「アフリカの夜」⑩有香と礼太郎のすれ違い

「アフリカの夜」は23年間、私の心に沁み続ける。
八重子と礼太郎のキラキラした雨の夜、公園のちりめんじゃこのシーン。こちらが出会いなら、有香と礼太郎は別れだ。

特に好きなのは、エキサイティングパブアンカレッジのシーン。

○沖縄のホテル・客室・中(夜)
風呂上がりの有香、受話器を耳にしている。
有香「アタシ」

○パブ・ホール・中(夜)
礼太郎、緑に腕を組まれている。
ホステス1,2。
賑やかな店内。
礼太郎「調子どう?」
以下、適宜、有香と礼太郎のカットバック。
有香「今どこ?」
礼太郎「え……?もしもし?」
ホステス1「じゃあ、アタシは部長!」
ホステス2「アタシは課長!」
礼太郎「(聞こえない!?)もしもし……?ちょ、ちょっとゴメン」
と、席を立つ。
有香「(ムッ)……」
礼太郎「ごめん、ごめん」
有香「こっちは快適よ。離れてみるのもたまにはいいかもね」
礼太郎「早く帰って来いよ」
有香「……」
礼太郎「仕事、頑張れよ。水ようかんいっぱい食べないとならないんだから、甘いもん苦手だからさ……」
有香「仕事だもん。十個でも百個でも食べるわ」
礼太郎「(聞き取れず)も一回言って?」
有香「……」

大石静「アフリカの夜」第4話より

CMに抜擢されて沖縄ロケに行った有香。仕事が終わって、礼太郎に電話をかける場面だ。

八重子がメゾンアフリカに引っ越してから、有香と礼太郎は何か歯車が合わなくなってきた。有香も、それは分かっている。そんなタイミングで、仕事の大抜擢、ここから大躍進できるかも……
CMの仕事が決まって、礼太郎と決別しようとしてきた。出かける前には、やって来た礼太郎を部屋に上がらせず、距離をとろうとしていたのに……

仕事が終わって、ふと電話を見ると、礼太郎の顔が浮かんだ。そんな時に掛けた、魔が差した電話なのだ。

なのに、である。

有香「仕事だもん。十個でも百個でも食べるわ」
礼太郎「(聞き取れず)も一回言って?」
有香「……」

沖縄ロケで嫌になるくらい水羊羹を食べたシーンがあった。それでも、愚痴を言うでもなく、笑顔で食べ続けた有香。その頑張りはプロそのもの。

CM撮影で一番大変で頑張ったことを話しているのに、聞こえないだと!?
しかも、エキサイティングパブでのホステスのバカ騒ぎが原因で。
レ~タと別れる、有香がそう決めた瞬間だった。いわゆる「別れの瞬間」だ。

有香が沖縄から戻ってくる日。礼太郎は空港まで迎えに行くが、スタッフに囲まれている有香を見て、身を引く。有香がそんな礼太郎を見つけて……

○空港・展望台
有香と礼太郎が話をしている。
礼太郎「ホント、華やかで近づきがたかったんだ……」
有香「華やかじゃいけないの?」
礼太郎「ハァ、良いことだと思ったよ?」
有香「じゃあ、どうして帰ったの?スタッフだって、男が迎えに来たくらいじゃ、驚かないわよ」
礼太郎「……」
有香「仕事頑張れって言ってくれたの、あれ、ウソだったの?」
礼太郎「ウソじゃない……」
有香「でも、仕事してるアタシには近づきたくないってことでしょ?アフリカの部屋で一緒にうだうだしてるのはいいけど、仕事のスタッフに囲まれて、仕事の顔しているのはヤダってことでしょ?」
礼太郎「違うよ」
有香「違わない!レイタは、朝からきっちりご飯なんか作って、アタシなんかと違って味噌汁作るしっとりした女が好きなのよ!それがいいんだったら、アタシそうなる!仕事なんか辞める。ご飯だって作る。羊羹なんか要らない」
と、お土産の羊羹を投げる。
礼太郎、羊羹を拾いながら。
礼太郎「こら。食べるもの投げちゃいけません」
有香「いいの!鶴亀屋の羊羹とも、もうこれっきり。レ~タのためだけに生きる」

大石静「アフリカの夜」第5話より

このシーンも最高。
前半では、有香は礼太郎に突っかかった言い方をしている。「華やかじゃいけないの」とか。八重子の特徴である「朝ご飯をきっちり作る女がいいんでしょ!」とか。

このトーンですれ違うのかと思いきや、突然、「それがいいんだったら、アタシそうなる!」って!?こういう、予想を裏切るパターンがいい。アフリカはそれが多い。

土産の羊羹投げ出すという有香の子供っぽさが、かわいい。それを「こら。食べるもの投げちゃいけません」と、母親っぽく言う礼太郎も。これは、「王様のレストラン」で千石さんが「アローモンベベ」とフランス語の
幼児語を使うのと同じ。おもしろかわゆい。

しかも、これだけじゃ終わらないのが大石さん。

礼太郎「……ホントにそれでいいの?違うだろ?有香が望んでる人生は、男のために生きる人生じゃないだろ?よく考えてみろよ?」
礼太郎「どんな思いをしたって、有香は表現していきたいんだろ?いつか、大勢の人の前で、輝きたいって思ってるんだろ……?思うように生きろよ」

大石静「アフリカの夜」第5話より

ハイ、来た!「道は開かれている」の主題。

礼太郎「(遮り)俺は,有香が俺のせいで、輝きを失うことが一番辛いんだよ……」
有香「……分かった。アタシ達、もう、ダメなんだ」

大石静「アフリカの夜」第5話より

礼太郎は、このセリフを本気で言っている。そういう奴だ。だけど、このカッコイイ言葉で、もうダメなんだという有香の感覚も鋭いし、見ている人は、なるほどな、と唸る。

結論
危機のあと、フェイクでかまして、クスッと笑わせたら、ドラマの主題

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