見出し画像

【Sweet Freedom】(1973) Uriah Heep 黄金期最後の輝き!?ヒープ落日の1枚

隆盛を極めた70年代ブリティッシュ・ハードロックの中でもB級扱いになってしまうのがユーライア・ヒープ。
代表作に【対自核】(71年)【悪魔と魔法使い】【魔の饗宴】(72年)がありますが、それ以降はマイナーな存在になってしまいました。それでも本作などは、まだまだ人気だった頃の作品。カッコいいんです。偏見無しでちょっと聴いてみてください。オープニングナンバーの "Dreamer" です。

バスドラと小気味いいハイハットから始まって、お得意の歪みきったギターと重厚なハモンドオルガンがトチ狂ったように咆哮する、これぞユーライア・ヒープの真骨頂です〜。
しかもいつもの暗いトーンではなく、曲調はかなりライトでキャッチー。デビッド・バイロンのハイトーンヴォーカルが冴え渡り、コーラスワークも決まった、明るく健全なヒープのハードロック。いいじゃありませんか!?

本作はユーライア・ヒープの6作目。当時はポップになったと酷評され、ヒープが失速した原因とされた哀しき1枚です。しかしながらヒープに限らず、ブリティッシュ・ハードロック自体も、この1973年頃から徐々に鎮静化していったのも事実なんですよね。
レッド・ツェッペリンは【聖なる館】で他ジャンルを取り込む拡散の方向でハードロックを表現。ディープ・パープルは【紫の肖像】で黄金の第2期が終焉して、ブラック・サバスは【血まみれの安息日】でシンセサイザー、オーケストラを取り入れるなど、間違いなくこの年、英国ハードロックは舵を取り直す転換期に入っていました。

ユーライア・ヒープの変遷を振り返ると、明確にハードロックだった3作目【対自核】で成功を収めるものの、彼等がハードだったのはこの1作のみ。以降はアコースティック楽器を持ち込んで音に陰影を施した「悪魔主義」へと転向して、ハードロックとプログレの中間を行くようなサウンドに変化していきました。
そもそもヒープの主軸を担っていたのは鍵盤奏者のケン・ヘンズレー。ミック・ボックスが決して上手いギタリストでなかったことからも、おそらく彼等はかなり早い段階で「ハードロック」では他に太刀打ち出来ないことを自覚していたと想像します。鍵盤主軸のロックバンドというある種の制限があったからこそ、常に表現方法を変える道を選んだのだと思いますね。

しかしポップな本作、当時のファンには日和ったと受け取られたようです。もはやハードでもプログレでもないヒープに魅力を見出だせなかったということでしょう。「終わった」と烙印を押されたら……あとは忘れ去られるのみ。哀しい末路です。
私が思うに、ユーライア・ヒープを一言で表すなら「ファンタジー」です。大作主義を残しながら存分に「ファンタジー」を描いた本作って、実は彼等の等身大の姿だったように思えてならないんですよね。


(アナログレコード探訪)

〜ハードロックなイカついミキシング〜

ブロンズ・レコードの英国初期盤
マトリックス2/2

ユーライア・ヒープが長く所属したのがブロンズ・レコード。プロデュースのジェリー・ブロンがヒープの為に立ち上げたレーベルです。 3rd【対自核】から発売しました。
ヒープの英国盤を全て聴いた訳ではありませんが、本作の音圧はかなり凄まじいです。とにかく爆音。まるでマルチトラックの各フェーダーをMAXにしたような全開の音なんです。特にバスドラ、ベースなど低音は腹の底まで轟いてくる鳴りよう。自宅で聴くには近所迷惑になりかねない1枚です笑。

ワーナー・ブラザーズの米国盤(75年頃のプレス)

一方、米国はワーナー・ブラザーズ発売。デビュー以来マーキュリーが配給していましたが本作より移籍。当時のヒープはUSトップ40に食い込むほど売れていましたが、さらなる米国進出を狙って大手に売り込んだのでしょう。
音は英国盤よりパワーダウンしますが、低音域は健在。よりボーカルが前に出ています。バンドがどの程度音の仕上がりに関わったかは不明ですが、「悪魔主義」路線が大人しかった分、本作にはハードロックらしさを復権させたい意図が感じ取れます。

Side-A
② "Stealin'"

「対自核」「安息の日々」と並ぶヒープ・クラシックの一つ。シングル・カットもされたライブでは定番のナンバーです。同じメロディを繰り返す一本調子のR&Rですが、知らず知らずにノセられてしまうところがミソ。私も来日公演では拳を高く突き上げました。
ハモンドの音が時代遅れになりつつも…これがヒープなんですよね。レコードでは華麗なコーラスが生演奏だとイマイチなようです。

④ "Sweet Freedom"

タイトル曲はミディアムテンポ、重厚なアレンジで迫るファンタジーワールド。ポップですが、大風呂敷を広げた大作志向といい彼等の本質のような一曲です。
地味ながら光るのが全盛期を支えたゲイリー・セインのベース。リードプレーヤーが弱かったヒープにとって、カウンターメロディを弾く彼のベースラインは楽曲に膨らみを持たせました。若くして病死したことが悔やまれます。

Side-B
③ "Circus"

本作唯一のアコースティックナンバー。悪魔主義の頃とはひと違ったエキゾチックなサウンドが印象的です。後のアンプラグド・ライブでも取り上げた、ヒープらしからぬ!?隠れたセンスを感じる好ナンバーです。

ユーライア・ヒープは以降、メンバーチェンジを繰り返しながら音楽性をコロコロと変えて、迷走を続けていきます。
腐る寸前の果実。本作が王道ヒープを聴ける最後のアルバムだったように思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?