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同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬
第8回は同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬です!新人のデビュー作にも関わらず、アガサ・クリスティ賞/本屋大賞受賞の本作をレビューします。
※尚、予告後にネタバレがあります。
1.基本データとあらすじ
1-1.基本データ
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1-2.あらすじ
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。
自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。
同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
2.主観的評点と向き/不向き
2-1.主観的評点
主観的評点は以下の通りです。
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2-2.向き/不向き
向いている人
・大戦下のソ連の内部事情に興味がある人
・架空戦記、銃器や戦車等に興味がある人
・実際に自分も競争社会にいる女性
向いていない人
・戦争を題材にした小説に興味が無い人
・本格ミステリしか興味が無い人
3.ネタバレと感想
以下、核心の部分に触れておりますので未読の方はご注意ください。
3-1.結末と真相
ケーニヒスベルグを最終決戦地としてセラフィマは母の敵のドイツ人狙撃手・イェーガーと邂逅。自ら捕虜となり智略によりドイツ軍(フリッツ)を欺く。イェーガーを殺害。
終戦時には、ドイツ人婦女暴行に関与してしまった同郷の友人であり結婚予定のミハイルも殺害。罪をイェーガーに被せ、イリーナと共に罪を逃れる。
女性狙撃手の存在がソ連としても厄介者となった戦後は教官のイリーナと共に隠遁生活に入る。イワノフスカヤ村の再建に従事しながら定期的に射撃訓練校の仲間たちと連絡を取り合う。
シャルロッタとヤーナ(ママ)は兼ねてからの夢であったパン工場で働きながら精神に異常を来す女性兵士を見守る活動をする。
後に、ヤーナは死亡。セラフィマは長年戦争体験については口を閉ざしていたが、『戦争は女の顔をしていない』のインタビューには前向きに答え、真実を語ろうと決意する。
3-2.ネタバレ感想
明確に作中で"真の敵"について言及されていなかった記憶ですが、真の敵は"男"なんでしょうね。男社会の中で都合のよい存在として用いられる女性がモチーフで、そこに東部戦線や狙撃手が乗って来る作品の印象です。
女性が置かれた境遇の辛さ(=戦わざるを得ない状況で変わらざるを得なくなる)を描いているのかなと思いました。
本作を支持する読者は働く女性が多いんでしょうか。一方では女性らしさ、貞淑さを求められながら、かつ一方では市場原理の中で戦わざるを得ない現代です(戦争程過酷じゃないにせよキャリアウーマンも同様の境遇に置かれてると思うので)。
作品としては、なかなか考えさせられるものでしたが少し長いです。各戦線の変遷/政治的背景/戦闘描写/セラフィマを巡る人物の各々の背景を網羅しているので、冗長に感じる部分が有りました。
一方、アクションシーンは戦闘機や戦艦の戦いと違って銃撃戦は隠れて相手を屠る、相手もそれに返して銃撃すると言う戦いである為、動きが弱いんですよね。
登場人物を減らして、ウラヌス作戦、スターリングラードの戦いの部分を減らしても良かったと思います(そうするとセラフィマの価値を巡る問答が際立つ)。
4.まとめ(ネタバレ無し)
以上が同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬の感想でした。如何でしたでしょうか。興味を持たれた方は是非一読してみてください。