「アフリカの夜」⑧江古田商店街

ドラマ「アフリカの夜」。なぜ23年も前のドラマに、今でも惹かれるのか。それが知りたくて、ドラマの文字起こしをしている。

このドラマの大筋は……
①礼太郎と八重子と有香の三角関係
②みづほの葛藤
  逮捕されるか、時効を迎えるか、自首するか
③八重子の成長
 元婚約者火野史郎=カタログ人間からの精神的脱却
④有香の葛藤
 仕事と男
⑤八重子と有香の友情

そして6つ目が、「おかずの丸ちゃん」存続問題だ。
1999年は過渡期だった。個人商店が残って欲しい、私も思っていた。あれから23年どうだろう?郊外型ショッピングモールの台頭で、市街地のデパートさえ潰れる時代だ。個人商店なんて、一周回って観光地になるくらい。

「おかずの丸ちゃん」は江古田商店街にある。同じ商店街の豆腐屋さんも銀行にとられそうになるシーンがある。礼太郎は、大企業には適当なコンサルティングをして、それで稼ぎ、個人経営の店の相談には現物支給でのる。

○大手企業の会議室
企業の幹部を前に説明している礼太郎。
礼太郎「これが『よりよい経営のための3原則』になります。原則1、『実行するものが計画せよ』、2,『人を変えれば組織は変わる』、3、『何にでもあてはまる原則はない』……。ではまず、原則1からご説明させていただきます……」

大石静「アフリカの夜」第1話より

○大手大企業の会議室
『名古屋』と大きく書かれたボードの前で、企業の重役を相手にまくし立てている礼太郎。
礼太郎「今、御社が戦略的に新絀すべき戦略的拠点は、正に名古屋!わたくしの方でもマーケティングポテンシャルのリサーチを重ねに重ねてみたんですが、御社の戦略的判断は、全く正しい!」
扉が開き、社長が恭しく登場する。
礼太郎「社長!(ボードを叩き)名古屋ですよ、名古屋」
社長「名古屋ね……ワシは長野もいいと思ったんだけどな」
礼太郎「(素早く頭を回す)そうです、これからは、長野(ボードに長野と描き)長野と名古屋のポテンシャルが大きいわけであります。名付けて“NNストラテジー”もう、これしかないでしょう!」
なぜか、一同、「おおっ!」と納得。

大石静「アフリカの夜」第2話より

この適当な感じが、礼太郎らしい。それなのに、なぜか重役が納得するのがおかしい。

その直後のシーン

○江古田商店街・小さな豆腐屋・店内
豆腐屋の夫婦と話している礼太郎。
豆腐屋「いろいろと御指導、ありがとうございました」
礼太郎「お宅のような美味しい豆腐屋さんが立ち行かないような日本では寂しいですから、頑張って下さい」
豆腐屋「これ、今朝出来たよせ豆腐なんですけど、今日中に召し上がって下さい」
礼太郎「いつもすいません。楽しみだな」
豆腐屋「こちらこそ、ご相談料も遅くなってしまって」
礼太郎「そのことは、どうぞご心配なく。では又(出て行く)」
豆腐屋「(見送る)」

大石静「アフリカの夜」第2話より

個人商店がなくなるかもしれない場面、店主があらがう場面が、切なくなる。

○公園
礼太郎とみづほが、ベンチに座って話している。
礼太郎は、長崎コロッケを食べながらみづほの話を聞いている。
みづほ「あんたは偉いね、いい加減に見えるときあるけど、小さな商店街の味方してくれてさ」
礼太郎「そんな正義の味方みたいな言い方しないで下さいよ」
みづほ「正義の味方じゃないの?」
礼太郎「タダ僕は、自分が美味しいと思う店は、つぶしたくないんです」
みづほ「ウチの店はどう?」
礼太郎「ええ(にっこり)」
みづほ「あたしもさ、あの店だけは、お父ちゃんに残しておいてやりたいのよ。あの人には感謝してんだわ、あたし。だから、あたしはどうなっても、あの店が、銀行に取り上げられるようなことだけはね」

大石静「アフリカの夜」第2話より

礼太郎の個人商店へのまなざしがやさしい。
みづほの逃亡直前、シンクロするように個人商店問題もヒートアップする。

○商店街・“おかずの丸ちゃん”・店内
みづほ、良吉が銀行員と話している。
みづほ「アンタ、ウチの店が潰れるの、待ってんの?」
銀行「ご融資いたしましたお金を、一旦お返しいただきたいと申し上げているのでありまして、潰れるのを待つって言うような、そんな……」
みづほ「何で、今になって全額返せって言ってくんのよ?大体ね、金借りてくれ、金借りてくれって言ったのは、アンタんとこの銀行がそういう風に進めたんでしょ、ね、お父ちゃん?」
銀行員「(遮り)ご決断なさったのは、丸山様ご自身でございます」
みづほ「ご自身もございますも、やめてよ」
銀行員「当行といたしましては、一度担保を御処分いただき、ゼロに返られた方が、お宅様のためだと」

大石静「アフリカの夜」第5話より

このシーンは長いディスカッションになっており、前半はみづほが銀行と対峙する。この銀行員の憎らしさ。「ご決断なさったのは、丸山様ご自身でございます」クッソー!!みづほも指摘する通り、丁寧に言われるほど腹が立つ。
この間、じっと聞いていた良吉が後半、思いをぶつける。前半、何も言わなかったからこそ、余計に熱い思いが伝わる。

良吉「俺は、コロッケ作るくらいしか取り柄のない人間だよ。じゃがいもやタマネギだって、別に胸張れるような産地モンってわけじゃないけど、じゃがいもは、ほくほくになるように、熱いうちに潰してさ……パン粉だって自家製の生パン粉使って丁寧に手作りしてやれば、美味しいコロッケ出来るんだよ。だから、町のみんなだって、喜んで食べてくれてんだ……俺はただ、総菜屋を続けたいだけで、金利だってちゃんと払って来たろ?今までそうやってさ」
銀行員「お言葉ですが、今のままの経営では、利益が上がりません。利益が上がらなければ、お宅様の負債は減りません。一度担保を処分なさって、ゼロからスタートなさる決意でしたら、当行でも何らかのフランチャイズに加盟なさる方法など、お手伝いさせていただくつもりなんですよ」
良吉「この町全部が、ファーストフードの店になりゃいいってことかい?」

大石静「アフリカの夜」第5話より

最後のセリフ。1999年のドラマでこのセリフを書く問題意識が好き。2022年そんな町ばかりだ。とくに私の住んでいる地方都市なんかは。

良吉「おい、通り見ろ、通り。乾物屋も潰れた、定食屋も消えた……銀行がバブルに踊って、バブルが消えたら、こうやってささやかな商店街が消えて行くんだよ。自分達だけ税金使って助けてもらって、助かったら途端に、小さな取引先みんな、切り捨てるのか?恥ずかしくないのか、そんなことして!」

大石静「アフリカの夜」第5話より

普段おとなしくて、主張しない良吉がこれを言うのがぐっとくる。

結論
正義を高らかに主張してグッとくるのは、普段言わなさそうな人が言ったとき。

個人商店問題は、最終回まで続いている。
それはまた別の話……


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