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DNAじゃけん 『孤狼の血』 柚月裕子 作

おすすめしていただいてから、1ヶ月以上経っちゃいました。
ちょっと本番とか色々あって、時間があまり取れなかったのです。お許しを。
映画でも小説でも、あまりヤクザものに触れてこなかったので、すごく新鮮に楽しめました。
全然話変わりますが、ゲーム『龍が如く』の英語版のタイトルが『Yakuza』なの面白くないですか。最初知ったときそのストレートっぷりに笑っちゃいました。

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが……。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく――。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322407001319/

シリーズ全3作の内の、今回読んだのは第1作目でした。
思った以上に、序章!という感じで、けっこうびっくりしました。
シリーズ物と言えど、なんやかんや1冊の本の中で大きな問題の1個や2個は片付くかと思いきや、より大きな謎が生まれつつ、これから始まる物語の壮大さを見せつけられました。
ただ、そこはやはり柚月先生の実力に感服。それだけ序章感が強い1冊でありながら、これだけでも十分に面白いと思える登場人物たちの存在感と、物語の面白さ。

警察とヤクザのお話とわかり、かなり重厚でハードな読み物かと思いきや、テンポのいい会話も多く、リズムに乗るとスイスイ読めてしまう、そんなお話でした。
作中舞台が広島で、多くの人物が広島弁を話しているので、柚月先生も広島出身なのかと思っていたのですが、全然東北の方でした。
いくら文章だからと言って、自分の血に馴染んでいない方言を巧みに操れるというのは、本当に凄いことだと思います。
私なんて、関西出身なのに関西弁が碌に喋れません。
ただ、広島弁には実は少し思い出があって、私の母親の出身地が広島なのです。といっても、私が生まれた頃には母方の祖父母は東京に引っ越しており、私が広島を訪れたのは、中学校のなんたら学習のみでした。
子供の頃、母親が何かしらでプッツーンとなり、怒鳴る際「〜やろ」とか「〜やないか」といった喋り方をしていたのを覚えています。
普段関西弁を話さないのに、なんで怒ると関西弁になるんだろう?と、子供の時は不思議に思っていましたが、今思うと、あれは広島弁だったのでしょう。

母から聞いた昭和の広島は、特に彼女の生まれ育った地域は、虎狼の血よろしく、当たり前のようにヤクザの影が見える、そんな場所だったと言います。
祖父が話している厳つい男の人が警察なのかヤクザなのか母にはわからなかったことが何度もあると言っていました。
もちろん、すべてがそうかどうか知りませんが、実際にそういう世界が、歴史の地続きに存在していたのだと気付かされます。

みなさんも「警察24時」だったり、そういったドキュメンタリーで、どちらが警察なのかわからないような、そんな暴動と鎮圧の図を見たことがあるのではないでしょうか。
この物語でも、そんな捜査二課という、いわゆるヤクザ、暴力団、最近では反社会的勢力とも呼ばれる人たちを捕まえるための警察たちがメインとなって動いています。

私はそもそも、体育会系とか漢の世界みたいな雰囲気が苦手です。
意識していたわけではありませんが、振り返ると、なるべくそれらから距離を置いて生きてきたなと思います。
また、平和ボケ人間なのでダークヒーローというものもなんとなく受け入れ難い部分があります
ダークヒーローになれるだけの力があるなら、ヒーローを目指せばいいのにとか思っちゃいます。
そんな私が、今回なにより悔しいと思ったのは、それでもこの物語を読むと、大上という刑事をかっこいいなと思ってしまったことです。
大上は主人公日岡の上司であり、バディであり、不良警察です。
平気でヤクザと懇意にしたり、服務規定違反を行います。
はっきり言って、苦手です。好きになれません。
でも、悔しいかな、かっこいいと思ってしまう自分もいます。これはもう間違いなく柚月先生のせいです。あと、主人公である日岡のせいです。

今回、表紙の絵をジッポライターにしようと思ったら、そもそも本物の表紙がジッポライターでした。
そうだよね!やっぱそれだよね!
日岡が物語の中で何回も100均のライターを点けられずに苦戦しているのを見て、子供の頃お土産屋さんにたくさん売っていたライターを頑張って点けようとカチカチしていたのを思い出しました。

この物語が昭和63年、つまり1988年。
暴力団対策法の成立が平成3年、つまり1991年。
物語は、社会における暴力団の意味合いが大きく変わっていった時代のうねりを受けて行くのでしょうか。
『狐狼の血』シリーズがどう動いていくのか、非常に楽しみな序章でした。

改めて、おすすめしてくださって、ありがとうございました。



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