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弁当は意外にテクが要る(コロナ禍の思い出)

フレンチと言いつつ、お弁当の売り上げの大きな比重を占める当店。コロナ禍ではお店の危機を回避する助けになりました。

とはいえ、お弁当はあなどれない。お皿の上の料理には、美味しく見えるようにバランスの良い空間があります。それをそのままお弁当箱に詰めると、スカスカな中身になってしまいます。なので同じ分量でお弁当を成立させようとすると、やたらと場所を取るプラスチックケースやら、仕切りやらが必要になってきます。

コロナで店内営業が中止になった時、以前お店を取材してくれたディレクターが、様子を見にやってきてくれたことがありました。その際、
「ちょっと聞いてもらってもいいですか」
と、自分の中のもやもやを話してくれたのです。

自分には大好きなカフェがあった。コロナで飲食店が営業できなくなった時、応援のつもりでそのお店のテイクアウトを買った。それはいつも店内で食べてきた料理を、パックに詰めたものだったが、それを見た時、つい「自分はこんなものに1500円も払っていたのか…」と愕然としまった。応援したい気持ちはあるけれど、同じテイクアウトをまた買うことに躊躇がある。これはどういうことなんだろう…

店内で提供される料理には、当然ながら様々な要素が含まれています。おしゃれな店内、快適な空調、心地よいBGM、素敵な食器、気持ちの良いサービス。格安スーパーで買えば60円のペットボトルのコーラが、カフェの綺麗なグラスで300円で出されても、おそらく多くの人は文句を言わないでしょう。目の前にあるコーラに不随している価値に、無意識に納得しているからです。

でももし、お持ち帰りでペットボトルのコーラをそのまま300円で買わされたら、そりゃスーパーに行くわ、となるはずです。

テイクアウトが推奨された時、意外にその違いに気づいていないオーナーが多かったと思います。店を閉めても、家賃、光熱費、人件費等等…かかる経費は無くなりません。応援してくれるんだし、料理は店内で出しているものと同じなんだから、同じ値段で買っていただけるものと思い込んでしまうのも、無理はありません。

私たちの住む市でも、コロナ禍に、大規模なテイクアウト祭りのイベントを何度も行なってくれましたが、最初の頃の写真付きリストを見ると、ただお店の料理をアルミホイルで包んだだけ、みたいなところが結構ありました。そういうお店は、まあ、まず売れません。

シェフはその違いに最初から気がついていて、テイクアウトで出すなら、テイクアウト用の料理を新たに作らなければダメだ、と言っていました。元が和食の職人だったシェフは、店内で提供する料理と、仕出しやおせちといった、家庭で食べる料理は、料理の構成自体がちがうことを経験的に知っていたからです。

当店が売り出したローストビーフ弁当は、電話回線がパンクするほどの人気で、こちらが逆に驚きました。

大人気だったローストビーフ弁当

それでもえらいもので、回数を重ねるごとに、どのお店も工夫するようになり、どんどん美味しそうなテイクアウトが増えました。コロナ禍は、飲食店に新たなポテンシャルを高めたかもしれません。

おまけ
コロナ禍ではお家で食べるおせちの需要が急速に伸びました。SNSでフォローしていたイタリアンのシェフが「今年はおせちをやってみます!」と投稿していて、期待して見ていたら、年明けに「思った以上に大変でした💦次回はやりません!」とあって、まあそうだろうな、と思いました。お重を隙間なく詰めようと思ったら、意外と食材が必要になるからです。頭の中では「こんなもんかな」と思っていても、きっとイタリアンのシェフ、詰めても詰めても隙間が空いて、相当焦っただろうなぁ…。

ということで、お弁当には店内提供とはまた違ったテクが必要、というお話でした。



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