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【Argus(百眼の巨人アーガス)】(1972) Wishbone Ash 哀愁のツインリード完成形の名盤3rdアルバム
ブリティッシュハードロックの歴史で、元祖ツインリード・ギターバンドとして知られるのがウィッシュボーン・アッシュ。代表作と言えば本作です。先ずは2人のギターソロが堪能できる "Sometime World" を。
この抒情的な佇まいからして如何にも英国のバンドです。リードボーカルをとるマーティン・ターナー(bass)の声質にも湿り気が感じられますね。
静かなボーカルパートから中盤でテンポチェンジして激しいパートへ。ここから2人のギターソロが主役です。先発はテッド・ターナー。ストラトキャスターを使った端正なフレーズで曲を盛り上げます。続いて待ってましたと言わんばかりにアンディ・パウエル。フライングVからとめどなく泉のように湧き出るソロは実に情緒的。泣きのフレーズでこれでもかとヒートアップ!独壇場です。ギターがボーカル以上の存在感を示した時代、うーむ、70年代のロックですね〜。
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本作【邦題:百眼の巨人アーガス】はW.アッシュの3rdアルバム。全英3位を記録、英国音楽誌でもこの年の年間アルバムに選ばれるなど、彼等の出世作となった作品です。
私、W.アッシュって凄く好きなバンドなんです。正直言えば、これより後の作品が好きなのですが、彼等の持ち味と言える物悲しいメロディセンスは、英国ロックの中でも傑出した個性ではないでしょうか。
バンドの両翼、テッドとアンディはそれぞれ静と動、タイプの異なるギタリストだったことで棲み分けがハッキリしたところがユニークでした。まるで絵筆の違う2人の絵描きが交互にキャンバスに色を塗っていく…そんなイメージなんですよね。
同時代のバンドと同じく、ブルースやジャズから影響を受けていた彼等ですが、この3枚目では脱却。英国に古くから伝わるトラッドフォークの感性を土台に、整合感あるハードロックを構築したことに本作は価値があったと思います。またギリシャ神話に着想を得たことで独特の格調高さも加わりました。
調べてみたところ、ギリシャ神話に登場する「Argus(ギリシャ語でアルゴス)」とは、全身に100の眼を持つ巨人で、眠りも死角もない男。天空の神ゼウスの妻ヘラからの命令で、夫の愛人で牛に変身させられたイオを不貞のないように見張り番します。しかしゼウスの差し金で送り込まれたヘルメスに眠らされ、剣で首を刎ねられてしまう(諸説あり)…そんな悲劇のキャラクターなのです。
本作は直接の引用ではなく(多分)、神話をモチーフに独自のストーリーで、英国トラッドにも通底する「悲劇」「悲壮感」みたいなものを表現したのだろうと私は勝手に想像しています。楽曲群が一連のドラマで繋がったB面は本作の肝。ヒプノシスがデザインする美麗なカバーアートとも連動したW.アッシュの名盤です。
(アナログレコード探訪)
〜各国盤で聴いてみました〜
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米国盤(上段2枚)、英国盤(下段左)、日本盤(下段右)
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ダースベイダー?何故かUFOが飛んでて謎のSF風
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本作の英国盤は音が良いです。初回盤は高額な上に市場で見る盤はどれも傷だらけ…私は諦めました。ストレスなく聴くなら後発盤で十分。ノイズもなく、シッカリした音で上から下まで豊かに鳴ります。さすが母国盤。
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こちらginger.TOKYOのマスター高山さんのご厚意で譲って頂いた定価1800円の正真正銘、本作の日本初回盤。私が探していた盤です。昔持ってましたが、改めて聴き直すとこれがなかなかの良音盤。低音もよく鳴って、ゴリッとした肉厚な音が楽しめます。
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問題が米国盤。W.アッシュを当初配給したのがDecca (英国DECCAとは別の会社)。初期3作をリリースしますが、1973年にMCAに吸収されて消滅しています。
私はMCAの再発盤から聴いたのですが、本作の痩せた音には驚きました。中高域ばかりでうるさくbassの音が乏しい。確認の意味でDeccaの初回盤も手にしましたが、やはり同じ音でした。しかもMCA盤は、Decca期のダブルジャケットが全てシングルに差し替えられており、米国での不本意な扱いが窺えます。本作は全米チャートで最高169位。売れないバンドにお金はかけない米国のショービズ事情を垣間見る気が…。
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MCA再発盤(下)
Side-A
③ "Blowin' Free"
W.アッシュの代表曲の1つ。小気味いいギターコードに乗って、爽やかな3声ハーモニーが気持ちいい。静けさを表現するテッドと攻めのアンディ。映像で観ると好対象な2人がよく分かります。
Side-B
① "The King Will Come"
このB面からが「アーガス」本編といっていいでしょう。フェイドインで入ってくるギターにドラムロール……いにしえのヨーロッパの戦いの舞台に「王が来たる」様子がサウンドで表現されています。英国フォークに則った平たい歌メロも印象的。歌はマーティンとアンディ。リードはすべてテッド・ターナーですが、ワウペダルを使って狂おしいソロで煽ります。格調高き名曲。
③ "Warrior"
いよいよ物語は戦場。湿っぽく熱い旋律から命懸けの攻防がイメージされます。しつこいギターソロはアンディ・パウエル。私はこの曲、ほぼ演歌だと思っているんです。静から動への激しい展開は演歌のマナー。これは是非とも石川さゆりに歌ってもらいたい。こぶしを効かせて男たちの情念を揺さぶってほしい…。
④ "Throw Down the Sword"
広い荒野は傷を負って倒れた戦士ばかり…「剣を棄てろ、戦いは終わった、勝者でも敗者でもない」の歌詞と泣きのメロディ。この悲壮感、美しいではありませんか!涙、涙。終盤は2本のギターが別のメロディを奏でながら、時折ユニゾンで重なっていく場面など実に感動的。これぞ哀愁のツインリード!こうして劇場型ロックは幕を閉じます。完
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本作でツインリードの完成形に至ったW.アッシュ。この路線を突き進むかと思いきや、以降はアメリカ市場に挑んで方向転換していきます。彼等がもっとも英国らしさを表現したブリティッシュ・ロックの名盤です。