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【There's One in Every Crowd】(1975) Eric Clapton レゲエの陰に隠れたクラプトンの情感溢れる歌心

70年代のエリック・クラプトン諸作の中では地味な扱いになるのが、本作【邦題:安息の地を求めて】。でもこの1曲目の "We've Been Told (Jesus Coming Soon)"、私はスゴく好きなんですよね〜。

イントロのアコースティック・ギターから何とも言えない寛いだ雰囲気。繊細なフィーリングと土の香りがほのかに広がって、リラックスした空気が何とも心地よいのです。
原曲は、戦前ブルースマンのBlind Willie Johnson。霊歌っぽい風情のオリジナルを全くアレンジを変えて仕立て直すところがセンスです。スライド・ギター、オルガン、掛け合いの女性ボーカル、クラプトンの歌声……すべてがごく自然な感触。私にとって、秋の日の晴天にのんびり聴きたくなる1曲です。

レイドバックと称されるこの時代のエリック・クラプトン。デラニー&ボニー、ザ・バンド、JJケールらに影響を受けた米国南部のアーシーな佇まいを前面に出した充実期ですが、どうも本作はイマイチ?な評価です。
でも実のところ、通なクラプトンファンには密かな人気作だったりします。え?意外?歌手兼ギタリストの山崎まさし氏はこれをベストに選んでおられました(私は【No Reason to Cry】派ですけど)。

前作【461 Ocean Boulevard】との姉妹篇でありながら敬遠されてしまう本作。原因はただ一つ。レゲエへの過渡な接近ということになるでしょう…。「アイ・ショット・ザ・シェリフ」の全米No.1ヒットで気を良くしたのか、本作の録音は何と聖地ジャマイカ。アルバム中、3曲がレゲエビート、更にボブ・ディランの「天国への扉」を賛否両論のレゲエバージョンでリリースするなど、この頃のクラプトンはちょっとしたレゲエの「マイブーム」だったようです。

ただし、本作で見逃してならないのは、後半4曲にズラッと並んだクラプトンの単独自作曲です。ソロデビュー以来自分で歌う事を決めたクラプトンが、デラニー・ブラムレット、ボビー・ウィットロックといったスワンプ畑の仲間の助けを経て、ようやく思い描いた「アーシー」な自作曲をモノにしていった成長の跡が見られます。
米国人ミュージシャンで固めたバックバンドとのコンビネーションも絶好調。個人的にはクラプトンの乾いた感傷が楽しめる一作です。体調次第ではレゲエだって……まぁ、悪くないですよ(笑)

インナースリーブの絵もクラプトン作
こちらもレイドバック!?


(アナログレコード探訪)

微妙に違ってくるジャケットや文字の色味
英国盤のみ写真が浮き上がった仕様です
(左から日本盤、米国盤、英国盤)
英国初回盤、マト1/1

レイドバック期のクラプトンは、クリームのマネージャーだったロバート・スティグウッドが設立したRSOレコードの所属でした。(ロバート・スティグウ​​ッド・オーガニゼーションの頭文字を取ってRSO)。
この時代の作品は、英国盤の音質の良さが際立ちます。英国原盤なのでしょう。本作もバランスが整っていて音量も大きめ。鮮度も鳴りも良好。迫力があります。

米国初回盤(アトランティック配給)

一方、米国盤もよく鳴りますが、やや高域がキツくキンキンした感触が気になります。ボーカルも英盤に比べて大きめ。この2つは米国プレス全般によく見られる特徴ですね。

ポリドール・レコードの見本盤

その点、日本盤が意外に悪くない印象です。少々こじんまりしてますが、音はそこまで潰れておらず、バランスもよく、低域もシッカリ出ているので聴いていて疲れません。同じポリドール配給ですから、英国マスターを使って製作されたのでしょう。コスパ重視なら日本盤がオススメです。


Side-A
⑤ "The Sky Is Crying"

前作でも取り上げたエルモア・ジェイムスのブルースのカバー。原曲よりも気怠く、鈍重なリズムにピアノ、オルガンが巧妙にバッキングして、これぞレイドバックといったスローブルースに仕上がっています。クラプトンも「ダル」な歌を披露。エルモアに敬意を表した粘っこいスライド・ギターも聴きものです。

Side-B
① "Singin' the Blues"

作者はメアリー・マクリアリー。後にレオン・ラッセルと結婚してデュオとなる黒人シンガーです。原曲は彼女が1974年に発表。
クラプトン版はラテン風なリズムも加わって躍動感が溢れてますね。マーシー・レヴィとクラプトンによるツインボーカルが、デラニー&ボニーを彷彿とさせます。後半は太めのトーンでギターソロ。当時ライブで使っていたギブソン・エクスプローラーでしょうか。

② "Better Make It Through Today"

本作の白眉でしょう。英国人らしい感傷と、情感がこもったクラプトンの傑作です。マイナーブルースを弾くギタリストはピーター・グリーンなど名手がいますが、ブルーな感性を楽曲や歌に昇華できたところに、クラプトンが抜きん出た理由があるような気がします。しみじみと「歌心」が沁み入ってきます…。

④ "High"

こちらも私の好きな一曲。爽快なミディアムテンポに乗って、今とは違う弱々しいクラプトンの歌声が愛らしい。癒されますね〜。

とにかくリラックスした雰囲気の本作。力まず、ゆったり、しんみりと音楽に触れていたい時にはいい1枚なんです。ある意味、レイドバックという言葉が一番似合ってるクラプトン作品かもしれませんね。体調次第ではレゲエだって…(笑)。

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