速で鳴り響くギターの音は、ボーリンが多用したエコープレックスという機材。彼のエフェクター使いぶりが発揮されてます。
A-②、A-③、B-①はこの時期の特徴とも言えるライト感覚のハードロック。
ギターリフにもサウンドにも軽やかさがあります。
B-②「Got No Time For Trouble」は米国人らしくサラッと乾いたアコースティックのミディアムナンバー。私はこの曲大好きです!
仄かな土臭さも爽やかに感じるのは、やはりボーリンの資質でしょうか。
ドゥワップ風アカペラのB-③の後は、ラテンパーカッションとファンキーなリフで押しまくるこちらB-④「From Another Time」。
本作1番の熱演ぶりで、ラテン風味に若干フュージョンが混じり合ったような作風。後半のボーリンの縦横無尽のギターソロがカッコいい!まさに水を得た魚ですね。
本作ラストB-⑤「Mystery」はアコースティックなマイナー調バラード。途中、オーケストレーションによる壮大な演出が入る所は、ジョー・ウォルシュ期を彷彿とさせます。
それまでのジェイムス・ギャングとはまた違った、トミー・ボーリンの多彩な音楽性が見られる本作。ハードロックの枠に囚われない幅広い一面が窺えるアルバムだと思います。
ギタリストとしての派手なプレイならばディープ・パープルの【カム・テイスト・ザ・バンド】ですが、ボーリンの純粋なコンポーザーとしての良さが本作には出ていると思います。私にとってのトミー・ボーリン、フェイバリットアルバムです!
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