「アフリカの夜」⑯八重子と礼太郎のつまらないバトル

つまらないことでバトルする男女は結ばれる。例えば、「最後から二番目の恋」の吉野千明と長倉和平、「恋人たちの予感」のサリーとハリー…

「アフリカの夜」でも、八重子は礼太郎につっかかる。

第6話 キスの回数で言い合いをする。
このキスはドキッとさせる。夜の公園でみづほが居なくなった話から。

八重子「……礼太郎さんも、ふっといなくなっちゃいそうね?」
礼太郎「へっ……?」
八重子「一杯のお酒や、一瞬の空の表情、あなたには愛する物が一杯ありそうだけど、生きるってことには、そんなに執着しているように見えないから」
礼太郎「俺は、そんなにかっこよくないよ」
八重子「時や場所を越えて理解し合えるのもステキだけど、アタシは……」
礼太郎「(八重子の顔をのぞき)……キスしよう」
八重子「ヘッ……!?」
礼太郎「刑事まくぞ、行こ!」
礼太郎、八重子を引き連れ、公園から駆け出す。
警官、立ち上がる。

○夜の町
手を繋いで、全力疾走する礼太郎と八重子。
八重子「……」
礼太郎「……」
八重子「……」
刑事が八重子を追いかける。
礼太郎と八重子、店先の路地に逃げ込む。

○階段下の空き地(夜)
都会の迷宮。
息せき切らせる八重子と礼太郎。
八重子達が見えない階段の上を刑事が通り過ぎていく。
礼太郎「(息を切らせている)……」
八重子「(息を切らせている)……」
礼太郎「(八重子にキス)……」
八重子「(目を見開き)……!!」
目を閉じ、しっとりとキスする八重子と礼太郎。

大石静「アフリカの夜」第6話より

このキスシーンの流れが好き。
まずは真面目に、時や場所を越えて……なんて言っているところに、急展開で「キスしよう」。キスは意外なタイミングで

そして、史郎から警護してくれてる警官をまくために、走る!!!静の後は動。

息切らせてするキスなんて、あまりお目にかかれない。キスは意外なシチュエーションで

その後に、つまらないバトル。キスの回数を間違える礼太郎につっかかる八重子。細かい事を言い合うだけなのに、面白いシーンになるのはなぜだろう。


礼太郎「三度目だね、キスするの……?」
八重子「(1?)二度目よ……!」
礼太郎「へッ……八年前、大雨の夜、車が故障する前に、したよね?」
八重子「(顔がほころぶ)……」
礼太郎「その前に、横浜でしなかったっけ……?」
八重子「(思い出すように)……してない!」
礼太郎「(かぶせるように)したよぉ」
八重子「横浜なんて行ってないもの。誰と行ったの?あの小百合って女の人と行ったんじゃないの?」
礼太郎「(誤魔化すように笑って)根に持つタイプだな、君も……」
八重子「名前も覚えてなかったんだから、キスの回数なんて、覚えてなくて当然よね?」
礼太郎「(クソッ)……」
八重子「(階段へ駆けて)刑事さん!あれ、どこいっちゃったかな?」
礼太郎「(八重子を掴み)怒んなよ……じゃ、今から、三回目しようよ?」
八重子「イヤです!」
礼太郎「……」

大石静「アフリカの夜」第6話より

礼太郎「その前に、横浜でしなかったっけ……?」なんて礼太郎が言うからバトルになる。逆に言えば、深い関係になるためには、小さな気付き、間違えを言い合いさせたらいいってことか。

そして、八重子の「名前も覚えてなかったんだから、キスの回数なんて、覚えてなくて当然よね?」という嫌味。好きの裏返しの嫌い。好きが強調される。

最後は、いつものオチ。さっきまで逃げていた刑事を自分から探そうとするのも面白い。三回目を断るのも、閉まりがいい終り方。

八重子と礼太郎のつまらないバトル。第2話では、八重子の名前を忘れていた礼太郎が、「小百合」と苦し紛れに言った名前を否定されず、「小百合」と呼び続けるってのもあるなぁ。


結論
キスしていい雰囲気になったら、つまらないことでバトルさせる




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