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ferm LIVING Stories vol.49 芸術家 Kethevane の家

今回ストーリーを語ってくれたのは、パリの芸術家 Kethevane Cellard。
写真から漂う静かな彼女の時間に身を委ね、ゆっくりと話に耳をすませてストーリーを読み進めていってくださいね。

〜 パリ郊外、芸術家の暮らす家 〜

Kethevane Cellard は、Arcueil にある個性的な家で制作に取り組んでいる自然主義的なスケッチや木彫で知られるパリの芸術家だ。

Kethevane Cellard / 芸術家

パリ郊外の Arcueil に100年以上昔に建てられた、元は木工所として使われていた一軒の家がある。現在は剥き出しの赤レンガや大きな天窓、鉄骨の梁といったインダストリアル・ロフトスタイルの家として、芸術家 Kethevane Cellard と彼女の夫 Matthew、二人の息子、そして二匹の猫が暮らしている。

Kethevane Cellard の家を訪れた経験からすると、彼女の独特な家を理解するためには、まず彼女の芸術を理解する必要があると言える。この二つは疑いようもないほど繋がっており、Kethevane の芸術的表現への道のりは容易ではないのだ。
Kethevane はアートスクールを卒業後、およそ15年間グラフィックデザイナーとして働きながら自身の芸術的な声を見つけようとしていた。


(Kethevane)
長いこと絵を描いてきましたが、なぜか満足のいく結果は得られず。それが凄くもどかしくて。2015年に遊びとして木を掘り始めたら、すぐ夢中になりました。私の想像の中に何かが降ってきて、命を吹き込みたいと思う形を描き始めたんです。

Kethevane の真言は「スローダウン」で、これは自身の芸術活動にも影響している。Kethevane にとって芸術とはゆっくりと正しい考え方を探すことなのだ。


(Kethevane)
姿形を探すとき、私はポジティブな気持ちで臨みます。つまり、批判的な気持ちでは創作することはできないということ。そのような気持ちは、ワイン片手に友人と熱く語り合うには向いていますが、芸術には向いていません。


インスピレーションは、自分が「現実の世界」と呼ぶものからやって来るのだと Kethevane は教えてくれた。彼女の作るものは、異なる傾向、価値観、そして憧れを一つにする過程で生まれている。

(Kethevane)
歴史、経済、科学といった様々なトピックの本や記事を読んだり、podcast を聞いたりしています。植物や動物、菌類から学ぶことは、まだまだたくさんあると思っているので。だから私の想像の中には、未発見の水中生物やカラフルな昆虫でいっぱい。人類の歴史への好奇心も強く、先史時代の美術や道具類の形など、生命力を感じるものも私の栄養になっています。

よく知られているように、芸術は一筋縄ではいかない。インスピレーションが降ってこない日もあるのだと Kethevane は話す。しかし、本を読み、メモを取り、ノートにスケッチをし、絵を描くなど深い思想に耽っているうちに、ついにアイディアは湧いてくるのだ。

彼女の仕事部屋兼リビングには大きなピンボードがある。
Kethevane は、どの方向に進むべきなのか、また、どんな形に命を吹き込むのか視覚化するために、あらゆるものをいつもここに貼り付けている。次の作品を決めると、彼女は辛抱強く万年筆で新たな形をスケッチし、鑿(のみ)で丁寧に木を掘り、形を取り出す。

Kethevane は幼少期の大半をフランスの片田舎で過ごしたので、彼女にとって植物や緑に囲まれた環境は重要。3年ほど探し歩き、パリ郊外の Arcueil でKethevan 一家は求めていた平穏と静寂を手に入れた。


(Kethevan)
パリの中心部からメトロで15分という距離なのに、都会にいることを忘れてしまいそうです。私たちの家は通りから奥まったところにあり、長年にわたり多くの植物や数本の木を植え、育ててきました。今ではたくさんの鳥や昆虫たちがこの庭に住み着き、池には30匹以上の金魚たちが暮らしています。ここは都会の喧騒から離れた、私たちのサンクチュアリになったんです。

以前は木工所として使われていたこの家に、一家が引っ越してきたのは7年前のこと。工業地帯だったこともあり、深い赤みを帯びたレンガ、鉄骨の梁、そして天窓が個性的なこの家には、幻想的な日の光が一日中降り注いでいる。

しかし Kethevane がこの場所に惚れ込んだのは、その部屋の広さだった。この家の中枢は、Kethevane の作業場でもある広々としたリビングだ。


(Kethevane)
この家の中心は、私たちがリビングとして使っているこの広くて開放的な空間です。以前はここに重厚感のある機械が置かれていました。心地よいクッションの間に座って風に揺れる木々を眺めたり、薪ストーブのそばのお気に入りの場所でお茶を飲みながら丸まったりするのが大好きなんです。この雰囲気は家族と過ごしたり友人と集まるのに理想的ですが、家の中が静まり返っているときに仕事をする場所としても気に入っています。

インテリアについても Kethevane は自分自身の美学に忠実で、家の中にあるものは全て然るべき場所に収まっている。彼女の言葉を借りればそれは、「乱雑で視覚的に刺激が強くなりすぎるリスクを打ち消するため」。
そのため、オブジェも家具もそれぞれが丁寧に選ばれている。


(Kethevane)
この家に迎え入れるものはたとえモダンなものであったとしても、タイムレスなエッセンスを求めます。素材の質感も私にとっては重要なことで、手触りが良くなければなりません。あと、不完全なものも大歓迎ですね。小さな欠点というのは人生の一部であり、完璧なものに比べて、より面白みがありますから。

あなたにとって家とは何かと尋ねると、彼女は体を外らせながら静かに考え、こう答えた。


(Kethevane)
私にとって家は安らぎと休息を得ることのできる場所ですが、友人を迎える場所でもあります。どちらも「家」を感じるうえで私にとっては大切なこと。それに、常に進化し続ける私のアートコレクションがこの家にはあります。アートを買うための予算はあまりありませんでしたが、持っている作品を他のアーティストと交換したり、買ってもらったりしています。私のコレクションは版画、数枚の原画、陶器、紙の作品などが混在しています。自宅での展示の仕方は主観的なものですね。この二つは互いに会話しているようで、とてもしっくりくるんです。

パリの空の下、リンネル生地のソファーに腰掛け Kethevane の製図台やたくさんの画材を眺めていると、至るところから発せられるクリエイティブな魂に圧倒されてしまう。木と紙が美しい芸術作品として命を吹き込まれるこの古い木工所が Kethevane の作業場になったのは、ほとんど運命的な出来事だったのかもしれない。

***



いかがでしたでしょうか。

明るく光溢れる家が多かった中で、今回のストーリーの主人公 Kethevane さんの自宅(兼アトリエ)は、深い森の中に迷い込んだような感覚にさせる不思議な家でした。

「家を理解するために、彼女の芸術を理解する」

壮大に聞こえますが、これはきっと私たちにも言えること。家と人のつながりを表す、本質だなと思います。木々のさざめきの中に静寂を見出し、都会と程よい距離にありながら開放的な空間の中、庭の住人とともに平穏に暮らす。人それぞれの「平穏と静寂」にも触れられた気がしました。

これまで色々な個性を持つ家をご紹介していきましたが、その中でも彼女のこの家はちょっと異色で、家と彼女の目には見えないつながりがとても色濃くにじみ出ていて、心が少しざわめいてしまいました。

次回もぜひお楽しみに。


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