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【Liege and Lief】(1969) Fairport Convention ロックバンドによる英国初のトラッドフォーク・アルバム

英国フォークの歴史に堂々と鎮座するフェアポート・コンヴェンション。
私もご多分に漏れず、かつてレッド・ツェッペリンからこのバンドの存在を知りました。

英国ロックを聴いていると必ず目にするトラッドフォークとはそもそもどんな音楽?といった感じでおそるおそる踏み込んだ未開の地でした。
それでも色々と関連する作品を聴き進めていくと、やはり本作【リージ・アンド・リーフ】には英国の深い森のような奥深さがありますね。

サンディ・デニー、リチャード・トンプソンというスターに加えて、フィドルの名人デイヴ・スウォブリックらが参加した本作は、やはり楽曲、歌、演奏の全ての面で抜群のバランスを誇り、フェアポートの歴史においても威厳を放つ名作かと思います。

真冬の枯れた雑木林と地面に積もる落葉。
私はそんな光景を思い浮かべてしまうのですが、アナログレコードで聴く本作もなかなか味わい深いです。

 

フェアポート・コンヴェンションは1968年にデビュー。初期は米国のフォークロックに影響を受けていましたが、ボーカルがジュディ・ダイブルからサンディ・デニーに替わった2ndアルバム以降、彼女が持ち込む自作曲と英国トラッドのレパートリーから折衷的な方向性に転換していきます。

1969年のツアー中に何とメンバーを乗せたバンが交通事故。ドラムのマーティン・ランブルとトンプソンの彼女が死亡するという悲劇で、バンドは解散の危機に瀕します。
しかしこれを境に音楽性をシフトチェンジ。英国のトラッドフォークだけに焦点を絞り、製作されたのが本作となります。

フォロワーだったディランのカバーも封印、よりインストゥルメンタルにも力を注ぎ、トラディショナルに素材を求めた6曲、オリジナル2曲で構成された4thアルバムです。プロデューサーは米国人ジョー・ボイド。

当時英国シーンでは、ロックバンドが完全エレクトリックで伝統フォークを演奏した初の作品としてかなり注目されたようですね。

(アナログレコード探求)

いかにも英国的な本作ですが、英盤、米盤でそれぞれ聴き比べてみました。私なりの感想を報告します〜。

〜英国盤は淡い音、米国盤は主張する音〜

英国盤はアイランド・レコード発売。 ILPS9115。
ピンク・アイと呼ばれるレーベルは1970年までの
プレス。マトリックスはA1、B1。

まず英国盤はドラム、ベースが目立ちます。低音を前に据えたドッシリの音です。
サンディ・デニーの歌があくまで中心で、ギター、フィドルのリード楽器は少し遠くで鳴ってる感じがしますね。
低音クッキリ、他の音は控えめな印象です。
英国トラッドの古色蒼然としたイメージを体現したようなイメージ。墨絵のような?音でしょうか。

米国盤はA&Mレコード発売。SP4257。
ブラウン色レーベルは1973年までのプレス。

一方の米国盤は少し違いました。
ミキサー卓のフェーダーを全部上げたかのような?全ての音が前に出てくる感じで、ちょっとビックリ 。
元気で躍動感はあるのですが、曲の盛り上がる箇所では少しうるさく聴こえますね。
米国人らしいラフな音。ラジオのエアプレイも考えたミキシングでしょうか。

レコードの音1つにもお国柄が出ます。

〜米国盤の謎の音揺れ?!〜

今回1つ気になることを発見。
米国盤のA-①"Come All Ye" のワンコーラス目のサビの直前なのですが、僅かに音が揺れる箇所があるんですよね。何度聴いても気になります。キズとかではありません。確認しましたが英国盤には無いのです。

マスターテープのコピーを製作、英国→米国へ送られ、米国でカッティングされるまでの何処かしらで、何らかのミスがあったとしか考えられません。私の盤だけでしょうか?!

ちなみにCDではこの乱れはありませんでした。米国アナログ盤のみの話。ん〜謎です。

〜アナログレコードでのオススメ盤〜

本作はあまり見かけないので、プレス国、初期盤にこだわらずとにかくコンディション重視で、見つけたら買いかと思います。

米国盤ならA&Mレコードのシルバー色レーベル(1974年以降)の再発でも良いかと思います。プレス時期はカンパニースリーブの商品カタログを見れば大体の年代は検討がつきます。
英国盤なら、アイランドレコードは再発盤でもなかなか音が良いので後発盤レーベルの、ピンクリム(70〜75年)、ブルーリム(75〜77年頃)、デイ&ナイト(78年頃)辺りでも全然大丈夫かと思います。参考までに(^^)

内ジャケット。学究肌のベーシスト、アシュリー・ハッチングスが丹念に調べた古典に関する人物、風習などが説明されています。本気です…。

Side-A
① "Come All Ye" (Denny, Hutchings) - 4:55
② "Reynardine" (traditional) - 4:33
③ "Matty Groves" (traditional) - 8:08
④ "Farewell, Farewell" (words: Thompson; tune: traditional) - 2:38

Side-B
① "The Deserter" (traditional) - 4:10
② "Medley"
I. "The Lark in the Morning"
II. "Rakish Paddy
III. "Foxhunter's Jig"
IV. "Toss the Feathers" (traditional) -4:00
③ "Tam Lin" (traditional) - 7:20
④ "Crazy Man Michael" (words: Thompson; tune: Dave Swarbrick) - 4:35

本作は冒頭、最後に自作の楽曲を配し、間を英国トラッドフォークで纏めた構成です。英国のザ・バンドといった風情が広がります。

A-① "Come All Ye" 
まずはオーソドックスなフォークロックナンバー。新加入のドラム、デイヴ・マタックスの叩くロックビートの力強さが耳を引きます。
ちなみに前任のマーティン・ランブルは、何と音楽評論家ピーター・バラカンさんの高校の先輩だそうで御本人が書いておりました。

A-② "Reynardine"
静寂さが際立つこの曲の美しさには魅せられます。これぞ英国フォークの深淵な世界。
朝もやに響くような演奏と、デニーの憂いを帯びた歌声が美しくも威厳すら感じてしまいます。英国フォークの歌姫と呼ばれたのも納得ですね。

A-③ "Matty Groves"
本作のハイライトの長尺ナンバー。
皇族の妻が若い男と姦通したことがバレて、2人とも処刑されてしまう話。こういう殺人ものをマーダー・バラッドと呼ぶそうです。
物悲しい反復の歌メロで筋が歌い込まれ、物語が終わると場面は一転、曲はテンポアップしたインストゥルメンタルパートへ!
ここからが聴きどころ。新加入のデイヴ・スウォブリックのフィドルとトンプソンのギター、互いにソロの応酬!かなりのスリル!

B-② "Medley"  I."The Lark in the Morning"〜II. "Rakish Paddy〜III."Foxhunter's Jig"〜IV."Toss the Feathers" 
トラッドメドレーとなるこちらも圧巻。スウォブリックのフィドル捌きが独壇場。
ジグ、リールと呼ばれるトラッドのダンス音楽にもスポットを当てた明るく楽しい演奏です。日本人がイメージする英国民謡といった所でしょうか。


改めて聴き直すと、英国トラッドの様々な魅力を掬い上げた作品ですね。オリジナル曲とのバランスも良いです。
しかし本作をもってサンディ・デニーとアシュリー・ハッチングスは脱退。呆気ない幕切れです。この布陣での作品をもう少し聴いてみたかったですね。

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