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アニメーション美術の巨匠|山本二三展
先日Xでゾッとするポストを見ました。
なぜゾッとしたかというと、身に覚えがある感覚だったから。絵を描くのも何か作るのも趣味の範囲を出ないけれど、それでも私の生活からは切り離せないもので。何度か陥ったことのある何も浮かばない焦燥感が、いつかなくなって絵を描かない日が来るかもしれないことを思うと、それは私にとって精神的な死なのかなあと思うのです。
というわけで、インプットを怠らないようにずーっと先送りにしてた「新・山本二三展」を見に神戸ファッション美術館へ行ってきました。
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ジブリなど数多くのアニメーション作品の背景美術を手がけた美術監督さんです。「天空の城ラピュタ」・「火垂るの墓」・「時をかける少女」など、アニメ映画史には欠かせないお方。残念ながら昨年夏に亡くなられたのですが、私にとっては永遠に風景画の心の師です。何度山本さんや男鹿和雄さんの絵を見ながら模写に挑戦したことか。
神戸ファッション美術館、ちょっと遠いから気持ちが元気なときじゃないと行けなくて…先送りにしているうちに会期終了間近。なんとか気合いを入れて出かけました。
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神戸ファッション美術館は展覧会の値段も良心的だし、割引優待あるのでもっと近かったらな…といつも思います。10時に到着しましたが、すでに入り口付近は人で混雑していました。
作品は全て撮影禁止なので、購入した絵はがきを織り交ぜながらの感想にお付き合いください。
まず驚いたのが、その精密さ。アニメーションの原画なのでほとんどがA4サイズくらいなんですけど、印刷物では見ることができない細かいタッチの発見が、原画にはありました。特に草木の表現がすごい。「緑って200色あんねん」では足りないくらい、多彩でいてまとまりのある色感。勉強になります。
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山本さんといえば「二三雲」と言われてるほど雲を描く名手ですが、私はそれと同じくらい草花の描き方が好きで。特にもののけ姫のシシ神の森の、神聖さが伝わってくる色合いが大好きです。近くに人がいないのをいいことに何回も行ったり来たりしていました。
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そしてやはり「雲」の描き方。展示室の最後に山本さんが雲の書き方をデモンストレーションしている動画が流れているのですが、頭でわかっていてもいざ手を動かすとそうはならんくて、何度も歯痒い思いをしました。どれだけ描けばあの領域に辿り着けるのか。
特に夏の入道雲の、空の描写だけで感じる夏の温度。「時をかける少女」の背景画は、どれもあの夏の日々の空気が伝わってきます。
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あと個人的に、3人が野球してるグラウンドの奥のマンションの書き込みが半端なかったことを、ここに記しておきます。これは展覧会行くまで知らなかったのですが、山本さんは高校時代に建築を学んでいたらしく、だから建物の描写もこんなとんでもねぇのか!と納得です。
晩年は故郷である五島列島で製作を続けられていたそう。故郷の風景画は、アニメーションの背景の絵とは違う、現実の空気感を感じる作品でした。微妙な色の明暗やタッチの柔らかさで、纏う空気感の使い分けが描けるの凄すぎます。
最後に関係者の方からのコメントがいくつか展示されていたのですが、ジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんのコメントに「山本さんがAKIRAのアニメーションチームに加わっていたのを火垂るの墓に引っ張ってきて良かった」と書かれてて、AKIRA好きとしては「それはそれで見たかったんですけど!」と思いました。
男鹿さんをはじめ新海誠監督や押井守監督からのコメントもあり、本当に日本のアニメーション美術に欠かせない存在だった方なんだと実感しました。
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会期終了が近づくにつれ「しんどいしやめとこかな…」と思っていたのですが、行って良かったです。
インプット完了したので、買った絵葉書で久しぶりに模写に挑戦したいと思います。