ジャブ、ジャブ、ストレート、差別。

ジャブ、ストレート、
ワンツー、ワンツー。
上半身を捻って、その反動で足をぶるんと振るって、キック。

いつでも闘えるように、鍛えなければ。
心と身体は繋がっているのだ。
体を鍛えれば、心はついてくる。
私は今年、キックボクシングを始めた。

先生は中国系のルーツを持つらしい。
苗字がそうだからそうなのかな、と思っている。

先生に一度、「あざは出来やすい？」と聞かれたことがある。サンドバッグを蹴ろうとしたときだ。
私は「はい」と答えた。
すると先生はレガースを持ってきてくださった。
がしかし、私はつけるのを断った。
私は、あざが出来てなんぼだと思って、やっているのだ。
蹴ったら、蹴っただけ、自分の身体は傷つくべきだ。
暴力は、振るったら振るった分だけ、自分に返ってくるし、きちんと自分の心身で受け止めないといけないと私は思っている。
だから、レガースなんてお断りなのだ。

さて、年末。キック納めである。
正直自分は、二日酔いであった。
でも、行かないわけにはいかぬ。
筋トレしてランして、酒が抜けた気がしたので、道場へ向かった。

その日は、私の他にもう一人いて、先生の指導のもと、その人と二人でミット打ち。
二日酔いでヘロヘロなのと、その人がレフティで頭がこんがらがったのとで、うまくうけができず、向こうもうまくできず、互いに殴り蹴り足らぬままでクラスが終わって閉まった。

「やりたりませんよね」

私はその人に声をかけ、二人でまた少しミット打ちをした。
練習が終わり、雑談をした。

「いやあ、うまく受けられずすみません」と私。
「いえいえ、お気遣いなく」と向こう。
「ちょっとヘロヘロになっちゃって……」と私。
実際、二日酔いで練習に行くなんて、真剣さが足りない。猛省すべきである。
するとその人「いやいや、お姉さんは悪くないっすよ、先生の教え方が悪いですよ」
そうかなあと思いつつ「そうですかねえ」と私。
「なんか話が通じないというか、中国人だからですかね」

以前の自分なら、ここで絶句して試合終了であった。
ただ、キックボクシングで瞬発力を鍛えたのだ、私は。

「いや、それは違うでしょ」

即返答した。

「違いますかねえ」
「うん、違うでしょ、じゃ、お疲れ様でした」

そうして私は立ち去り、シャワーを浴びた。
シャワーを浴びる間、私は懊悩した。

というのも、その人が、満足に練習ができなかったのは、その人がレフティであるという変えられないことと、私が二日酔いだったという怠惰さによるものだったからであるのだが、その原因を先生のルーツとされてしまったからだ。
私は正直に、私が二日酔いだったからだというべきではなかったか？
ひとしきりの懊悩ののち、シャワーから出て身支度を整えたころ合いには、その人はいなかった。

変えることのできない、持って生まれたもので、人は線引きし、線引きされる。
差別はよくないよとしっかり言いながら、自分も自分で自分の権利を守りながら、自分がした暴力を認識しながら、生きていく。
身の回りにはゴロゴロと、差別が転がっている。

今年はずっと、そればかり考えて生きていた。
そんな自分が担当すべくして担当した本がある。
「ペイント」。
ここまで読んでいただいた方は、突然のダイレクトマーケティングに困惑しきりと察するが、もう少しだけお付き合い願いたい。

「ペイント」は、韓国の小説だ。
本国ではチャンビ青少年文学賞という、あの「アーモンド」も受賞した賞を得ている。
30万部のベストセラーだ。
……とまあ、数字なんて、本質ではない。
この作品には、生まれによって人が人に線引きされる様が、人口絶壁時代の近未来を舞台に描かれている。
何らかの理由で「捨てられた」子どもたちが暮らす施設で、成人までに親を面接して選び取る。親を見つけられないまま成人して施設を出ると、彼らは施設出身者として経歴が刻まれ、差別さえもされてしまう。

差別される可能性が自分にある時、私たちはどう振るまうか。

自分が差別されうるとき、そんな世界をどうやって、愛して生きていくのか。

そういう小説です、今、読んで欲しい、感想文コンクールも開催中です、著者に感想をしっかり韓国語に訳して届けますから、ぜひ、参加されたし。
#ペイント名言感想文コンクール  のタグをつけて、気に入ったフレーズを引用しつつ、感想をツイートしてくださいませ。
はい、ダイレクトマーケティング終わり！

私は、この世界に不信感を持ったまま生きたくない。
まやかしのような言葉だけを操って、多様性っぽくガワだけ取り繕って生きるのは嫌だ。それは死んでるのと一緒だろ。
巧妙に暴力振るってないフリすんな、暴力振るわれたらなりふり構わずブチギレろ。

だから来年もまた、打撃を磨く。暴力を磨く。自分が暴力を行使できる人間であることを認識して生きていく。

ジャブ、ジャブ！
ジャブ、ジャブ、ストレート！
ジャブ、ストレート、ワンツーワンツー！

ジャブ、ジャブ、ストレート、差別。

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