【Tanx】(1973) T.Rex グラムロック爛熟期の新境地ボランワールド
中高生だった頃、T.Rexが大好きでした!
輸入盤レコードを買い求め、自分の部屋にはマーク・ボランのポスターを貼り、レスポールまがいの国産安ギターを買って曲もコピーしました(むちゃくちゃ簡単)。初めて買ったCDもT.Rex。私にとってマーク・ボランは最初に憧れたロックスターだったのでした。
【電気の武者】【スライダー】は定番ですが、この【タンクス】もまた懐かしい愛着盤。一世を風靡したグラムロックに秋風が吹き始めた時期の作品ですが、マーク・ボランの眩い輝きがまだまだ感じられる1枚です。
冒頭の "Tenement Lady" 。「アゥ!」の掛け声からしてボランですね〜。メロトロンとアコースティック&エレキギターをバックに、少しエフェクトを効かせたボーカルで歌うロックチューン。ところが後半から一転、何とロッカバラードへと変身!この曲、T.Rexにしては珍しく2部構成なんですよね。哀愁を湛えたメロディといい従来のボランらしからぬ作風と言えそうです。
本作はT.Rexとして4作目のアルバム。グラムロック期の作品ですが、前作【スライダー】と比べると幾分地味になった印象を受けますね。
英国では「20th Century Boy」(全英3位)のヒットなどT.Rex人気は続いていましたが、米国で本作のセールスは惨敗(全米102位、英国4位)。もとより中性的なセクシャリティを売りにするグラムロックは、米国でさして理解されなかったと思うのですが、この頃からボランの音楽についても、単調、どれも同じ、安っぽいバブルガムポップ、といった意見が出てきたようです。マーク・ボランもそうした批判を意識したのか、本作では新しい一面を取り入れようとする姿が見え隠れしますね。
改めて聴き直すと、一部の曲にはブラックミュージックからの影響を感じます。のちに黒人ソウルシンガーのグロリア・ジョーンズと公私に渡るパートナーとなるボランですが、既にそうした嗜好はあったのかもしれません。グラムでありながら新しい領域に踏み込んだT.Rexサウンドの1枚です。
(アナログレコード探訪)
〜日本初回盤、オススメです〜
本作の日本初回盤、信じられないほど抜群に音が良いです。クッキリと明瞭でよく響き、音のバランスも良好。低音も豊か。「濃い音」と表現をしたくなるような優良盤です。
T.Rexをアナログレコードで聴いていくと、【電気の武者】は良音ですが、【スライダー】は音が悪いんです。特に米・日盤は音がくぐもってますね。独立レーベルT. Rex Wax Co.を設立した1作目で忙しく、製作環境が良くなかったのかもしれません。が、この【タンクス】は、録音、マスタリングともに過去最高です。
日本盤の内周無音部には、英国盤の品番が刻印されていました。しかも日本製品として許可するJISマークは無し。つまり英国でカッティンされたマスター盤(鋳型)で直接プレスされたものと推測できます。通りで日本盤とは思えない音だった訳ですね。
ところで、こうした日本盤の製作において、磁気テープのコピーマスターを送ってもらい日本でカッティングするのか、或いはマスター盤/スタンパーなどの鋳型を注文して直接プレスするかの判断は、私はてっきり日本のレコード会社が決めていると思っていましたが違いました。ミュージシャン側からの指示なのだそうです。
本作の場合だと、前年に【スライダー】がオリコン6位を記録、日本公演も大盛況、来日中には東芝のスタジオで新曲を録音するなどの交流も生まれ、T.Rex側が日本市場を見込んで品質の配慮をしたものと想像できます。準本国盤ですからね。本作の日本盤はオススメです。
ただし、東芝音楽工業株式の初回盤、品番「EOP-80777」に限った話なので注意を。
1枚のマスター盤からプレス出来るレコードは3万枚ほどと聞いたことがあります(会社によりけり)。これを初回盤として、当時の日本でのT.Rex人気を考えれば、この程度のイニシャルは直ぐに完売したでしょう。後発の東芝EMI盤は日本カッティングでしょうから、音質は劣るハズです。さぁ、東芝音工の初回盤、機会あれば聴いてみてください。オマケも豪華ですよ↓
Side-A
② "Rapids"
【スライダー】に収録されていてもおかしくないグラムロックなナンバー。レスポールのギターサウンドに気色悪いコーラスが加わった王道のボランブギですね。カッコいい。
⑥ "Country Honey"
これぞマーク・ボラン!といった一曲です。キャッチーなワンフレーズで一撃一殺。たった1:47で終わる楽しさ満載のR&Rです。ボランにとって「ポップスは簡潔」が信条だったのでしょう。
⑦ "Electric Slim and the Factory Hen"
本作に色合いの変化を与えているのがブラックミュージックを意識したナンバー。スイートな雰囲気がこれまでのT.Rexらしからぬ一曲ですが、これがなかなかイイ。録音は日本。来日時に「20th Century Boy」などと共にレコーディングされました。日本人はちょっぴり自慢です。
Side-B
⑤ "Highway Knees"
こちらもソウル色を出した一曲。トニー・ヴィスコンティが弾くメロトロンにボランのギターリフと甘いボーカルが絡んでシットリとした空気で包みこみます。
⑥ "Left Hand Luke and the Beggar Boys"
ラストがこれまた異色。女性コーラスを配してマーク・ボランが歌うブラックなムード。ゴスペルっぽい雰囲気が濃厚で、これまでのT.Rexのイメージとかけ離れていますね。
同じメロディの繰り返しですが、ピアノ、ストリングのアレンジで抑揚をつける辺りがヴィスコンティの手腕。デヴィッド・ボウイがソウルに傾倒する2年も早く、こうしたサウンドを聴かせたボランは先を走っていたとも言えそうです。
私はマーク・ボランは、ひと筆書きの天才だと思ってます。キャッチーなワンフレーズで聴き手を魅了する直感と閃きの才人。そんな魅力に加えて、ブラックミュージックに関心を示した本作は、いま聴き直すとなかなか発見の多い1枚ですね。