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【Pirates】(1981) Rickie Lee Jones 天衣無縫の才女2ndアルバム
季節外れの夏日もありますが、神奈川県はほぼ気持ちのいい日々が続いています。道すがら遅咲きの金木犀の香りが芳しいです。
個人的には、宣言明けてようやく勤務先の飲食店も営業再開となりました。久しぶりに同僚達と談笑しながら働ける楽しさを感じつつも、長いブランクの為にアタフタしながら社会復帰しているところです。
さて、リッキー・リー・ジョーンズと言って思い浮かぶのは、やはりあの気怠い歌声ではないでしょうか?私も「恋するチャック」を初めて聴いた時から個性的な声だと思いました。
まさしく "アンニュイ" 。この人の為の言葉ではないかと思う程ピッタリですね。
1979年のデビュー以来、それほど多作ではないながらも今日まで着実にシンガー・ソングライター活動を続けていますが、時に結構アヴァンギャルドに突っ走ったりして、聴く側は面食らう事もしばしば。私個人はこの方は基本的にはジャズシンガーのようなスタンスではないかと思っています。
デビュー作があまりに鮮烈な彼女ですが、それに比肩するのがこの2ndアルバム。
歌モノとして良質だったデビュー作に対し、こちらはより奔放な作風と辣腕ミュージシャンによる大掛かりなサウンドが聴き所です。
・US盤レコード
米国ワーナー・ブラザーズ・レコードのUS盤。こちら1978〜84年頃まで使用されたベージュカラーのレーベルで、最近は横線が入っている所からノートとも言われてます。
裏ジャケには全曲の歌詞が掲載。リッキーの写真も。
さて本作のアナログ盤、かなり音は良いです。彼女のデビュー作が高音質の録音盤とよく評価されるのですが、本作もメリハリある素晴らしい音です。
プロデュースも2作連続でラス・タイトルマンとレニー・ワロンカーというバーバンク・サウンドの巨匠。ワーナー・ブラザーズが相当な期待を彼女にかけていたと伺えます。
・UK盤レコード
こちら英国ワーナー・ブラザーズ・レコードのUK盤。両面マトリックス1。
US盤と違ってジャケットはやや光沢のある材質で、インナースリーブも厚手の紙質になっています。
これがまた良い音!よく聴いてみると本国US盤以上に明瞭で芯が太く締まった音でした。さすが録音にお金をかけた作品です。
【Pirates】(1981)
A-①「We Belong Together(心の絆)」
②「Living It Up」
③「Skeletons」
④「Woody and Dutch on the Slow Train
to Peking」
B-①「Pirates (So Long Lonely Avenue)」
②「A Lucky Guy」
③「Traces of the Western Slopes」
④「The Returns」
前作同様に豪華なバックミュージシャンが参加。全米中の腕達者を集めたような顔ぶれで、その手に詳しくない私でもよく見る方々の名前が何人も並んでおります。書き出すの面倒なので写真で貼っておきます笑
これらバックアップを受けて、リッキーが前作以上にスケール豊かに、自由奔放な感性で曲作りして歌ったのが本作と言えます。
A-①は空から降臨してくるようなピアノのコード音のイントロから凛々しい響き!
そこへ自由気ままに物語を歌っていくリッキー。殆どメロディの無いトーキングスタイルです。徐々に熱を帯びていき、スティーヴ・ガッドのドラムフィルが入ってくると曲は最高潮に!非常にドラマティックなアレンジです。
1991年ロスでのライブ映像。スタジオテイク以上に自由な歌と演奏です。デビュー作収録の「クールズヴィル」を続けて演奏します。
続くA-②はしみじみと感傷的なメロディが胸に沁みる名曲。大サビからテンポチェンジして、また戻ってくる凝った構成です。
バックは彼女の歌とピアノを引き立てる事に徹し、決して出過ぎない。さすが職人たちですね。エンディングのストリングスアレンジはニック・デカロ。さり気なく優美です。
この冒頭2曲の流れが私はとても好きです。
2013年マドリードでのライブ映像。ドラム、鍵盤、ギターとの4人の演奏。割合とスタジオ盤通りにリッキー歌ってます。
A-④は跳ねたベースのフレーズをバックに、リッキーがコーラス陣との掛け合いが楽しそう。デビュー当初は遅れてきたビートニクと言われた彼女らしく、古き良き時代からタイムスリップしてきたような空気感です。
B-①がこれまた名曲。本作中最もキャッチーですが、どこかメランコリックで哀愁あるメロディ。
リッキー自身が恋仲だったトム・ウェイツとの別れを歌った歌詞だそうですが、瞬く間にスターダムに持ち上げられた彼女にとっての青春期への惜別にも聞こえます。
ちなみにレコードではこの曲が何故か音デカく高音質。
こちらはスタジオ盤のバージョンで。
そして本作ハイライトがB-③。長尺8分の壮大なストーリー。初めに歌う男性ボーカルは誰?以前から謎だったのですが、共作してるサル・ベルナルディという方で当時のリッキーのボーイフレンドとのこと。
思うがままに歌い紡ぎ、複雑に展開していく流れがジャジーでお洒落なのですが、私にはこの曲がスティーリー・ダンぽく聴こえるのです。曲で言えば【エイジャ】の表題曲。あの緊張感あるアレンジ、意識してると思うのですよね。
リッキー自身がスティーリー・ダンを好きだったのでしょうね。後年ウォルター・ベッカーのプロデュースで作品も出してました。
そんな大曲の後、映画のエンドロールのような小品B-④で本作は幕引き。高潔なストリングスを添えてロマンチックな子守唄のようです。嗚呼、何と素敵なアルバムなのか…。
個人的にはリッキー・リー・ジョーンズはデビュー作と本作が傑作過ぎて、他にあまり手が伸びないというのが正直な所です。
たまに聴いてみると悪くないなぁと思うのですが…。
彼女の新作が出ても、何処かでこの初期の雰囲気を求めてしまいます。引きずっているんですよね。当の本人はそんな過去には全く興味が無く、自由気ままに歌えればイイのでしょうが…。
私にとってのリッキーは初期2枚のアルバムが絶対的です。ここで描かれる歌、演奏の中には彼女のエッセンス全てが封じ込められているように思うのです。