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Wendy Waldman 〜アメリカ西海岸を彩った燻し銀のシンガーソングライター

夏、まだまだ暑い日が続きますね。でも、こんな季節だからこそ聴きたくなる曲があります。
私は朝、駅を降りて仕事へ向かう中、ここぞとテンションを上げるならこれです。夏の勝負曲。ウェンディ・ウォルドマンの1978年のナンバー、その名も "Long Hot Summer Nights" !

ウダるような夏の暑さを表現したようなベースのリフレイン。そこに乗るウェンディの歌声の爽やかなこと。聴き所はサビ!西海岸ロックらしいフックの効いた歌メロをウェンディが力強く歌い上げます。これが実に心地良いんですよね〜。
彼女最大のヒット曲(全米76位)なんですが、もし当時関わりも深かった歌姫リンダ・ロンシュタットが歌ったならば、間違いなく大ヒットしたハズ。私は密かに確信しています。

ウェンディ・ウォルドマンは、1960年代末から活動する米国のSSWです。カーラ・ボノフ、アンドリュー・ゴールド、ケニー・エドワーズ(リンダが在籍したStone Poneysのメンバー)とBryndleというグループを結成しましたが、知名度ではマイナーかもしれません。

私が彼女を知ったのは、多くの方と同じくマリア・マルダーの1st。マリアの初期のアルバムには、必ずウェンディの曲が取り上げられていたのです。しかも、その作風は何処かエキゾチックで不思議な奔放感に溢れていて……そう、まるで彼女のルックスそのままの佇まいなのです。ちょっと捉えどころのない自然児?っぽい魅力です。

あまり表立って語られることの無いウェンディの作品ですが、今回私も1枚ずつ針を落としながら味わって、順を追って紹介していきたいと思います。夏の暑さに、少しばかり一服の清涼剤となることを願って…。

【Love Has Got Me】(73年)

Bryndleが頓挫した後、大手ワーナー・ブラザーズに引き抜かれて、ソロデビューを果たすウェンディ。記念すべき処女作です。
フォーク、ブルース、メキシコのマリアッチ風、スワンプ・ロック風など、やたら音楽のバックボーンが豊富だと思ったら、彼女の祖父、父は作曲家、母はバイオリニストという音楽一家の血筋。どんなジャンルにもアクセス出来る素養があったようです。
ゲストにBryndleの同僚の他、ラス・カンケル、リーランド・スクラー、ウィルトン・フェルダー等LAの精鋭が参加。ワーナー期待の新人だった事が窺えます。
マリア・マルダーは本作の "Vaudeville Man",  "Gringo En Mexico" をカバー。本家ウェンディが弾き語る前者もノスタルジックな趣きでは負けていません。


【Gypsy Symphony】(74年)

マッスルショールズ録音の2ndアルバム。プロデュースは前作と同じくチャールズ・プロトキンで、彼の提案で若いウェンディを冒険させようとの狙いだったとか。
その甲斐あって、元々彼女に備わっていた土着的な音楽センスが、南部録音の豊潤さと相俟って見事に花開いた作品です。
1人女スワンプ・ロックとは乱暴かもしれませんが、自らホーンセクションの譜面まで書き上げたという彼女は、当時でも珍しいタイプのSSWだったのでしょう。曲はパンチの効いた "you got ride" 。

 

【Wendy Waldman】(75年)

ウェンディの曲には、時にローラ・ニーロ、時にキャロル・キング、はたまたジョニ・ミッチェルなど、先達のSSWの面影が覗くときがあります。
弾き語りと簡素なアレンジで仕上げた本作3rdは、自作の方向を模索した時期だったのかもしれません。そんな中で光るのは、彼女らしく形に囚われず朴訥と歌った曲。マリア・マルダーが取り上げた"Wild Bird" は美しい。
山あいの断崖を、一羽の鷲が飛び立っていく光景が思い浮かぶようです。


【Main Refrain】(76年)

作品を重ねる毎に妖艶なジャケットへと変わるウェンディ、中身の方も段々と洗練されます笑。4thアルバム。プロデュースは幼馴染みだったというピーター・バーンスタイン。リンダ・ロンシュタット、ワディ・ワクテルをはじめ西海岸コミュニティを総結集させた豪華メンバーによる力作です。
初期のイナタさから一転、ウエストコーストに寄せた作風は透明感もあり、彼女のSSWとしての最高作かと思います。ライトで伸びやかな "Goodbye Summerwind" が気持ちいい。


【Strange Company】(78年)

ゴシップ誌を模したアートワークが印象的な5th。ウェンディが初めてロックバンドを率いた作品です。
メンバーは、ピーター・バーンスタイン(前作プロデューサー, base)、マーク・ゴールデンバーグ(guitar)、スティーブ・ビアーズ(drums)、クレイグ・ハル(guitar)の4人。この内、クレイグを抜いた3人が中心となり、後にデビューしたのが、西海岸パワーポップバンドのクリトーンズです。
リンダ・ロンシュタットがニューウェイヴに走った【激愛】(80年)にて活躍するマーク・ゴールデンバーグは、人脈から考えて、ウェンディが紹介したのではないかと想像するのですが、どうなんでしょう〜!?
本作は前掲の"Long Hot Summer 〜" をはじめリンダを意識した西海岸ロック風。ワーナーでの最終作となりました。


【Which Way to Main Street 】(82年) 

ここからは駆け足で。80年代に入るとウェンディはエピックに移籍。よりロックテイストを強めた6thは、ソリッドな音作りが今聴くとかなりキツい…。ゲストにピーター・フランプトンが一曲参加。激動の渦に飲まれる革ジャン姿のウェンディ、何処へ行く?

【Letters Home】(87年)

暫しレーベル契約に見放され、5年のブランクを経てサイプレス・レコードから発表した7th。悪くはないですが、こなれ過ぎた曲作りのせいで、却って誰でも歌いそうな普通になってしまった印象。ナッシュビルに移住して数年間に書き溜めた大人の作品集ですが…。エンディングバラードの"The Crossroads" は秀作。ジャケットが色っぺー。


以後、プロデュース業にシフトする傍ら、ヴァネッサ・ウィリアムスの全米No.1ヒット "Save the Best for Last" (95年)の共作者として脚光を浴びるなどありましたが、自作も稀に発表しているようです(YouTubeで聴いたらこれが意外と良い)。

以上、ここまでウェンディ・ウォルドマンでした。如何ですか?
私は、彼女ってなりたい自分に変わっていける器用なSSWだったのかな、と思いました。音楽一家に育ったプロらしいミュージシャンではあったのでしょう。
とはいえ、自然児らしくピュアな感性の初期作品が鮮やかに映るのも確か。彼女のようなある種の職人肌が、黄金期のウエストコースト・サウンドに深みを与えていたような気がします。

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