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【Crazy Eyes】(1973) Poco リッチー・フューレイ最後を飾る失意の鎮魂歌

伝説のグループBuffalo Springfieldから派生して誕生したポコ。私にカントリーロックの素晴らしさを教えてくれました。
歴代2人のベーシストがイーグルスに加入したことから、音楽より人事で語られることが多いですが、素朴で溌剌、清々しいコーラスワークを活かしたポップなカントリーロックは、巨大になり過ぎたイーグルスより私は愛着を感じるんですよね。

本作はポコの通算6作目。彼等らしい快活なメドレー "Blue Water" ~"Fools Gold" でスタートしますが、先ずはティモシー・シュミット作 "Here We Go Again" が素晴らしいです。

ティモシーらしいマイルドでシットリとしたメロディとハイトーンボイスが、アコースティックな演奏とマッチして、とても繊細な味わいです。お得意のコーラスワークもアクセントとなって、夏の日の木陰を思い起こすような朴訥とした雰囲気です。間奏はハードな演出もあって飽きさせない。イイ曲です。

しかし本作、元気で快活なポコではありません。寧ろ感傷的な色合いを含んだ作品です。というのも、デビュー以来バンドの中心的な存在だったリッチー・フューレイが本作をもって脱退するのです。
なかなかヒットらしいヒットに恵まれなかったポコは、前作【A Good Feelin' to Know】がチャート面で最低を記録(69位)。渾身の自信作だったタイトル曲は、リリース前にライブでも好評だったにも拘らずノンチャートに終わり、リッチーは相当なショックを受けたようです。私もこの曲が売れなかったとは本当に不思議。実に不運でした。


その直後に、Souther–Hillman–Furay Bandの企画がアサイラム・レコードからリッチーに打診されますが、ひとまずリッチーはポコの続投を選択。失意の中でバンドが最後の力を振り絞って製作したのが本作【Crazy Eyes】でした。
私の想像ですが、同僚のStephen Stills、Neil Youngに水をあけられ、元ポコのJim Messinaも出世、後輩格のイーグルスにもあっさり抜かれてしまった状況にリッチーは焦っていたと思います。ようやく追いつけると確信した自信作はまさかの失敗……落胆したことでしょう。

そうした中で製作された本作、全体を色濃く覆うのがグラム・パーソンズの影です。表題曲 "Crazy Eyes"は、1969年に書いたというグラムへの想いを歌ったもの。リッチー曰く、若い頃に過ごしたグリニッジビレッジで、通りの向かいに住んでいたのがグラムで、古くから面識があったそうです。カントリーミュージックに魅せられた同胞にどんな気持ちを抱いたのか…。
そして何の因果か、本作発表の4日後にグラム・パーソンズは他界。リッチーもバンドを去り、本作はまるで無念の鎮魂歌のように響きます。

(アナログレコード探訪)
〜昭和のライナーから得ること〜

各国盤で紙質、色合いに違いがあります。
左から、日本盤(ザラ紙仕様で写真が不鮮明)、英国盤(背景が焦げ茶色)、米国盤(黒色で明瞭)
日本初回盤(見本盤)
米国初回盤(マト1A/1B)
英国初回盤(マト1/1)

各国盤どれも音は良く、比べた印象は日本盤は音が小さく、こじんまり。英米盤は共に左右のレンジを目一杯使った分離の良い鳴りですが、英国盤は音域が狭く、米国盤は高域がクッキリして不明瞭な楽器の音まで聴こえます。やはりアメリカンロックは米国盤が合ってる気がしますね。

日本盤のライナーノーツ

小倉エージ氏による当時入っていた情報が興味深いので少しご紹介を。

当初アサイラムのデビッド・ゲフィンは、リッチー・フューレイにソロアルバム製作を持ち掛けており、これに対してリッチーは、ポコとしてアサイラム移籍の意思があることを表明(!)。しかしエピックとの契約(この時点で残り3枚発表の義務)が足かせ問題になっている、と書かれています。リッチーの独立、クリス・ヒルマンとJ.D.サウザーとの新バンドのニュースもあるが噂に過ぎなかったようだ、ともあり、いま知られている話とは少し違った経緯があったようです。
こうしたネット時代でこぼれ落ちてしまった史実が拾えることも(怪しい情報もありますが)アナログレコードの面白さです。


Side-A
④"Brass Buttons"

グラム・パーソンズの遺作【Grievous Angel】(74年)収録曲のカバー。リッチーはグリニッジビレッジ時代にこの曲を教わったとか。爽やかな中にも哀感のある一曲。スティールギターが映えます。

Side-B
①"Crazy Eyes" 

圧巻の一言。沈痛な響きのピアノから始まる9:40の大作組曲。リッチーがグラム・パーソンズに捧げる壮大なレクイエムです。バンドの演奏に加えて豪勢なオーケストレーションが彩るスペクタクルな展開は、カントリー+プログレといった趣き。
このオーケストラアレンジに名前を連ねるのがボブ・エズリン。彼はアリス・クーパー、ルー・リード【ベルリン】、果てはピンク・フロイド【ザ・ウォール】まで手掛けることになるロックオペラの巨匠です。どういう経緯で共演に至ったのか謎ですが、ポコ史上最大の野心作だったことは間違いありません。


②"Magnolia"

J.J. ケールのデビュー作に収録された名バラード。これもオーケストラが組み込まれたドラマティックなアレンジで実に感動的。歌はリードギターのポール・コットン。ラスティ・ヤングのスティールギターも泣いています。リッチーへの惜別のよう。さらば、リッチーよ。

5人が亡霊のように映る本作の表ジャケット。感傷的なバンドの心境を表しているのでしょうか。
私はリッチー・フューレイという人は本作で才能の殆どを使い切り、燃え尽きてしまったような気がします。のちに牧師の道に進んだのも、ポコ時代の失望が引き金だったように思えて仕方がないのです…。ショービズの女神に微笑んでほしかった。

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