山内マリコー「あのこは貴族」
まず映画を観て、原作を購入しました。
なにか派手なストーリー展開があるわけではなく、ただ淡々と進んでいく物語。結末も、登場人物それぞれが自然の流れで行きついた生き方が描かれています。
そして、物語の舞台、描かれる東京がとても美しく、切なく、遠くも近くも感じる作品になっています。
地方出身者、東京出身者、既婚、未婚、恋人の有無、夢の有無。
全く異なる人生を生きているけれど、同じ空の下で暮らしているということを静かに見せてくれる作品だと思います。
誰のどの生き方も責めていないところもいいなと思います。
隣の芝生は青く見えるという言葉があるけど、一見羨ましく見える人生であったって勝ち続けているわけではないということを教えてくれます。
開業医の父を持ち、渋谷の高級住宅街で育ち、親のコネで一流の会社に入社した主人公ですら、勝ち続けていない。
結婚を考えた恋人にフラれて、お見合いで見つけた男は、別の女性を10年近くもダラダラと名前のない関係を持ち続けている。
人生はこうあるべきた。親友とはこういう仲であるべきだ。女は、男はこうあるべきた。私たちは、知らない間にこの見えない定義に縛られて生きているところがあるのではないでしょうか。
この作品は、そういう分かりやすい定義を完全に無視しているところがいいと思っています。白黒をつけたがる私にとって、言葉で表すことのできない「すきま」があるということを教えてくれた作品です。